第31話
(うーん、やり過ぎた……調子に乗って作り過ぎたね)
一般神官になって2日ほど経過した。あれからやっていたことと言えば、王都の観光をしつつ神殿にあった素材で聖水を作っていた。んで、霊結晶が無くなった。クティアさんからは……
「2日で1か月分使い切ったのもそうですけど……全部が最高品質ってことに戦慄しますね」
とのお言葉を貰った。全部納品すると他の神殿が作る聖水の評価が暴落するんで、4割納品。4割保存。残りの2割分を貰えたから無駄な仕事では無かったね……これでしばらくはライムのご飯に困らないね。
あと聖書の方も読めるところは全部読み終わった。難しい文章で色々書いてあったけど……私なりに要約するとこんな感じになった。
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この世界がまだ不毛の大地しか無かった頃。
創造神様は世界に命が生きていく環境を作るため、スライムの神獣***をこの世界に送った。
***は全ての属性を扱い。水と風で海と空を構成し、土と火で大地が命を灯した。
***はその後、それぞれの属性を司るスライムを己が身体を分裂させて生み出し。生み出されたスライムたちは更に分裂することで世界中に広がって命が生きていける環境を整えた。
そしてスライムたちが作った世界は多くの命を迎え入れられるようになった。
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(やってることがテラフォーミング……この世界ができた根幹に関わってるよね)
神獣の名前に関しては読み取れなかった。その部分だけなんと言うのか……脳が読むのを拒否してくる。信仰が足りないのかな?あと本の半分から後半は白紙だったし。本の表紙の水晶が関係してそうだね。
「とりあえず王都観光も一段落したし、新しいフィールドに行ってみようかな」
現状、一番の目標は拠点を購入することだね。観光しながら色々と見て回って……スライムの神殿がある地区に拠点を作ることにした。理由は土地と建物の金額が安く、人が皆無で静かだから。
(あそこ旧市街地で、大体の建物が無人らしいからね……)
お店とかも何も無いしね……施設も神殿くらいしかないし。あそこだけ別の町って言われてもおかしくない……国の首都なのに人の気配が薄い。住民の人も見たことない。
「普通ああいうところって治安が悪かったりするのに……それすら無い」
割と不思議なところではあるけれど神殿に行きやすいし、移動も船があれば買い物とかも行ける。買う建物に関しても良いところは見つけてあるんだけど……購入金額の方が結構キツい。
「100万G。結構かかる……」
私の称号だと借りる金額は下がるんだけど、買う金額は下がらないんだよね。ちなみに私の今の所持金は30万Gくらい……プレマで稼いではいるけど、薄利多売でやってるからそこまで溜まってない。あと瓶代もあるしね。
拠点のお金のために白衣の買い替えも辞めたしね。王都の防具、安くても1万とかだからさ。効果もそれなりに高いんだけど……買い替えを少なくするなら10万以上の高性能なやつにしたい。
「拠点と白衣のために金策しなきゃだね……そうなると今まで受けて来なかった依頼を受けようかな」
受けて報告するのが面倒だったからしてなかったんだけどね。少しでも稼げるならやっておきたい……私はテイマーギルドで何か稼ぎの良さそうな依頼が無いか探した。
「簡単に稼げる仕事は無いよね……当たり前だけど」
そういう仕事は目敏い人が持ってくだろうし、何か裏があるかもしれない。安易に手は出せないね。
「私が受けるなら生産系の依頼かな……これは品質が良いと金額が上乗せされる」
おっ、衛兵隊詰め所……いや、王都だから本部か。そこから依頼が出てるね。上手くいけばセカンディアの時のように指名依頼が来るかも。
「中級回復薬、魔力回復薬、毒消し、麻痺消し、火傷治しはあるね。足りないのは眠気覚ましと活力剤か」
眠気覚ましは目覚め草。活力剤はエナジービーの蜂蜜とニトロペッパーって素材が必要だったかな?目覚め草は王都の北側のフィールドで採取でき……他の2つはファストロンの先、立ち入り制限のある森で手に入る。
「まずは北のフィールドに行ってみよう。難易度的には森よりは低いみたいだし……」
王都に近いところはそこまで寒くないらしいし……目覚め草を集められれば良い。攻略は今のところする気無いし。私は早速、北のフィールド……霜降り草原に向かった。
◇
霜降り草原。雪と氷に覆われし北のエリアの玄関口のような場所。青々しい草原が広がり、その葉は薄らと霜を纏いキラキラと輝いている。奥へ行けば行くほど霜の量は多くなり寒さが増していく……
「うぅ……入ってすぐなのに割と寒い。アセロラが居てよかった」
「メララ」
私はアセロラを抱き抱えて小さく震えていた。ここの寒さを例えるなら……冷房がガンガンに効いた公民館。普通なら丁度良い温度なんだけど……今の私の格好は露出多めのヘソ出しスタイル。寒さがダイレクトに襲ってくる。
(アセロラの温かさが無かったら帰ってたね……てかプルーンのおかげで氷に耐性あるはずなんだけどね?)
寒さと氷耐性は別ってこと?それか耐性あってこの寒さなのか……誰か調べてくれないかな?
「さっさと目覚め草集めて帰ろう……」
私はアセロラを抱えて目覚め草を探した。目覚め草は割と簡単に見つけられたね……見た目としては一輪咲きの水色のキキョウ。群生して生えてくれるから集め切るのは早いかな?
「チュゥゥゥ!!」
私がお腹にアセロラを当てながら採取をしていると白いネズミが威嚇してきた。あれは……確かホワイトラットだったかな?
「相性的にアセロラが良さそうだけど……アセロラが居なくなると私が辛いからレモンお願い」
「ビリリ」
「メララ……」
アセロラから「えぇ……」って感じの返事が返ってきたけど、今回は私の懐炉として活躍してほしい。なお、ホワイトラットはレモンの攻撃で既に死んでいた。ただ白いだけのネズミだったね。
(スチンを纏えていれば多少は寒さも軽減されていたのかなぁ……)
実は今の私はスチンを纏っていない。理由はシンプルに服のデザイン……露出増えたせいでスチンが擬態できる範囲が減ったんだよね。
「素肌に直もできなくは無いけど……上手く同化できなくて、私も擽ったくなるからね」
なお、移動に関しては小さめの背嚢を買って、その中に入れて私が持ち歩いてる。じゃないと移動速度が合わないからね。
「ドロォ……?」
「ん?まだスチンの出番は無いよ。ここだとプルーンの支援も必要無いし」
私は背負ってる背嚢からモゾモゾと出てきたスチンを撫でた。北エリアは氷に耐性持ってるやつが多そうだからね……活躍するとしたら南かな?あそこはエリア的に水気が多いみたいだし。
ヒュゥゥゥ……
「ちょ、風が……さ、寒い!!」
呑気に考え事してたら風が吹いてきた。白衣が捲れて素肌に冷風が直撃する……目覚め草を採取して早く帰ろう!私はアセロラを離さず、震えながら必要分の採取を行った。




