第36話
日が経ち、イベント当日になった。昨日は真面目に夏風邪引いてログインできず、おかげで桜とゲーム内で会えなかった。プレマは予めやっておいたからちゃんと稼げてる。
「エアコンのタイマー切るの忘れてた……」
流石に頭痛いのにゲームする気にはなれなかった。あと桜に今の格好を見られたくないし……見せられるかこんな露出度の高い姿。
「今だってテイマーギルドの部屋に篭ってるしね」
外、人が多過ぎ……ファストロンじゃなくてシンフォニアに移動しとけば良かった。
(イベントが始まるまでは、ここでまったりしてよう)
あと持ち込むアイテムのチェックね。私が持ち込むのは調薬の道具と一部の素材、あとはライムたちのご飯。色々与えるからご飯だけで枠が潰れる。
「素材に関してはどうにかなるでしょ」
無人島に生えてるはず、しょぼい素材でもライムの治療液があればどうにでもなる。
「さて……時間だね」
チェックを終えるとイベントの開始時間になった。私たちの周りに魔法陣が出現し始める……あっ、これ転移の。
「ちょっと待っ……!?」
そんな私の声も意味も無く。私は身構える前に転移が実行された……転移先は大きな船の上に居た。他のプレイヤーも次々にパートナーと転移してきている。
「うぷっ……」
転移酔いを船の揺れが増長させてくる。私は人の邪魔にならないように船の隅っこに移動した。マジで辛い……リアルだと吐いてたかも。
(ジワジワと酔いが消えてき……うわ!?)
酔いがマシになってきたところで船が大きく揺れた。何事かと思い視線を上がると、ドス黒い雲と光る稲妻、こっちを飲み込もうとする大波が見えた。あっ、コレ……ダメなやつ。
ザパァァァ!!!ゴポゴポゴポ……
私が乗った船は一瞬で波に包まれて転覆。始まり方が雑じゃない?私はそんなことを思いつつ海の中に沈み、視界が真っ暗になった。
◇
ドン!ドンドン!…………ビリビリビリ!!
「痛ったぁぁぁ!?」
叩かれた反応で意識が戻ってきたところに思いっきり電気を流れた。痛みで一気に意識が覚醒する。
「ビリリ!」
「レーモーンー……人を起こすのに電流を流さないでって、前に言ったよね?」
「ビ、ビリ!?」
私は手荒な方法で起こしたレモンをモチモチとお仕置きする。スリープリリーで寝たとき、1番最初の起こし方がこの電撃だった。
(装備で耐性があるとはいえ……痛いもんは痛い)
私はモチモチとしながら周囲を見渡した。今いるのは砂浜……漂着したって感じか。内陸側は森になってり、調薬に使える素材がありそうだね。
(ライムたちは全員揃ってるね……あと周囲に何人かプレイヤーが居る)
起きてる人は少ない。近くにはその人のパートナーも倒れてるね。パートナーたちもまだ起きてる子の方が少ないね……うちは皆起きてるけど。スライムって気絶に強い?
「とりあえずは周囲の人を起こして回ろうか……放置しとくのもあれだし」
この砂浜が安全って保証も無いからね。私はレモンのお仕置きを止め、倒れているプレイヤーとパートナーを起こすことにした。
「ビリ」
「ダメだからね?電撃は絶対に」
お仕置きから解放されたレモンが、近くのプレイヤーに近づいていくから釘を刺しておく。動き止まったからやるつもりだったね?
「お仕置き延長かな?」
「ビリリ!?」
そんな冗談はさておき、私はプレイヤーを起こして回る。主に女性からね……邪な考えの野郎を先に起こすと碌なことにならなさそうだし。
「起きてくださーい」
「う、うーん……」
ユサユサと根気強く身体を揺らして起こしていく。ライムたちはパートナーの方を起こしていってくれている。時折、レモンが電撃を使わないか目を光らせておく。
「起こしていただきありがとうございま……もしかしてですけど、私も装備壊れてます?」
「いえ、私のこれは元々です」
偶に私の布地の少なさで勘違いする人が居るのが玉に瑕……白衣でカバーしきれてないからね。そうこうしている内に全員気絶から復活した。今ここに居るのは50名くらいかな?
(全体の10分の1か……パートナー含めたら結構多くなるしね)
そんなことを思っているとプレイヤーが集まりだした。どうやら今後どう動くか話し合うみたいだね。
(変なことに巻き込まれないように参加しておこ)
私は話し合いに参加した。その間、ライムたちはライム以外は他のプレイヤーのパートナーと交流を深めていた。ライムは私に付き添っている。踏まれそうだから抱えておこ。
(分かっては居たけど……めっちゃガン見されるね)
特に男連中。お前ら鼻の下を伸ばしてガン見するな……あっ、スケベ共が女性陣に首根っこ掴まれて何処か連れて行かれた。なんか自分のパートナーに引きずられてる人もいる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「すみませんでしたぁぁぁ!!」
遠くで砂埃が舞っている。こっちに聞こえてくる悲鳴で何が起きてるか察することができるね。
「……彼らのことは置いといて話し合い始めましょうか」
「そうですね。原因の私が参加してるのは意味不明ですけど」
制裁による悲鳴が聞こえる中、話し合いが始ま…………ろうとした前にある問題が浮上した。
(誰が進行するんだ。これ?)
司会進行に誰も名乗り出ない。司会はともかく、進行役が居ないとまともな話し合いは難しい……皆が各々言いたいことを言うだけで終わりそうだからね。私は進行役は苦手……こういうのに名乗り出れるのはそれはそれで才能だよね。
「えーと、誰も進行しなさそうなので私がやりますね。私はクラン、アーカイブ所属のデルタと言います。パートナーは鳥系がメインです」
気まずい空気が流れる中、1人の勇者が名乗りをあげてくれた。デルタさんはthe知的って感じの人。司書服にメガネっていう知的要素の詰め合わせだね。パートナーは鳥系が多いみたい。
デルタさんの名乗りをきっかけに集まっているプレイヤーたちは各々自己紹介をしていった。そして私の番になる。
「ココロ。クランは無所属。パートナーは全部スライム系です。調薬の技術はそれなりに高いです。よろしくお願いします。あと服については気にしないでください……スライムの神殿の神官服なので」
「「「「えっ?それがデフォルトなの?」」」」
服のことを言ったら方々からツッコミを貰った。まぁ、気持ちは分かる……私でもツッコミを入れる。
「神殿所属ということはココロさんはシンフォニア到達者なんですね。戦力があるという認識で大丈夫ですか?」
「ありますけど……まぁ、スライム系なので。どちらかと言うと戦闘よりは生産の方が向いてます」
「分かりました。ありがとうございます」
その後も自己紹介は続いていき、スケベ制裁から戻ってきた人たちも自己紹介に参加した。制裁されてた人たちは自分のパートナーに睨まれつつ震えながら自己紹介してた。向こうで一体何があったんだ?
「自己紹介が終わったので今後の流れについてですが……まずは拠点となる場所を探すのが先決だと思います」
デルタさんは今後の流れについて話し始める。やっぱり最初は拠点だよね……私がそんなことを思っているとマッチョでスキンヘッドな男性……自己紹介でゲンと名乗っていた人が手をあげた。
「この砂浜に作るのはダメなのか?パッと見た感じは安全そうだが」
「ここも確かにありではありますが、あの沈没の時みたいな波が来た際に壊滅する危険があります。海よりは内陸部の方が安全性は高いと考えます」
「成程な。それはもっともだ」
その後、拠点を作る場所を見つけるのに班分けすることになった。あと他のプレイヤーとの合流。
「合流に関しては必ずじゃなくて大丈夫です。邪な考えのプレイヤーが混ざるのは避けたいですしね……」
「ん?」
なんか全員の視線が私に飛んだ。いや、私邪念とか無いんだけど?
「女性の皆さん。頑張ってください」
「「「「「任された」」」」」
「えっ、何?」
なんか女性陣が団結した。と、同時にスケベ共が震え上がる……あっ、ようやく理解できたわ。それと同時にこの人たちが私をどう見てるかも。
(……気にしないことにしよう)
私は気づかなかった事にした。
1、2、3……ポン。ココロは『自分がなんかエロい子』だということを忘れた。




