第42話
「キャラの名前はチェリーって言うのね……そのまんまじゃん。容姿も髪と目を桜色にしただけだし」
「それココロちゃんに言われたくないな〜。名前そのままじゃん〜」
拠点に帰る道、私は桜……チェリーと話しながら歩いていた。モンスターはレモンとアセロラがサーチ&デストロイで倒していくから安全に進めている。
「あのちょい悪系の2人?あの人たちも嫌だったけど〜。口論してた相手の人、あの人もしつこかったんだよね〜。同じ拠点に居て凄い勧誘してきたの〜」
「あいつもチンピラと同じかい……いや、下手すると事案度は上か」
あそこでチンピラに絡んだってことは、普通にストーカー行為とかしてそうだし。
「しつこいようならGMコール使いなよ?無闇矢鱈と使ってないなら、ちゃんと対応させると思うし……てかなんで中堅のところにいたのさ?始めたてであそこに行くの無理があるし」
「あ〜、あそこの近くにね仲間を増やすための祠があるんだよ〜。そこに行こうとしてたら絡まれちゃったんだよね〜」
成程ね。イベント中に仲間増やす方法、ちゃんと用意されてたんだね。私はイベント中に行くことないと思うけど……
「チェリーのパートナー……そのトーテムポールだよね?」
「そうだよ〜。ミステリーアーティファクトのインディーって言うんだ〜」
チェリーが紹介するとインディーは目をチカチカと点滅させた。あぁ、意思疎通の方法はそんな感じなのね……
チェリーによるとミステリーアーティファクトは遠距離攻撃に秀でたアーティファクト系統で、インディーは風属性を得意としているらしい。なお、トーテムポールを選んだ理由は……
「なんかピンと来たから〜。次はモアイ像にするつもりなんだ〜」
またユニークな見た目のモンスターが増えるのね。スライムばっかの私が言える立場じゃないけどさ……スライムもユニークな方のモンスターだし。
「にしてもココロちゃん〜。その格好はだいぶ攻めてない〜?学校の皆が知ったらびっくりすると思うよ〜」
「仕方ないでしょ。そういう装備なんだから……」
白衣で多少はマシになってるし。白衣無しだったら流石に耐えられてないよ……
「と、到着したね。ここが私の拠点だよ」
「わ〜、私が居たところよりもちゃんとしてる〜。私のところ荒屋しか無かったんだよね〜」
拠点に到着し、拠点の様子を見たチェリーは前居た拠点を思いっきりディスった。まぁ、ここはプロの手が入ってるからね……とりあえずデルタさんに帰ったことを伝えに行こう。
「おや、ココロさん。お帰りなさい……そちらの方は?」
「私の知り合いです。面倒ごとに巻き込まれていたので連れてきました」
「よろしくお願いします〜」
挨拶の後、チェリーは拠点内を見て回ると離れていった。私はデルタさんにダンジョンの報告とチェリーの騒ぎについて話しておいた。
「ドランク・アニマプラントは今日発見報告が出てきましたね……お酒好きのプレイヤーが消化蜜を飲んで死に戻ってます」
「その人馬鹿なんですか?それとも自殺志願者なんですか?」
無加工だと塩酸とか硝酸を飲むのとなんら変わらないのに……酒飲み怖。あとデルタさんの方からチェリーの騒ぎの顛末が聞くことができた。
酩酊状態になったプレイヤーたちは全員死んだりはしていない。言い争っていた3人は白けたのか、それぞれの拠点へと帰って行ったらしい。まぁ、中年男性の方は拠点で針の筵状態らしいけどね。何せチェリーをストーカーしてたことがバレていたらしい。
「自業自得ですね……」
「そうですね。その男性セクハラもしていたらしいので、そのうち女性陣に追い出されそうですね」
「うちには入れないでくださいね?面倒ごとは嫌ですから」
「分かってます」
次に私が居なかった間の拠点の情報を聞いた。まず私が居なかった間に拠点にモンスターたちが襲撃、襲ってきたのはスライムを除いた昨日のモンスターたち、そこに中堅のダンジョンに出現するモンスターの黒くなった個体が数体紛れていたとのこと。
「昨日の反省を踏まえて防衛班を用意しておいたので被害はほぼ0で、調子に乗った何人かが死に戻りしたくらいです。問題は……」
「今後の襲撃が強化されるフラグが立ったってことですね……」
「はい……」
拠点への襲撃の回数が増えるほど、モンスターの中身が強くなる。そのうち上級者向けやボスが襲撃に紛れ込んでくる可能性も……だ、怠い。というかドランク・アニマプラントが参加したら酩酊がばら撒かれ、火を使えば大爆発って最悪な事故が発生するかもしれない。
「今のうちに面倒な能力を持つモンスターの情報を告知しておいた方がいいですね」
「それはアーカイブの方でやっています。ココロさんには引き続き薬の生産を……ゲンさんたちが生産用の個室を作ったので、新しい薬の実験もできますよ」
あー、遂に完成したんだ……隔離部屋。作られた要因が生産室で実験をした結果、周囲に被害が出たから作られた部屋。
きっかけは料理初心者のプレイヤーがイノシシの骨で出汁を取ろうとしたら、過剰に煮て、ついでに下処理してなくて獣の臭みが大量発生したんだよね。その時は私は寝てたから巻き込まれずに済んだよね……
「隔離……げふん、実験室は全部で5個。内鍵付きなのでプライバシーの配慮は取れてます。防音性は薄いですけど」
「そこまでは求めませんよ……1日で5個も建ててることにビックリですし」
ゲンさんたちの技術力よ……それじゃあ満腹度を回復するために料理を貰って、そのあとは実験室に行こうかな。その前にチェリーも探さないと……何してるかな?
「お〜……モフモフで可愛いね〜。私の子はモフモフしてないんだよね〜」
「見るからに木ですからね。お姉さんのパートナーは」
探して回るとチェリーは中央の焚き火の近くにミリアちゃんと居た。どうもモロコシをモフモフしてるみたいだね……ミリアちゃんの側には新しく仲間にしたのかウサギもいた。
(仲良くなるの早いな……まぁ、チェリーはいつもそんな感じか」
知らない人と仲良くなるのいつも早いしね。そんなことを思いつつ、私は炊き出しのスープとパンを貰ってチェリーとミリアちゃんのところに向かった。
◇
「ミリアちゃん。パートナーの名前を野菜統一にするつもりなのかな?新しい子、キャロットって名前だったし」
夜。殆どのプレイヤーが寝静まった時間帯。私は出来立ての実験室に居た。実験室は一人暮らし用のワンルームほどのサイズ。流石に炉とかは無いから生産道具を持ち運びできる生産ぐらいだね。料理は多分、調薬と同じで加熱板があるはず。
実験室に入るとレモンとアセロラは隅で寝始めた。プルーンも珍しく寄り添って寝た。ライムとスチンは実験に付き合ってくれそうだね。
「さーて、何からしようかな……ドランク・アニマプラントはダメだけど」
灯りが蝋燭。アルコールが大量に含まれた素材をこんなところで使ったら、発火して大爆発する未来が見える。
「今回使うのはこれらかな」
私がストレージから出したのはデルタさんから貰った色々な素材。私が入れなかった中堅向けのダンジョン産の素材が多い。
これらは私の薬作りの対価。このイベントでは金銭が使えないんで、生産職への報酬は素材となっている。私は薬に使えるものと呪いの欠片を貰った。呪いの欠片に関してはほぼ捨て値だから沢山貰えたね……ふっふっふっ。
(イベントが終わったら聖水に加工しよ)
ちなみに全部を霊結晶にするつもりはない。呪いの欠片自体も何かに使えそうだからね。まぁ、現状は手を付けられないんだけど。
「中堅までは普通のフィールドに居るモンスターの素材もあるんだね……」
ポイズンスネークやモススパイダー。懐かしいモンスターだね……どっちも素材を使ったことないけど、モンスター素材って地味に使いにくいんだよね。
「新規はこの2つかな。チャームマタンゴとパフュームバタフライ」
チャームマタンゴはショッキングピンクの足のついたキノコ。パフュームバタフライは目が回るようなグルグル模様の羽を持つアゲハ蝶。
それぞれ名前の通り、魅了と混乱の状態異常を扱う。魅了はかかると敵の味方になってしまう状態異常で、混乱は視界の歪みやバランス感覚の低下を引き起こす状態異常。どっちも集団戦で厄介な状態異常になる。
「今回の実験は魅了と混乱の対策の作成だね。面倒なやり方で……」
私の今までの薬は治療効果のある薬草にライムの治療液とかを合わせて作っていた。だけど今から作るのは状態異常を引き起こす元を使って作るやつ……
(このやり方は失敗すると危険だから……あんまりやりたくないんだよね)
クイラさんの実験もこっちが多かった……そして失敗しまくって爆発してた。
「毒を薬に……正反対の性質に無理矢理変えるからね。安定性も高くない」
だから普段はやらないんだよね。素材を無駄にしてしまう可能性が高いから、私みたいに自分で集める方法だと失敗が重なる方法はあんまりやりたくない。
(拠点設置型の設備なら安定させやすいから、そこまでやるつもりなかったんだけどね……)
今回は他のプレイヤーの人たちが集めてくれたから試すのに支障は無い。じゃあまチャームマタンゴからやっていこうか。まずは素材をチェック。
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チャームマタンゴの胞子
薄桃色の甘い匂いのする胞子
吸い込んだものは思考が歪み、チャームマタンゴの傀儡へと変わる
火に弱く、無害化することで高級香水等の素材となる
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無害化は加熱……やり過ぎたら薬にならないんだろうな。
「有害ではなく、かといって薬になる程度には残さないと……」
火の強さや加熱時間……色々模索しないと。
(というか……これ治療液で加熱しないとダメそうだね)
良い感じに調節しても再加熱したら意味無いからね……私は治療液に胞子を入れて混ぜ、静かに加熱していった。まずは弱火、短め……ザックリと実験して正解がどの辺かを探っていく。
「うん、全然ダメ。魅了効果がバッチリ残ってる」
私は失敗したものを捨て、1からまた実験していく。再加熱すると正しい測定ができないからね……勿体無いけど仕方ない。
「これも有害のままで失敗……これは完全無害化してる……これは焦げた……1回掃除しよ。ライム浄化液ちょっと頂戴」
「メキュ」
私は小鍋の焦げに浄化液を垂らして布で擦った。浄化液を使うと頑固な焦げも簡単に落とせる……下手な洗剤よりも強力なのに環境にも優しいんだよね。リアルで欲しいわ……
「よし、ピカピカになったね」
それじゃあ実験再開。私は無心で実験を繰り返していく……襲ってくる眠気はニトロハニーで無理矢理覚ます。
「中火で1分35秒……ここだね」
深夜テンションになりかけながらも私は最適解を見つけることができた。あとはここから薬を作っていくだけ……今の段階だとまだ微妙な感じだからね。
「同じキノコのヤクゼンタケは相性良さそう……というか混ぜて良さそうなのはそれくらいか」
ヤクゼンタケ、本当に良い素材だよね……メインの素材の効果を変化させにくいし。
「素材追加したらちょっと時間が変化したか……調節調節」
変化に対応し、私は遂に完成させることができた。
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魅了消し丸薬
効果
魅了を回復することができる
飲んでから10分間は魅了にかからなくなる
1時間で6粒以上飲むと、周囲のモンスターを引き寄せてしまう
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ちょっと面倒な副作用ができてしまった。だけどこれはこれで使い道があるよね……今度誘引剤でも作ってみようか。
「次はパフュームバタフライだね」
パフュームバタフライはチャームマタンゴの経験のおかげか、丁度いい塩梅をすぐに見つけられた。そしてそこから薬を作り……混乱消し丸薬ができた。
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混乱消し丸薬
効果
混乱を回復することができる
飲んでから10分間は混乱にかからなくなる
1時間で6粒以上飲むと、視界が歪み景色が変色する
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こっちの副作用は普通にヤバいね。さーて、あとは量産するだけだぁ……流石にこれらは人の目に見えるところで作れないし。回復薬や毒消しと違って技術の結晶だからね。
「んー……多分寝落ちして倒れるから。あとよろしくね」
「メキュ」
「ドロォ……」
私はニトロハニーを舐めて眠気を誤魔化しながら作り続けた。そして日が昇り始める頃、やり遂げぶっ倒れた。




