第30話
「すみません。中央神殿から帰ってきたら久しぶりのお客さんが居たので……テンション上がってしまいました」
「心臓が止まると思いました……」
唐突なホラー攻撃からしばらくして、私はクティアさんから謝罪を受けていた。そのボディスーツをベースにシスター服に改造された服装で謝られると変な気分になるね。
(スライム関係はそっち方面しかないのか?)
私も町歩いていると男からの視線が凄いしね……胸の部分が特に。あれ見られてるって普通に分かるからね?実害出てきたら速攻衛兵送りにしてやる。
「ここで話すのもなんですし。良ければ応接室にどうぞ」
私が心の中で変態共への怨嗟を燃やしている中、クティアさんに神殿の応接室に案内された。この部屋は割と普通だね……なんか安心できる。
「で、当神殿にはどういったご用でしょうか?うちでやってるのは治療に聖水の販売、生贄の儀式くらいですが」
「普通に観光です。あとスライムテイマーなので何かあるかなと…………ん?なんか最後おかしくありませんでした?」
なんか邪教がやりそうなことが出てきた気がするんだけど?
「スライムテイマーですか……異邦人の方にしては珍しいですね。このシンフォニアにも異邦人の方が来るようになりましたが……スライムだけの人は初めてです」
クティアさんはそう言うと、部屋の隅でワチャワチャしているライムたちを見た。すみません……うちの子たちが。私がそう思っていると、ガチャという音が後ろから聞こえた。チラッと振り向いて見ると扉が開き、隙間から1匹のスライムが入ってきていた。虹色……いや、玉蟲色かな?そのスライムを見た途端、背筋に何かが走った。
(何……あのスライム……なんか怖い……)
何かされた訳じゃない。ただその姿を見ただけ……それだけなのに身体が震え、息が苦しくなってきた。意識も段々薄れて……
パン!
私が意識を手放しかけた瞬間、乾いた破裂音のような音が鳴った。それを聞いた途端、身体の震えや息苦しさが一瞬で消えた。
「こら。ショゴちゃん!ドアを開ける時はノックしてって言ってるでしょ?」
「ショゴー……」
私が自分の身体の様子を確認していると、クティアさんが入ってきたスライムを叱っていた。クティアさんのパートナーだったのか……
「ごめんなさいね。ショゴちゃんがスキルを切ってなかったから……lvが低い人がこの子を見ちゃうと恐怖状態になっちゃうのよね」
「成程……あれが恐怖状態なんですね」
存在は知っていた。ただ思ってたよりキツかった……てか、待って?私もうすぐlv40なのに結構ガッツリ状態異常食らったよね。ショゴちゃんlvいくつ?聞きたいけど……なんかショゴちゃんのことを聞くのはマズいって私の本能が警告してる。今は聞かないようにしよう。
「それにしても、ショゴちゃんの恐怖をあそこまで耐えられるとは素質ありますね……良かったらうちの神官になってみません?」
「神官ですか?」
シスターとかそんな感じなのかな?でも神官って簡単になれるものなの?
「意外と簡単ですよ?私みたいな管理や運営に関わる神官は色々試験がありますが、一般神官は条件さえクリアしてれば申請すれば完了です」
この世界の神殿……もとい教会の神官は2種類居て。神殿や教会の管理運営を行う上級神官。聖水などの作成納品、世界を渡り歩いて様々な活動を行う一般神官。一般神官の条件はまとめると以下の通り。
①シンフォニアまで来ていること。(神官の手続きがシンフォニアの中央神殿でしかできないため)
②聖水、聖油、聖布、聖鉄。これらを作成できること。(素材は教会から支給されるため作成できればいい)
③光属性。もしくは回復系のスキルを持つパートナーを仲間にしていること。(ライムがいるからクリア済み)
以上3つ。確かに簡単だね……②に関しては料理や木工の生産者のために免除制度があって、教会主催の祭典の料理を作ったり、祭壇の作成とかを定期的にすればOK。
神官になることのメリットは神殿や教会との繋がりが得られること。各町の教会から支援が受けられるから冒険が楽になる。
「そういえば中央神殿とか教会とか……どういう繋がりなんですか?」
「あー、分かりにくいよね。簡単に説明すると……」
中央神殿はこの町にある全ての神殿と各町の教会を統括している機関。教会は兎も角、神殿はそれぞれが独自の信仰をしているから権力自体はあんまり無いらしい。非合法な行為をすれば総力を持って潰しにかかるみたいだけど。
教会に関しては中央神殿の支店みたいな感じ、町の治安維持や治療を行う。プレイヤーなら死んだら復活する地点だね。
それと各神殿において信仰されているのは神様じゃない。信仰対象は創造神って神様の眷属である神獣……この神殿ならスライムの神獣を信仰している。
(教会と神殿の関係性……こんな感じだったんだね)
知ったところで活用できる気がしない。とりあえず神官になることのメリットの続き。神官になると神殿に所属する必要があり、その神殿から装備の支給を受けることができる。私の場合はこのスライムの神殿になるのかな?
(てことはクティアさんの着てるような服を渡されるってことか……)
ボディスーツなのは今更だけども……白衣を上から着れるよね?これ無いと恥ずかしい。
と、メリットは現状これくらい。逆にデメリットの方は、定期的に教会に聖水などの納品。教会からの依頼を受けなくちゃいけないことくらい。あっ、テイマーギルドには登録したままでOK。そういう人は多いらしい。
「他にメリットとしては、この神殿特有のものもあるんだけど……これは神官にならないと教えられないんだよね。じゃないと天罰が来ちゃうから」
「天罰をそんな荷物が届く感じに言わないでください……」
さーて、どうしようかな?神官になることに忌避は無い。使えるものは使うのは当たり前……うん、神官になろう。この神殿特有のメリットも気になるし。私は神官になることを決めた。調薬士兼一般神官……新しい肩書きが増えたね。
◇
「うーん、本当に簡単に神官になれてしまった」
「神殿……一般神官は人少ないから条件さえクリアしてれば簡単なのよ。あと一般神官は危ない場所に行かなくちゃ行けないから、上級神官になろうとする人が多いのよね」
「好きで危険なところに行く人は少ないですからね」
この世界の住民は、私たちプレイヤーみたいに生き返ったりできないし。それ考えると一般神官はプレイヤー向きだね。そこそこ便利な称号貰えたし。
ーーーーーー
一般神官(スライム)
▷効果
スライム系のモンスターからの敵意減少
野生のスライム系モンスターをごく稀に仲間にできる
▷取得条件
一般神官となりスライムの神殿に所属する
ーーーーーー
スライムとあんまり戦わなくていいのはちょっとありがたい。仲間にする方は本当に稀らしいから期待はしないかな。育成も割と楽しいし。
「さて、ココロちゃんはこの神殿所属の神官になったので……まずは制服を渡すね。ショゴちゃん持ってきてー」
「ショゴー」
ショゴちゃんが跳ねて部屋を出ていった。しばらく待っているとショゴちゃんは大きめの箱を乗せて戻ってきた。あれが私の制服か……
(やっぱりボディスーツだよね……てか露出多くない?)
まず、上半身と下半身で分かれてる。上半身は袖無しで鳩尾の辺りまで、下半身はホットパンツみたいになっている。シスター服要素なのか白いラインの入った布が胸や腰回りに付けられていて、黒いニーソも入ってたけど……それでも露出部分が増えてる!
「ただ、前の装備よりは可愛いんだよね……」
ちゃんとデザインが練られてる……しかも効果が凄く良い。この神官戦闘服(スライム神殿)には2つ効果があり、1つ目はスライム系のパートナーの能力を20%上昇させるもの。これはシンプルに強い。
2つ目の効果が中々ぶっ飛んでいて、パートナーにしているスライムの属性に対して30%の耐性を得る。今ならライムの光、レモンの雷、スチンの水、アセロラの火、プルーンの氷に対して耐性がある。
(耐性のおかげで死ににくくなったね……これは全属性スライムを仲間にしたくなってきた)
最大lvが100としたら12匹仲間にできるから……耐性の数がエグいことになるね。これは神官になって良かった。
「ところで白衣って着ても……」
「大丈夫だよ。そもそも寒い地方とか行く時はコート着ないと辛いよ?」
それはそう。この露出度で寒いところに行ったら1時間もしないで死ぬ。私はそんなことを思いながら白衣を羽織った。この白衣も新しくしないとだね……この後に防具屋で見てこよう。
「制服はこれで良し。次はこれね」
次にクティアさんは私に本を手渡してきた。本は深緑色の革表紙で、表には燻んだ水晶のようなものが13個付いている。水晶は1つだけ大きいやつを、残りの小さい水晶が等間隔で囲むように配置されてた。
(本……と、持ったらいくつか水晶の色が変わった?)
時計で例えると1時から5時の部分。上から白、黄色、青、赤、水色に変化した。これって……パートナーの仲間にした順番と属性に対応してる感じだね。
「それはこの神殿の聖書。ここの所属を示すものだから無くさないようにね」
聖書。宗教っぽいね。中身は後で読んでおこう。聖書を受け取ると渡すものはもう無いらしく。私は神殿の設備の説明を受けた。入りたてだから私が立ち入ることができる場所は少ない……広間と応接室、聖水を作ったりする生産室に材料のある倉庫。これが現状で私が入れる部屋。
「コツコツと頑張っていこう。役に立てるってことを証明するために!」
私は装いを新たに気合を入れた。
神殿と教会のシステム考えるの大変だった……
新しい装備は露出高めだけど、ちゃんと隠すところは隠してあります!だってココロは未成年ですから!




