第4話
ブチブチ。ブチブチ。
「ふぅ……疲れた」
「ピュキ……」
私はひたすら雑草を引き抜きながら言葉を漏らした。ライムもザルに乗せた雑草を隅っこに運び続けて疲れたのか溜め息のようなものを吐いている。
サービス開始してから3日経過し、新しい町へ辿り着いたプレイヤーが出てきたって話を聞く中、私はずっと草を毟っていたという。薬草採取も草毟りみたいなもんだし。
(まぁ、無駄な時間って訳じゃないけどね……おっと、これは刺さると麻痺する棘が生えてる薬草だから触らないようにっと)
私は雑草の中に紛れ込んだ薬草を避ける。花壇やプランターじゃなくてその辺に生えてるから本当に怖い。でもこの地雷が埋められたような庭の草毟りで薬草の知識がかなり身についてきた。
夕方や夜はミスると大変なことになるから、テイマーギルドの資料室の図鑑と渡された手帳を睨めっこしながら薬草の知識を勉強してる。
「ゲームの中でも勉強する羽目になるとは思わなかったけど……割と面白いんだよね」
偶に図鑑に無い植物あったりするけど……テイマーギルドの図鑑はポピュラーなものしか載ってない。この庭の植物にはクイラさんが植えた珍しい薬草もあり……その殆どが下手に触れないっていうね。
(文字と絵の解読大変だった……)
昔の文章とかを解読する人の大変さを実感したね……私が苦笑いを浮かべながらも黙々と雑草を抜いていった。その時……
ボーン!!モクモク……
爆発音のようなものが聞こえ、顔を上げるとクイラさんの家の窓から緑色の煙が立ち昇っていた。あー……あの人またやったか。
「ゲホゲホ……やっちまった……」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫……今回は毒とかのヤバいやつ使ってないからね……」
クイラさんは咳き込みながらも手を振って返事をする。クイラさんは四六時中実験をしているんだけど……割と失敗して爆発が起きてる。
(家が蔦まみれなのも……家が壊れないようにする補強らしいからね)
家を覆い尽くしているのはハガネツルって植物で、名前通り金属のような強度を持つ植物。これが覆い尽くしてるから多少の爆発なら問題無いらしい。
(それでも爆発は控えて欲しいけども。最初何事かと思ってビックリしたからね……)
今まで来た人たち、爆発が原因で逃げたんだろうな……居続けたら死ぬって思って。私は死んでも生き返られるから別に死への恐怖が薄いのでそこまで気にならない。それに……
「ライムのご飯貰えるからね……」
「ピュキ!」
この草毟りもただ働きって訳ではなく、報酬として回復薬を貰ってる。失敗作とはいえ効果が高いからライムも喜んで飲んでる……スライムの場合って飲むで合ってるのかな?吸収するが正しい?
なお、私も食費を貰ってる。このゲーム、定期的に食べないと餓死して死ぬんだよね。お金がジワジワと食費で削れていく……1番安い苦味の強いサラダで節約してるのに。味はあれだけど栄養価高くて腹持ちが良いんだよね。味はあれだけども……
(ドレッシングまで苦いから救いが無い)
私が最近の食事のことを思い返してる中、クイラさんは庭をぐるっと見回していた。そして満足そうな表情を浮かべた。
「それにしてもだいぶ草片付いたね。そこから奥は大したもの植えてないし。もう草毟りしなくて良いから中に入っ……いや、声かけるから玄関前で休憩してていいよ」
「分かりました」
ようやく草毟りから解放される。私はクイラさんが呼びに来るまでライムをプニプニと楽しんでいた。ライムも失敗作の回復薬をジワー……と味わっていた。あっ、こら容器は食べないで。
「そういえば。《食育》でどの程度までlv上がったんだろう?」
確認しとこうか。私はライムのステータスを確認した。
▽▽▽▽▽▽
ライムlv7/10
種族:スライム(未進化)
HP:36/36
MP:26/26
スキル
《悪食》
どんなものでも食べることができる
食事によるデメリットを無くす
《食育》
食事によって経験値を得ることができる
《打撃耐性・Ⅰ》
打撃攻撃による被ダメを10%軽減する
△△△△△△
思ってたよりも上がってるね。HPとMPが1ずつしか上がってないのは……スライムの短所の1つなのかな?
(進化したら改善することに期待しよ……)
チェックを終え、ステータスを閉じるとほぼ同時に玄関の扉が開いた。振り向くとクイラさんが気まずそうな顔で立っている……
「どうしたんですか?」
「いやー、その……早速薬の作り方を教えようと思ったんだけどね……」
私はクイラさんの後に続いて家の中に入る。家の中はさっきの爆発のせいか散らかっていて大変なことになっていた。多少、片付けようとした形跡がある……待たされたのは片付けてたからかな?全然終わってないけれども。
「……とりあえず片付け手伝いますね」
「助かります」
草毟りの次は片付けか……ちゃちゃっと終わらせてしまおう。私はテキパキと片付けを始めた。
◇
この世界の薬の作り方は2つある。1つ目は人間だけでやる方法で作成が簡単なものや少数生産、新薬実験で行われやすい。
2つ目にモンスターの力を借りるもの。モンスターのスキルで工程を簡潔化や省略化することで大量生産や複雑な薬を作ることができる。中には特定のモンスターの力を借りないと作れないものもある。
「私は基本1つ目だね……私はパートナーが居ないから必然的にそれしかないんだけどさ」
「あー、だから見なかったんですね」
片付けが終わり、薬の作り方を教わる前に私は根本的な部分を教えてもらっていた。これ理解してないと色々面倒らしい……特にモンスターの力を借りる方法に関しては、特定のモンスターじゃないと作れないものがあったりして、必要なモンスターをパートナーにしないと作れなかったりする。
「更にはモンスターの力を借りるものは、作成難易度も高い……基礎ができてない人が手を出したら私のように爆発するね」
ちなみにクイラさんの爆発は主に『モンスターの力が必要な薬を人間の力だけで作れるようにする』という実験の過程で起きてるらしい。いくつも結果が出ていると同時に爆発数は覚えられないほど……最早爆発は許容しているんだとか。
「だからと言って1日3回はダメですよ。クイラさんは兎も角、私の身が持ちません」
「おっ?今私のことナチュラルに人外扱いしなかった?歴とした人間ですが?」
歴とした人間はしょっちゅう爆発を起こしてほぼ無傷では無いんですよ。そんなことを口に出しかけたが堪える。そろそろ薬の作り方を習いたいからね。
「雑談もそろそろ終わりにしようか。それじゃあ早速、簡単な回復薬の作り方から教えるね」
「よろしくお願いします」
私はようやく調薬へと進んだ。




