第39話
「1体1体は弱いけど……数が多いせいで面倒。アセロラ11時方向に火炎放射。レモンは2時方向で思いっきり放電」
「メララ!」
「ビリリ!」
周囲を観察しつつ、防衛が薄いところへアセロラとレモンに攻撃させた。炎と電撃でモンスターたちが倒れ伏していく。イノシシとウサギを焼いてるからか、ちょっとお腹空いてくる。
「ドロォ……」
「ヒヤァァ」
第2陣が多いところではスチンとプルーンが地面に氷を作り、足場を悪くして敵の進行を遅らせている。あの2匹にはタンク役もお願いしているから向こうは大丈夫だね。何があってもライムが治療するし。
「ス、スライム強ぇ……誰だよ最弱って言ったやつ」
「あの人が1番モンスター倒してんだろ……てかあの赤い子、凄いイキイキとモンスターを燃やしてね?」
「まさか『汚物は消毒だぁぁ!』を見ることができるとは……世紀末モヒカンじゃなくてスライムが燃やしているけど」
おい、そこのプレイヤー共。喋ってないで働け……パートナーの強さからして第1陣だろうし。攻撃が派手だから寄ってくるモンスターが多くてそろそろキツい。
「おーい!嬢ちゃん大丈夫かー!?」
私か押し寄せてくるモンスターに苦々しい思いをしていると、ゲンさんの声が何処からか聞こえてきた……声の方向的に上?
「わっ!?なんか飛んでる!」
上を向くとゲンさんはカメの甲羅に乗ってこっちに飛んできていた。頭と手足が見えないけど、あれってゲンさんのパートナーのリクガメだよね?本当に飛んでるよ……
(リクガメって頭と手足を甲羅に引っ込められないんじゃなかったっけ?まぁ、そこはゲームだから気にしない方がいいか)
私がそんな事を思っているとゲンさんは甲羅から飛び降りスタッと地面に着地した。リクガメの方は加速するとモンスターの群れに突っ込んでいった。モンスターたちがボーリングのピンのように弾け飛んでいく。
「カメキチのやつ。ここ最近暴れさせてなかったから思いっきり突っ込んでるな……足場として使い過ぎてストレス溜まってたか?」
「あの子なんて種族なんですか?ロケットタートルとかですか?」
「お、ちょっと惜しいな。正解はブーストロケット・ランドタートルだな」
あぁ、リクガメってランドタートルって表示になるんだ。ウミガメだとシータートルとかなのかな?私は目の前の惨状に脳の処理が追いつかず、そんな事を考えていた。モンスターたちがあっという間に蹴散らされてる。
「ブ、ブヒィィィ!!」
「ギュイイイ!」
「ゴブゥゥゥ!」
カメキチの蹂躙がトドメになったのか、モンスターたちが皆逃げていった。追撃しようかとも思ったけれど、追うだけ無駄だし止めておこう。普通に疲れたし……
「皆。お疲れ」
「メキュ!」
「ビリリ!」
「ドロォ……」
「メララ!」
「ヒヤァ……」
スチンとプルーンが凄い疲れてる。し、仕事振り過ぎたかな……他人のフォローとか凄い疲れることだし。
(今日は仕事させないようにしよう)
あとご飯も多めで……私はモンスターのドロップとかを確認する前に、パートナーのケアに邁進するのだった。
◇
「んー……これは中々興味深いね」
1日目の夜。私は黒い欠片を摘んで観察していた。周りには誰も居ない……わざわざ人の居ないところに移動してきたからね。視線が鬱陶しい。
「テント内でも良かったけど……あそこ狭いからね」
人数が増え過ぎて宿泊用の建物を作るのが難しくなったから、皮で作ったテントをいくつも建てる方針に変わった。パートナーの数と大きさ、今ある素材の量で全員に配り切れていないんだけど。私は数は多いけど小さいのと、仕事の代金として優先して作ってもらえた。不思議と誰からも異議が出なかったしね。
「とりあえず今はこれだね。呪いの欠片」
防衛戦で倒した黒いモンスターたちが落とした素材。見た目は黒い結晶……黒曜石みたい。そして黒いオーラのようなものを纏っている。
(曰く付きのアイテムが作れそう……説明文も物騒だし)
ーーーーーー
呪いの欠片
怨念や殺意など負の魔力が集まってできた結晶
欠片なため持ってるだけでは危害は無いが
大量に使うと呪いの力を発揮する
危険物故、取り扱い注意
ーーーーーー
これ、今ストレージに50個近くあるんだよね……大量って部分が具体的に何個か知りたい。かといって実験するの怖い……
(とりあえず浄化液に漬けてみようか……呪いを解いたらどうなるか見てみたいし)
呪いを浄化する力。実際に試すのは初めてだから楽しみだね。私はビーカーに入れた浄化液に呪いの欠片を入れた。呪いの欠片から黒い何かがジワジワと抜けていき、白く変化していく。あれ?なんか見覚えのあるものになってない?
「これは……霊結晶?」
呪いが消えた呪いの欠片は霊結晶に変化した。これってつまり……イベント中、霊結晶集め放題ってこと?
(呪いの欠片とか大体の人は要らないだろうし……回収ボックスとか置いとけば心良くくれそう)
私は呪いの欠片を上手いこと沢山集められないか画策し始める。そしてそれは夜遅くまで続き……次の日寝不足になったのだった。
「じょ、状態異常で寝不足があるとは……これいつの間に追加されたの?」
とりあえず眠気に関しては持ち込んであったニトロハニーを1匙舐めて覚ましておいた。エナジードリンクみたいに使うことになるとは……
(とりあえず今日は仕事をして、その後は中央のダンジョンに行ってみようかな?)
私はほんのり重い頭を撫でつつ、仕事場に向かった。




