第41話
中央遺跡のダンジョン。これらは素材集めのためのダンジョンで短め……難易度が上がるとその分長くなるけどね。あと入るたびに構造が変化する……飽き防止?
「ボスは何種類からランダムで出てくるらしいけど……これは当たりなのかな?」
「ドラワァァァ!!」
私はボス部屋の中央で咆哮を上げる竜の頭のような花を見た。大きさは私を丸呑みできるくらいで、ヒューマンイーターのように生えてるんじゃなくて根が捻り集まってできた足が4本に尻尾もあった。自走できる植物か……ファンタジーだね。
仮称はフラワードラゴンってしとこうか。あいつの情報はデルタさんの情報に無かったし。
「ドラワァァァ!」
フラワードラゴンはドシドシと足音を立ててこっちへ向かってくる。そして右前足を振り上げて叩きつけてきた。
「ドロォ……!」
その攻撃をスチンが大きくなって受け止める。パワーはそこまで無さそうだね。あとスチンも攻撃を受け止めるのに慣れてきた……長い間、私の鎧として働いてもらったけど。ちゃんとしたタンクになれてきたね。
「ビリリ!」
「メララ!」
「ヒヤァ!」
スチンに攻撃を受け止めたところにレモンとアセロラが挟むように攻撃。プルーンが頭部に向けて氷柱を飛ばした。
「ドラワァァァ……」
手痛い反撃を受け、ドラゴンフラワーは後ろに大きく下がった。そして頭の花を膨らませ始める。あれは……もしかしてブレス!?
「ドラワァァァ!」
私の予想通り、ドラゴンフラワーが放ってきたのは薄桃色のブレスだった。あれは……花粉かな。
「アセロラ。火炎放射!」
「メララララ!」
ブレスにはブレス。アセロラの炎とドラゴンフラワーの花粉がぶつかる。花粉はボウ!と勢いよく燃えた。花粉とはいえ燃え過ぎでは?
「ん?この匂い……もしかしてアルコール?」
花粉が燃えた煙がこっちに漂ってきて、アルコール特有の強めの匂いを感じた。あの花粉……何かしらの毒とか含まれてそうだったけどアルコールとはね。
「となると酩酊か……あれって大人じゃないと弱いんだよね」
酩酊、要するに酒酔い。基本的には町の酒場でお酒を飲み過ぎた人がなる状態異常で、モンスターが酩酊状態にしてくるのは聞いたことない。
酩酊の効果はバランス感覚の低下に思考力の低下。中々に厄介な状態異常だけど、お酒が飲めない未成年は多少動きが鈍くなる程度。要するに大人用の状態異常だね。
「アルコール……何気に欲しかったんだよね」
アルコールがあれば消毒とかに使えるし。一応蒸留できる設備があれば、買ったワインとかから抽出できるんだけどね。ちなみに未成年でもお酒は買える。飲もうとするとジュースに変化するので、未成年飲酒はできないようになってる。
(酩酊は何とかなる……けど、花粉があれだけ燃えるとなると放置は危ないね)
充満してるところでアセロラが発火したら爆発しかねない。アルコール混じりの粉塵爆発……ヤ、ヤバそう。
「アセロラ。あいつが花粉を出したら燃やして」
「メララ」
私はアセロラに花粉の処理をお願いし戦闘を続けた。ドラゴンフラワーは花粉ブレスを対処されたからか再びこっちへ突撃してくる。今度は尻尾の薙ぎ払いだったが、これもスチンが受け止める。
「スチンの弾力ボディ……生半可な攻撃じゃ効かないね」
「ドロォ……」
攻撃を受け止めればレモンたちが攻撃。ブレスを吐こうとしたらアセロラが火炎放射の準備をして、吐いた瞬間に燃やした。
「ドラワァァァ……!」
戦闘が長引くに連れて向こうは疲弊していく。こっちは対処に慣れていって効率化されていった。そういうふうに育成しているからね……
「ド、ドラワァァァ……」
「そろそろトドメかな?」
攻撃を止められカウンターを食らい続けたドラゴンフラワーは見るからに満身創痍の状態に。植物故に急所が分からなくて時間かかったね……頭部も弱点じゃなかったし。
「ド、ドラワァァァ……!」
ドラゴンフラワーは最後の悪足掻きと言わんばかりに花を大きく膨らませ花粉ブレスを吐いた。あの量は燃やしたら私たちも爆発に巻き込まれそうだね。
「アセロラストップ!スチン、散水!」
私は燃やそうと発火しかけたアセロラを止め、スチンに水をばら撒いてもらった。スプリンクラーのように巻かれた水で花粉は地面へと落ちていく。やっぱり湿気があると花粉は蔓延しにくいね。
「ビリリ!」
「メララ!」
「ドラワァァァ……」
最後の悪足掻きも失敗し、レモンとアセロラのダブルアタックでドラゴンフラワーは倒れ伏した。そして素材へと変わっていく。
(モンスター名はドランク・アニマプラント……ドランクって酒って意味だよね?)
ドラゴンのドラとかけてるのかな?それはさておき、お楽しみの素材♪素材♪
ーーーーーー
ドランク・アニマプラントの酩酊花粉袋
ドランク・アニマプラントが生成する花粉が詰まった袋状の器官
アルコールを大量に含み、吸い込むと酩酊状態になる
燃えやすく、水に溶けやすい性質を持つ
ーーーーーー
ーーーーーー
ドランク・アニマプラントの消化蜜
ドランク・アニマプラントが生成する消化液
アルコールを含んでおり、甘い匂いがする
虫系モンスターは夢中になる程の代物で
捕食の際に使われる
ーーーーーー
ーーーーーー
ドランク・アニマプラントの捩れツル
ドランク・アニマプラントを構成するツル
硬くしなやかで武器に使える
高濃度のアルコールが含まれていて
煮ることでアルコールを取り出すことができる
ーーーーーー
全身アルコールの塊だったのね……これ獣系の子が噛んだりしたら、そこからアルコールが撒き散らされていたのかな?だとしたら嫌な初見殺しだね。
「スライムだからこそ配慮せずに済んだってところだね」
とりあえず素材はすごい美味しかった。戦い方も分かったし、素材のためにまた戦いたい。
「おっ、入り口に帰るための魔法陣出てきた。早速乗ろう」
そして2周目だね。他のボスも見てみたいし……何よりもう少し収穫が欲しい。
「次はどんな奴が出てくるかな?」
私はウキウキしながら魔法陣に乗った。そして入り口に転送され、2周目に突入した。
◇
「2回目のボスはハズレだね……面倒なだけで時間がかかったのに素材は美味しくなかったし」
ダンジョン2周目を終わらせ、私はダンジョンから出てきた。雑魚は変わり無し……ボスはグリーンメタル・ゴーレムってゴーレムのモンスターで、取れたのは緑鉄鉱石だけ……効果は風属性や植物属性のモンスター強化。今の私には必要無いね。
「これは鍛治士の人に渡そう。見返りで薬に使えそうな素材をいくつか……ん?」
何やら外が騒がしい。モンスターが襲ってきた感じじゃなくて……人同士の争い。
「嫌がってる子を無理矢理パーティーに入れようなど、マナー違反も良いところだぞ!!いい加減にしろ!」
「五月蝿えんだよオッサン!口出してくんじゃねぇ!」
「パートナー2匹も居ない雑魚のくせにしゃしゃり出てくんな!」
騒ぎの現場を覗き見ると、中年の男性とチンピラ2人が言い争っていた。側には私と同じくらいの女の子が居る……なぜかトーテムポールを抱えているね。
(何故トーテムポール?いや、今はそれはどうでもいいか……とりあえずチンピラがあの女の子を強引にパーティーに入れようとして、男性がそれを止めた感じか)
強引なパーティー勧誘、特に異性に対してそれをやるのは悪質も良いところだね。人が多いとこういう諍いは起きるよね……特に異性で起きる問題は。
(ゲーム内でも女に飢えてるのかな?)
このゲームは全年齢対応なのにナンパしてどうするんだろう?ただ、それは言い争ってる男性の方もかな……さっきから女の子に向けてチラチラとニチャってした視線が向いてる。良いところを見せて、チンピラたちを追い払ったらパーティーに誘うつもりかな?
「ゲーム内でナンパしてどうするんだろう?」
仲良くなってリアルで会うつもりなのかな?でもそれって規約違反になるような……フルダイブ型のVR技術が発達してそういう出会い系目的で使うのは駄目になったんだよね…………とりあえず、あの騒ぎをなんとかしようか。野次馬は居るけど止める気無さそうだしね。
「んー……騒いでる両方とも成人してそうだね。じゃあ、これ使おうか。複数手に入って良かった」
私はストレージからドランク・アニマプラントの酩酊花粉袋を取り出した。そしてそれにプチッと小さな穴を開け、騒ぎの中心へと投げ込んだ。ギャー!ギャー!言い合っている中に花粉袋が落ち、ボフン!と花粉が広がった。拳程のサイズだったけど、思ってたよりも花粉が詰まってたね。
「な、なんだこれ!?」
「足がもつれ……」
「うーん、頭が回ら……ひっく!」
花粉を吸ったプレイヤーたちが酩酊状態になってふらついたり、ドテ!と転んだりしていた。野次馬も巻き込んだけど……黙ってみてたんだから仕方ないよね?
「お酒の匂い〜……頭クラクラする〜……わっ!?」
「静かに、黙って付いてきて」
花粉で周囲がドタバタしている中、私はトーテムポールを抱えた女の子の手を掴んで移動した。そして無事に騒ぎの場から抜け出すことができた……花粉がいい目眩しになってくれたね。
「ここまで来れば安全かな……」
「はぁ…はぁ……ひ、久しぶりに走って息が辛い〜……」
森の小さな広場で私は止まった。手を引いて連れてきた女の子はトーテムポールを置いて深呼吸している。トーテムポールは目を光らせながら女の子の周りをグルグルと回っている。
(あっ、そのトーテムポールってパートナーだったのね)
アイテムだと思った。だとしてもなんでトーテムポールなのかね?私はグルグルと動いているトーテムポールをジー……と眺めた。中々にユニークなパートナーだね。というか……
(なんか見覚えがあるんだよなぁ……)
話し方とかさ……私がそう思っていると息が整った女の子が顔を上げた。
「助けてくれてありがとうございます〜。周りの人たちが助けてくれなくて困ってたんです〜」
「まぁ、野次馬ってそういうものですからね」
所謂、傍観者効果。誰かがやるだろう……自分はやらなくてもなんとかなるだろう。そういう考えて自分では行動しない。日本人に多いやつ。
(んー……やっぱり仕草とかに見覚えが……ちょっと鎌かけてみるか)
あれの言葉を。身内で起きたあの事件の名前を言ってみよう。あの旅行先の名産品、その試飲会で起きた悲しい事件を……
「無断コピルアク試飲事件」
「!!?」
私が言った言葉に女の子はビクッ!と大きく反応した。そしてギギギと錆びついたような動きで私の顔をジッと見つめ……何かに気づいたようだった。
「ま、まさか〜……心ちゃん?」
「やっぱり桜か……」
トーテムポール女子。その正体は私のリアルの友人の桜だった……まさかイベント中に会えるなんてね。
(どんな確率してるのかな……?)
私はアワアワとしている桜を尻目にそんなことを考えていた。




