第40話
「ここが中央か……ジャングルの中の遺跡みたいだね」
「メキュ」
アマゾンの奥地とかにありそうな感じの。イベント2日目、自分の分の生産を終わらせた私はダンジョンに来てみていた。
昨日、デルタさんから情報貰って行ってみたかったんだよね。薬のお礼って言われて、結構情報貰った。攻略の楽しみを残すためにモンスターの名前程度しか聞いてないけど。
「まぁ、入れるのは初心者向けか上級者向けなんだけども……」
中堅向けは人が多くて入るのに時間がかかる。そしてこの格好で人目の多いところはちょっとキツい……かと言って初心者向けは得るものないし、とりあえず上級に行ってみよう。強さ的には山道ぐらいらしいしね。いや、それ普通に面倒だな……あそこって面倒な部分の詰め合わせだったし。
「えーと、上級は右端の入り口だったね」
私は自然に飲まれた階段を歩き、ダンジョンの入り口へと入った。ダンジョンの内装は第1回イベントのアレと似ている。あっちと違ってこっちは広めで苔や草、木の根があったりして冒険感が強い。灯りは光る花でほんのり明るい。
「ゴロォォ……」
自然に侵食された遺跡を進んでいると苔まみれの岩が転がってきた。大きな赤い水晶が目のようにこっちを向いている。えーと、こいつは確かモスロックボール。私が行かなかったサディナスのダンジョンに居るメタルロックボールの亜種。
攻撃は体当たりのみだけど水と火に強いんだったかな?今回はレモンに行ってもらおう。てか、あいつどこから声出してんの?
「ゴロォォ!」
「思ってたより速……でも直進しかできない感じか」
私は勢いよくゴロゴロと転がってくるモスロックボールを回避する。モスロックボールは回避されるとキキィィィ!と音を立てて止まろうとする。その隙を逃さないのがうちの特攻隊長……
「ビリリリ!」
レモンがピョーンと飛び、バリバリバリと放電を放つ。岩に電撃はどうかと思っていたけれど、しっかりと効いているようだった。
「ゴ、ゴロォォ……」
ピシッ!と赤い水晶が割れ、モスロックボールはガラガラと音を立てて崩れていく。素材は苔の生えた石か……コッペパンサイズって中々大きいね。
「これは拠点を買った時に庭の装飾に使おうかな?」
苔の生えた石って趣があるよね……ただ、苔使うと和風寄りになりそうなんだよね。雰囲気合わないか。
「この生えてる苔はどんなのかな?山林のは保水性が高いやつだったけど……」
私は苔を指で剥がして調べてみることにした。むっ?この苔なんかねっとりしてて剥がしにくい……ちょっと苦戦しつつも私は苔を調べた。
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ミズモチゴケ
弾力性の高い苔
餅のような粘りで岩に張り付き剥がれにくい
水に入れ沸騰させた後に濾して冷やすと
ゼリー状に固まるため様々な用途に使われる
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ふーむ、ゼラチンの代用品?丸薬には使えなさそう……そういえばゼリー状の薬は作ったことないね。
「この苔のために狩りまくろうか……イベント後、どこで手に入るか分からないし」
興味を掻き立てる素材に私は実験が楽しみになってきた。ただ、あいつの乱獲はちょっと難しいかも……動きが速い。
「色々試してみようか。幸い時間はあるし」
私はモスロックボールを安定して狩る方法も模索していった。最初はプルーンに凍結液をかけてもらった。
ギュギュギュギューン!!
「ちょっ!?こっち来るなぁぁぁ!!?」
「ビリリ!?」
「メララ!?」
表面が凍ったモスロックボールがスリップしながら向かってきて、危うく轢かれかけた。凍らせるのはダメだね……次はスチンに受け止めてもらおうか。
「防御上昇の丸薬。持ち込んでいるとはいえ、簡単に使えないんだよね」
作るのに使えそうな素材が現状無いからね……探索班の人がどんどん攻略しているから、集めてきてくれる素材に期待しよう。
「ゴロォォ……!」
「ドロォォ……」
3体目。今度はゴロゴロと転がりながらの登場だった。スチンが大きくなりながらモスロックボールの軌道に移動し、相手を包み込んだ。
「ゴ、ゴロォ……!?」
優しく包み込まれてモスロックボールが停止する。スチンは……あっ、ダメージほぼ皆無だ。
「ドロォ……」
「ビリリ!!」
スチンが受け止めたモスロックボールを投げ、レモンがそれに放電を放って仕留めた。よしよし、これで苔を集めていこう。
「「「ピュルリリリ!」」」
「わっ!?ビックリした!!?」
私がモスロックボールを探そうと歩き出したら反響した鳥の鳴き声が奥から聞こえてきた。複数体いそうだね……私は注意しながら先に進んだ。進んでいると横にも縦にも広い円柱のような空間に出てきた。天井からは陽の光が差し込んでいる。
「へー、こういう空間もあるんだね」
真ん中にある瓦礫の山が良い味出してるね。そんなことを思いつつ天井を見上げてみると、煩く囀りながら飛んでいるツバメが数羽いた。あれは確かケイブスパロウ。洞窟とかの狭い空間でも飛び回れるモンスターらしい。鳴き声出してたのはあいつらだね。
「「「ピュルリリリ!」」」
「あっ、こっちに気づいたようだね」
飛び回っていたケイブスパロウたちの視線がこっちに向いた。ケイブスパロウたちは甲高い鳴き声をあげると私たちの方へと向かってきた。まるで矢のように真っ直ぐ飛んでくる……
「アセロラ。火炎放射」
「メララ!」
真っ直ぐ飛んでくるケイブスパロウに対して、私は無慈悲な火炎放射器を喰らわせた。いや、だって真っ直ぐ突っ込まれたらこうするよね?飛行型とは相性悪いし。
「こいつの素材はそこまで美味しくないね……」
手に入ったのは羽と肉。ツバメの肉って美味しいの?ツバメの巣は有名だけどさ。
「「「ピュルリリリ!」」」
ここが巣だったのか追加のケイブスパロウが次々と現れ、広場をヒュンヒュンと飛び回り始める。ハチの巣を突いたようになっちゃった……
(素材は私にとってはあんまり美味しくないけど……これはlv上げの良い機会かな)
大森林はモンスターが強くてレベリングするには危ないんだよね。こいつらは経験値しょぼそうだけど数は多い。既に私のlvは40だけども。
「ライムたちの経験値がね……」
進化を重ねてlvを1上げるのに必要な経験値が増えて、しかも40まで上げなきゃだからね。塵も積もれば山になるって言葉もあるし……全滅させるまで狩り尽くそうか。
「何羽狩れるかな?」
◇
「ピュルリリリ……」
「む、もう打ち止めかぁ……もうちょっと狩りたかったね」
レモンの放電で地面に落ちたケイブスパロウでケイブスパロウは打ち止めになってしまった。lv上げは……そこそこできたかな?2つも上がれば良い方でしょ。
「時間結構経っちゃったし。先に進もう」
これは帰りが遅くなるかな?薬はかなり作り貯めてあるから大丈夫なはず……そんなことを考えつつ奥へと進む通路に入った。
ズルズル……ズルズル……
「ん?」
通路に入ると何かが這い回るような音が聞こえてきた。せ、背中がゾワゾワしてくる……
「カロロロ……」
「あれか……この気色悪い音の正体は」
腕を摩りながら歩いた先にいたのは4本のツルを蠢かせるラフレシアみたいな花。植物系のモンスター……初めて見たけど、こんな気色悪いの?
(こいつだけがキモいということを願おう……)
ちなみにこいつはヒューマンイーターってモンスター。マンイーターの進化って話だけど……名前の変化少なくない?
「カロロロ……カロロロ!!」
気持ち悪い音を出していたヒューマンイーターは私を感知したのかツルをこっち伸ばしてきた。ツルの先がパックリと割れ、小さな歯が並んだ口をみたいになった。
(ライムたちはガン無視。ヒューマンイーターの名の通り、人間にしか興味無いってことかな?)
あれに捕まったらヤバそう……絵面的に。この装備だからね。R18認定されちゃう。
「ビリリ!」
「メララ!」
レモンとアセロラが伸ばしてくるツルに電撃と炎を放つ。しかしどちらにも耐性があるのか、ツルはズルズルと向かってきた。
「雷と火がダメなら氷……プルーンお願い」
「ヒヤァ……」
ツルに向けてプルーンが凍結液をかける。するとツルがギクシャクと変な動きをし始め、凍りついた部分から変色していった。
「カ、カロロロロ……」
本体の花からも嫌がるような音が聞こえる。こいつは氷弱点のようだね。今後出てきたらプルーンに倒してもらおう。
「ヒヤァ!」
「カ、ロロ!?」
ツルが動かなくなったヒューマンイーターの本体にプルーンがいくつも氷柱を飛ばした。移動できないヒューマンイーターはただの的でしかなく、呆気なく倒れていった。
「素材の方は捕食蔓と花弁か」
捕食蔓は太くて丈夫な蔓草って感じ。花弁の方はちょっと薬に使えそうな感じだった。
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ヒューマンイーターの花弁
ヒューマンイーターの花から取れる花弁
生きた生物を飲み込むために肉厚で筋肉に近い
一時的に筋力を上昇させる成分を含んでいる
また、物好きはステーキにして食べる者も……
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筋力を上げる薬の材料になりそう……だけどうちのメンバーには要らないんだよね。誰も筋肉無いし。私が飲む意味も無いしね。
「まぁ、欲しい人は居るだろうし。集めるだけ集めとこ」
幸い、プルーンが居れば簡単に狩れる相手みたいだからね。気持ち悪いからあんまし遭遇したくないんだけども……私は小さく愚痴を溢しつつ先へと進んだ。




