第5話
猿でも分かる下級回復薬の作り方。
①薬草5本を洗い、根っこを取る。
②薬草を細かく刻み、しっかりと擦り潰してから鍋へ入れる。
③薬草が浸る程の水を加え、弱火で加熱する。
④沸騰寸前まで加熱したものを濾し、容器に入れて完成。
「凄いシンプルですね」
「そういうもんだよ。下級回復薬なんて手抜いたりしなきゃ失敗しないものなんだから」
私はクイラさんの指導を元に作った下級回復薬を見た。思っていた数倍簡単にできた……ちなみに性能に関してはこんな感じ。
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下級回復薬
効果
HPを30回復させる
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説明が凄いシンプルだよね……ちなみにクイラさんから貰ってる失敗作の方はこんな感じ。
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3種複合回復薬(失敗作)
効果
HPを30%回復
軽度の毒、麻痺を治療する
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レベルが違う……回復量が固定値じゃなくて%で、しかも状態異常も回復するっていうね。
「まずはこの下級回復薬を50個作ってみようか。材料と容器の瓶は倉庫に置いてあるから自由に使ってね」
「分かりました」
私は早速作業に取り掛かった。ライムは私の作業を見ながら回復薬を飲んでいく……lv上げのためだから。決してライムはサボってる訳じゃないからね……
「ところで作った薬はどうすれば良いですか?」
「好きにして良いよ。溜め込むなり売るなりね。テイマーギルドに持っていけば下級回復薬でも買ってくれると思うよ」
材料費や容器代は気にしなくても良いとのこと。成功物で得たお金が有り余ってるのと、下級回復薬に使う薬草はあんまり実験には使わないから、腐る前に消費して欲しいんだとか。
「使わないとはいえ定期購入の契約しててね……解約するのも忘れてて溜まってるんだよね」
「えぇ……」
私は呆れつつも手は止めずに薬草を切り刻んでいく。ちなみに2本分纏めて作製することはやめておいた方が良いとのこと……大釜とかで一気に作るなら兎も角、中途半端な大きさの鍋でやろうとすると沸騰前に薬草から余計な成分が出てたりするんだとか。
「下級回復薬は1種類の素材でできるから良いけど、2種類3種類必要なものはもっと怠いよ……失敗しないようにするには欲張らないのが大事だよ」
小さなことをコツコツと。クイラさんは言い聞かせるように伝えてくる。
(欲張らない……コツコツと頑張る……)
私は心の中で復唱しながら手をひたすら動かしていった。一気に作れないなら加熱中は見るだけになるし、薬草の方を刻んだりして準備を進めてしまおう。無駄な時間は作らない。
「できるところで効率化しよう」
さぁ、どんどん作っていこう。私の生活のために!ジワジワ削れた所持金を増やすため私はガンガン下級回復薬を作り続けた。しばらくやっているとピロン♪という音が聞こえてきた。おっ、この音は……
『称号:見習い調薬士を獲得しました』
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見習い調薬士
▷効果
指導を受けている間、調薬の失敗率を5%減少
指導が終了すると消失する
▷取得条件
指導を受けながら調薬を行い成功する
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新しい称号ゲット。消えちゃうみたいだけど……同時に新しい称号貰えるのかな?
(なんか……私が持ってる称号消えちゃうの多いな)
新人テイマーはしばらく残るだろうけど。ライムの《食育》じゃプレイヤーの方は上がらないみたいだからね。
「未だにlv1なの私くらいでしょ……」
lvが上がるのはいつになることやら……私はそんなことを思いつつ作業を進めていった。
◇
『個体名:ライムのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
「わっ!?ビックリした……」
「ん?なんかあった?」
黙々と作業していると不意に頭の中にアナウンスが鳴り、手元が狂いそうになった。危うく容器を落とすところだったね……称号の時と違っていきなり来たから本当に驚いた。
「いえ、急にライムが進化できるって頭に聞こえたので……それで驚きました」
「あー、天の声か。あれ不意に鳴るからビビるよね……」
あぁ、アナウンスってこの世界でも認知されてるものなのね。クイラさんから手を止めて確認してみな?って言われたので、ライムのステータスを確認する。種族のところに進化可能ってあったからそこをタップしてみる。
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進化先
▶︎ラージスライム
大きくなり質量が増えたスライム
その巨体と重さを活かして戦う
大きくなったことで動きが遅い
▶︎メディカルスライム
治療効果のある体組織を持つスライム
自身の身体を使った治療を得意としている
戦闘能力は下がってしまっている
▶︎ニートスライム
半分溶けかかっている見た目のスライム
動かず獲物が近くを通るのを待ち伏せし戦う
弱いため大体は負けて食べられる
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上が正当進化。下2つが経験に基づいた進化かな……1個変なのあるけど。
(なんだニートスライムって……)
戦闘させないとこうなるのかな?どう見ても地雷の香りがするからこれは選ばない……逆に選ぶ人居るの?
「ラージスライムはデメリットの方が大きそうだし。メディカルスライムにしよう」
私はメディカルスライムを選択した。ライムの身体が淡い光に包まれていき……光が消えると薄緑色の身体になっていた。あと若干縮んだ気がする。
「メキュ!」
「あっ、鳴き声も変わるのね」
さて、どんな感じになったかな?
▽▽▽▽▽▽
ライムlv1/20
種族:メディカルスライム(第1進化)
HP:45/45
MP:60/60
スキル
《悪食》《打撃耐性・Ⅰ》
《薬液作成・Ⅱ》
HPや毒、麻痺を回復させる液体を生成
《医療術・Ⅰ》
回復効果を1.25倍にする
治療行為で経験値を得られるようになる
△△△△△△
HPとMPの上昇はそこまでだね。《食育》が消えたのは進化したからって感じか……注目するのは追加されたスキルだね。
「メディカル……治療に秀でたってことか」
単にHP回復効果じゃないのは与えていたクイラさんの失敗作の殆どがHP回復と状態異常の回復効果を持っていたからかな?
「へぇ……メディカルスライムに進化したんだ。普通のスライムからなんて珍しい……」
進化したライムを見たクイラさんは「ほへぇ……」と息を吐いていた。なんでもメディカルスライムは様々な薬の材料になる薬液を出せるため、薬を作る人間にとっては喉から手が出る程欲しいモンスターらしい。
本来はヒールスライムっていうHP回復効果だけのモンスターから進化させるのが普通らしいけど……私は一度目の進化でメディカルスライムになった。
「クイラさんの薬を与えてたからですかね?」
「さぁ?私の薬をスライムに与えたことなんてないから分からない……一応テイマーギルドに報告しとこうか」
こういった特殊な進化とかはテイマーギルドに報告するのが良いらしい。テイマーギルドが勝手に調べてくれるから……他人任せかい!
「私としてはヒールスライムにしてパートナーとの作成を教えようと思ってたんだけど……まぁ、メディカルスライムでも変わらないか。とりあえず今日はひたすら下級回復薬作ってて」
「分かりました」
ライムが進化してもやることは変わらない。私は再び作業へと戻っていった……