第44話
遺跡を見つけてからしばらくして……拠点へ無事に帰り、遺跡のことをデルタさんに伝えると大急ぎで調査隊が組まれた。壁画を写真とかで見せることができればいいんだけど……このゲーム、写真を撮るのにアイテムがいるんだよね。
そのアイテム自体は別に高くないんだけど、私は持ってないんだよね。興味なかったから。
(イベント終わったら買っておこう……こういう時に困るし)
そんな反省をしつつデルタさん率いる調査隊を見送った私は、何かをするわけでもなく拠点の隅でポケーとしていた。ちょっと燃え尽きてるんだよね……テンションが。
(んー……思ったより遺跡探索でお腹いっぱい)
誰も立ち入ったことのない遺跡。知らず知らずのうちに興奮でもしてたのか、今の私はローテンション。最初の目的だったダンジョンに行く気力が……
「んー……生産も今は在庫が余裕だし。うーん、実験しようか」
実験室は空いてるね。なんの素材で実験しようかな……明るいしドランク・アニマプラントの素材にでも手を付けようかな?
「火の気が無ければ大丈夫」
私はみんなを連れて実験室に入った。そして実験の用意をしていく……ついでに呪いの欠片を霊結晶にしておこうか。念の為に聖水を作っておきたいからね。
「あっ」
私が霊結晶にする分の呪いの欠片を机に置いていると一個落としてしまった。ちょっと出し過ぎたかな……私は床に落ちた呪いの欠片を拾おうとした。
ニュ……シュ!
呪いの欠片を拾おうとしたら机の下から黒い触手が伸び、呪いの欠片を持っていってしまった。スチンかな?と思ったけれど、スチンは部屋の隅でヘニャ……と怠けていた。
(えっ?じゃあ誰?)
私はレモンを呼びつつ、机の下を確認した。そこに居たのは……
「ノロォ」
呪いの欠片を飴みたいに楽しんでいる黒いスライムだった。鳴き声が進化後……襲撃の時のやつでは無いね。
「あなた……何処の子?」
「ノロォ?」
黒いスライムを掴んで机の下から出す。真っ黒だと思っていたけど、明るいところで見ると濃いめの紫色で黒い紋様みたいなのがあった。
鷲掴みされてるのに暴れたりしない……マイペースなのか肝が据わってるのか。おい、机の上の呪いの欠片を食べようとするんじゃない。
(呪いの欠片を食べた感じ、呪いに関するスライムかな?)
誰かが呪いの欠片を与えて進化させた感じかも、実験の前にこの子のパートナーを探そうか……私は素材を全部片付けて黒スラのプレイヤーを探すことにした。デルタさんが居ないけど、アーカイブの他メンバーが居る。その人に手伝って貰おう。
ちなみに実験室への侵入経路については多分通気口から、そこからならスライムは簡単に入り込めるからね……
「このスライムのプレイヤーですか。分かりました。他の人にも手伝って探してみましょう」
「ありがとうございます」
「いえいえ、あなたには薬でお世話になっています。少しでも恩返ししなければ」
私は数人のプレイヤーと一緒に探して回った。しかし……
「スライム?知らないなぁ……気になってるけどイベント中に仲間にしてもな」
「第2陣なら選ぶやつも居るかもしれないけど、特にそういう話は聞かないなぁ……」
「探索してる連中にメッセで聞いたけど、誰も心当たりないって」
黒スラをパートナーにしている人は居なかった……というかスライムを仲間にしているのが私しか居ないみたい。スライム育てれば強いのにね。
「そうなるとこの子は野生のモンスターかぁ……でもこんな子居ましたっけ?」
「いえ、確かイベント中に確認されたスライムは普通のスライムと黒いスライム、あとはポイズンスライムだけですね」
んー、となるとこの子は新種のスライムか。私もこんな子は初めて見る。仮に呼ぶならカーススライムってとこだろうけど。
「倒せば名前分かるんですけど……これを見せられると倒せませんね」
「ノロォ。ノロォ」
アーカイブの人は探す道中で呪いの欠片を貰ってもちゃもちゃしている黒スラを見た。マスコットみたいな扱いされてるんだよね……
「1日目の黒いスライムの撤退のこともありますし、ココロさんはスライムと不思議な縁があるんですかね?」
「スライムの神殿所属だからですかね?」
逆にそれ以外だったら怖い。とりあえず黒スラに関しては私が監視しつつ面倒を見ることにした。一応悪魔の呪いに適応して進化した子のようだし、何かしらイベントに関係するかもしれないからね。あとこの子私から離れようとしない。
抱っこさせて欲しいってプレイヤーがいたんだけど、餅やチーズみたいに伸びて抵抗してきたからね。
「リーダー……デルタさんにはこちらから伝えておきます。一応、他のプレイヤーにも周知させておきますが……倒そうとするプレイヤーが出るかもしれないので気をつけてください」
「分かりました。実験もしたいですし、私は実験室に籠ってますね」
面倒なことを避けるために私は実験室に避難した。そして中断した実験を再開した。
「その子に関してはレモンとアセロラよろしくね」
「ビリリ!」
「メララ!」
「ノロォ?」
うちの武闘派に監視をお願いし、私は実験に取り組むことにした。プルーンも目を光らせてるから大丈夫なはず。最悪、スライムなら逃げられても走って追いつける。
(監視しながらだと、花粉はやめておいた方がいいね……)
落としたりすると充満して地獄になりかねない。ここは扱いやすい消化蜜を使おう……
「これに関してはまず、消化酵素を抜くところからスタートだね」
このままだと肉を溶かす効果付きになるからね。食虫植物の消化液ってリアルだと人間が摂取しても問題無いらしいけど……ゲームでかつ、虫どころか人も食いそうなモンスターの消化酵素だからね。確実に胃袋に大きな穴ができる。
「処理の仕方をクイラさんに教わってて良かったね……」
私はストレージから皮袋を取り出し、袋の口を開けた。中に入っているのは灰……特別なものじゃなくて普通に木を燃やした時に出るやつ。
サラサラ……
私はある程度の灰を消化蜜へ加え混ぜていく。混ぜたあとはしばらく放置し、灰が一通り沈んだらそれを濾していく……蜜で粘性があるせいか時間かかりそう。今のうちに2回目のやつを用意しておくか。
「ビリリ」
「メララ」
「ノロォ」
余所見できる時にレモンたちの方を確認したけど、レモンとアセロラは黒スラと仲良くしてた。なんかにょ〜んにょ〜んと変な踊りしてる……何かを呼び出そうとしてる?
(外ではやらないように言っておこう……変な誤解をされそうだし)
とりあえず仲良くしてるから良かった。と、最初の濾過が終わったね。
「うん、消化酵素がしっかり抜けてる」
名前も消化蜜から酩酊蜜になっている。あとはこれを薬にしていこう。酒って色々な薬に利用できるけど……まずは酩酊対策から。要するに二日酔い対策。
(酒飲みにバカ売れしそう……あんまり嬉しくないな)
シジミの味噌汁みたいな立ち位置になりそうだからね……素材的に甘くなりそうだし。激甘にでもするか。私は飲まないだろうし。
「砂糖とかないから……煮詰めて濃くしていこう。治療液は煮詰めてから入れるか」
私はじっくり弱火でコトコトと煮詰めていった。部屋にアルコールと甘い匂いが充満していく……あ、頭痛くなってくる。あんまり吸わないようにしよ。
「んー……このままだと良い感じに煮詰まる頃には、アルコールが殆ど飛んでそうだね」
これは……アルコールを追加しようか。私はツルを刻んで擦り潰し、そしてちょっとずつ足していく。そうやってアルコールを足しつつ煮詰めていっていると酩酊蜜がモッタリとしてきた。よし、ここまで来たら治療液を足して仕上げだね。ヤクゼンタケも擦り潰してから入れておこう。
「なんかカラメルみたいな色になってきた……そろそろいいか」
あとは冷やして丸薬にするだけ……そうして出来上がったものがこれ。
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酔い覚まし丸薬
効果
酩酊などの酔いを回復することができる
飲んでから10分間は酔いにくくなる
1時間で6粒飲むと酩酊(酔い)状態になる
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未成年への配慮なのか酔い全般に効くようになってる……転移酔いにも使えるのかな?あれってゲーム的なものというよりは、完全に私の体質が問題だからね。
「酩酊対策はもういいか。次は酩酊を利用した薬を……なんか外が騒がしいな」
襲撃が来たかな?流石に私も参加するか……私は素材と道具を片付けて外に出た。黒スラは逃げたり、他のプレイヤーの攻撃に巻き込まれないように抱えておく。
「さて、どの方向から襲撃してるのかな……」
私が戦っているところに向かおうとした……その時だった。
ドォォォン!!
大きな爆発音が鳴り響いた。北側の方に大きな煙が立ち上り……
「ギィィアアア!!!」
人の悲鳴のような咆哮が響き渡った。




