第32話
…………シュン!
「う、この転移……エレベーターとかの浮遊感が強めで気分が」
寒さの中、目覚め草を充分な量を採取した私は転移でファストロンへ移動していた。転移で酔って気分が……あの浮遊感は本当に苦手。普段もエレベーターとか使わないし、ジェットコースターも友達と一緒じゃない時は乗らない。乗った後に少しダウンするけど……友達付き合いのためなら犠牲にする。3連続の時は死ぬかと思ったけど。
(転移したら使ったお金分稼ぐだけじゃダメだね……過剰までに利益を得なきゃ)
何度も転移なんてしてられない、今後採取しに行く必要が無いほど採取していこう。ようやく転移での酔いが治ってきたし。私はテイマーギルドの転移部屋を出て、久しぶりのファストロンの町を歩いた。
「(なんだあのプレイヤー!?クソエロいんだけど!?)」
「(あれ王都まで行ったプレイヤーか……てかスライム多くね?)」
「(あれが例のスライム少女か……なんか掲示板の情報以上に服ヤバくね?)」
……なんか視線を凄い感じる。ファストロンも人が減ったとはいえ、プレイヤー普通に居るからね。さっさとフィールドに入ってしまおう。
私は視線を気にしていないフリをし、東側の森に向かった。森を隔てる崖を渡るために橋に向かうと、橋の手前に関所があった。そこで衛兵の人にテイマーギルドのカードを見せると先に通された。
「夜に通る際はそこの紐を引いてください。ご武運を」
「ありがとうございます」
私は衛兵の人に見送られながら橋を渡った。コツコツと先に進んでいくにつれ、森の様子がはっきりと見えてくる。見た目は普通……新緑の森が更に鬱蒼とした感じ。
(だけど……空気が違うね)
近づけば近づくほど空気が重くなってる気がする。流石、立ち入り制限がされているフィールドだね。そういえばここの名前なんだったっけ?
「えーと……あぁ、淘汰の大森林だったね」
モンスターたちが争い、生存競争に勝ち残ったモンスターだけが生き残っていく……弱肉強食を体現した場所。正直な話……
(スライムオンリーの私が立ち入るには勇気が居る)
レモンとアセロラが第2進化したとはいえ、ガチガチの生存競争を勝ち抜いてきているモンスターたちと真っ向勝負するのは難しい。今回は採取をしつつ、表層のモンスターのみと戦っていく。目指すは私のlv40、それとプルーンの進化だね。
「皆。油断しないようにね」
「メキュ」「ビリ」「ドロォ」「メラ」「ヒヤァ」
橋を渡り切り、私は淘汰の大森林に足を踏み入れた。
◇
「ガァァァァ!!」
「ビィィィィ!!」
「ギャア!ギャア!」
「う、煩い……」
淘汰の大森林。常に戦闘が起きてるのかモンスターたちの鳴き声があちこちから響いてくる。そのせいで音で敵の位置を探るのは難しいね……敵の接近に気づけないのは厄介。
「ビィィィィィ!!」
「ほら、こんな風にバッタリ出会す」
私は目の前に現れた子どもサイズのミツバチ……エナジービーを見ながら呟いた。まぁ、こいつは目当てのモンスターだから嬉しい。
(エナジービー……見た目は可愛いけど侮れないモンスターなんだよね)
まず、こいつはスタミナがほぼ無限。体内に溜め込んだハチミツが特殊で一種の活力剤……エナジードリンクのようになっている。それを自身に投与することでスタミナを回復させる。そのハチミツが今回の目的の1つ。
「ビィィィ!!」
エナジービーは羽を震わせ不規則な軌道で突撃してくる。そしてレモンを狙って針を突き刺そうとしてきた。
「ビリリ!」
レモンはタイミングを図り放電を放った。エナジービーを強烈な電撃が襲うが、エナジービーは電撃を受けながらも尾針をレモンへ思いっきり刺した。
「メララ!」
「ビィィィ……」
アセロラがエナジービーに思いっきり炎上タックルを放ちトドメを刺した。思いっきり刺されたレモンはHPが6割削られ、毒になっていた……しかも毒がかなり強いのか削れる速度が速い。
「ライム!治療!」
「メキュ!メキュ!」
大急ぎでレモンの治療を頼み、スチンに護衛も頼んで安全を確保しておく。レモンたちが毒になるの久しぶりだったから焦ったね……
(まさか電撃を浴びながら攻撃してくるとは思わなかったよね……)
無効化……て感じはしなかった。素材にヒント無いかな?
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エナジービーの蜂蜜
エナジービーが集めた花の蜜や樹液が、体内の特殊な酵素によって発酵された蜂蜜
身体の働きを活発化する効果があり、天然のエナジードリンクと言える
摂取すると行動阻害系の状態異常を軽減するが、過剰に摂取すると心臓に負担がかかる
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エナジービーの猛毒袋
エナジービーの毒が詰まった袋
毒自体が強く、更に心臓の動きを活性化することで、毒の回りを早くする
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この毒、レモンがスライムじゃなかったらかなりヤバかった?あと麻痺しなかった理由が判明したね。
「行動阻害系……私たちで言うと麻痺とか凍結とかだね」
行動阻害系には睡眠も含まれている。エナジードリンクって眠気を覚ますものでもあるから、それを反映させた効果なのかな。麻痺とか凍結にも効くのは意味不明だけど。
「てか、この蜂蜜。使い方間違えたらマズい劇物なんだけど……」
こういう危険物を薬に使うの何気に初めて。扱いには注意しよう……と、レモンの治療が無事に終わった。毒も綺麗に無くなっている。
(新しく猛毒に対応した毒消しも作らないと……今後は猛毒使うモンスターが増えそうだし)
金の匂いは逃さない。私の拠点購入のための資金……ちゃっちゃと貯めてしまおう。
「てか、採取もしなきゃ……森だから素材多いし」
乾風の山道で碌に採取できなくて実験ロスになったからね。素材沢山採取して実験しまくろう……
「とりあえず100個ずつ集めよ……転移する回数を減らすために」
しばらくファストロンに篭らなきゃ……私はちょっと転移に苦手意識ができていた。




