第29話
王都シンフォニア。白い石材でできた建物が建ち並ぶ大都市で、街の中心には白く青い屋根の神秘的なお城が建っている。凄いファンタジー感の強い場所だった。
(凄く大きい町だね……移動も大変)
その大きさはファストロンの10倍以上。いくつもの町が合体したと言われても納得できる……地区が東西南北、中央で分かれてるしね。
(まぁ、1番の特徴は……町の中に神殿が凄い数あることだよね)
シンフォニアの最大の特徴。それは全ての系統のモンスターの神を讃える神殿からあること……獣系とかは更に猫系、犬系と細分化されている。もちろんスライムの神殿もある。
(思ったより宗教強めの国だった?)
あんまりそういう感じはしないんだけど……この辺は情報収集しつつ調べてみよう。一先ず、テイマーギルドに向かうとしよう。
確かテイマーギルドは中央区にあるって門番の人が言ってたね。ここから歩きだと時間かかりそう……教えられたあれを使おうかな。私は近くの水路の船着場に向かった。そして船頭さんが居る小舟に乗った。
「すみません。テイマーギルドまでお願いします」
「あいよー。パートナー4……いや5匹か。合計700Gね」
この小舟は所謂タクシーのようなもの。この町は大きいため、移動の際に町に作られた水路を使って移動できる。なお、パートナーが泳げるモンスターだからと勝手に水路を利用するのはNG。衛兵隊やテイマーギルドで許可を得る必要がある。
ピー……
船代を支払うと船頭さんは小さな笛を取り出し吹いた。すると船の前方からザパと何か出てきた。
「キュー」
出てきたのはアザラシのモンスター。アザラシは船の先に括り付けられた紐を咥えると船を引っ張りって進み始めた……パートナーの力を借りるのはこの世界らしいけど、何故アザラシ?
「お客さん。もしかしてアイスバーグ・シールを見るの初めてか?こいつは俺たち氷海商会の従業員さ」
「キュー」
アイスバーグ・シール。極寒の氷海に生息するモンスターで過酷な環境を生き抜くパワーとタフネスを持つモンスター。
そして氷海商会は北の地方で1番大きな商会で、王都では水路での人や荷物の運送を行っているらしい。ちなみに今船を引っ張ってる子の名前はポワンっていうらしい。
「アイスバーグ・シールなのはうちのマスコットだからだな……商会長がアザラシ好きなのもあるが。まぁ、可愛いって理由で子供連れが利用してくれるんだが」
「へー……そうなんですね。確かに可愛い」
「キュー!」
テイマーギルドまでの道中、ほぼ暇なので私は船頭さんと世間話していた。この船頭さん、元々は北の地方で砕氷船の船員として長年働いていたベテラン。そのため北の地方のモンスターとかフィールドの情報を聞き出せた。
(北は寒い環境で薬の素材が少ないらしいけど……その分、手に入る素材は貴重で強力)
今は無理でもいつか採取しに行きたいね。あと面白かったのは私のパートナー数を当てた方法。スチンは偽装してるのがなんでバレたのか……普通に気になるよね。
「あー、そりゃ単純に重さだな。嬢ちゃんとパートナー4匹だけにしては船の沈みが大きかった。だから1匹隠れてんだろうなって思っただけさ」
ちなみに最初は乗船代を誤魔化すのだと思って居たらしいけど、私が素直にお金を渡したからそういうわけじゃないって分かったらしい。
「他の船頭連中には喧嘩っ早い奴もいるから、船乗るときは偽装は解除しとけ。それか乗る前に伝えればトラブルにならねぇだろうよ」
「分かりました」
そんなこんなで話していると船の動きが止まった。どうやらテイマーギルド近くの船着場に着いたみたいだね。
「また利用してくれよ。安くはしねぇけどな」
「キュー!」
船を降りると船頭さんはそう言って去っていった。ポワンちゃんがザバババ!と勢いよく泳いでいった。私たちが乗っていた時よりも速……加減してくれてたのかな?
「アザラシって漢字だと『海豹』って書くからね……可愛いだけじゃないってことか」
うーん、戦いたくない。可愛いからというより強さ的に。私は見えなくなったポワンちゃんを見送りながら冷や汗をかいた。
◇
「ここから進む先が4つに増えるのか……どこから進むのか考えないといけないのか」
私は王都のテイマーギルドの資料室で唸っていた。王都……なんとなく今後の冒険の拠点になる気はしていた。だけど4方向に進むとは思わなかったね。特に東側……ファストロン方面ね。
(ファストロンの新緑の森……その真反対側に進めるようになるとは)
今まで行ってなかったけど、ファストロンを挟んで新緑の森の反対側には森林がある。間に深い崖があり橋がかけられているが、テイマーギルドのランクがC以上じゃないと入ることができない森林がね。
「王都のギルドの受付で素材売ったらCランクになったのも、この森に入るためなのかな?」
私は新しくなったギルドのカードを見た。多分、Cランクになる条件にシンフォニアまで辿り着くっていうのがありそう……そしてCランクになったことである機能が解放された。それは転移。
今まで訪れたことのある町(テイマーギルドがある町)へ有料で移動できる。これがあればファストロンまで山道や山林、森を逆走する必要が無くて助かるね。金額としては王都からサディナスまでの距離なら1000G。セカンディアまでなら2500G。1番遠いファストロンまでは5000G。結構かかるね……乱用注意。
「北は寒い雪と氷のエリア。西は砂漠と火山のエリアで、南は海と島のエリアか」
東は森林と山って感じみたい。それと東西南北には1つずつ他の国があるらしい……そこまで辿り着くのはかなり後になりそうだけどね。
(にしても資料の量が凄いね……流石、王都って感じかな?)
とりあえずこの量を1日で調べ切るのは無理。どのフィールドに行くか決めて、そこの情報を集めるようにしよう。となるとこの後何しよう?
「折角だし、スライムの神殿にでも行ってみようかな?どんな感じか気になるし……」
丸いのかな?ちょっと観光しに行ってみよう。私はテイマーギルドを出て船着場に行き、スライムの神殿までお願いした。そして船の揺れに身を任せ、スライムの神殿に到着した……凄い王都の端っこの方なんだけど?建物もどこか燻んでいる感じがする……
「人通り無いね……船着場も誰も居ない」
船頭の人に言われたのだが、この船着場は使う人がほぼ居ないんで、アイスバーグ・シールが反応する特殊な鐘を鳴らさないと船が来ないらしい。
(王都の中なのにこんな人が居ないことあるんだね……)
治安が悪いとかじゃなく。本当に人が居ない……私は少し不穏な空気を感じつつ、神殿へと向かった。この道を真っ直ぐ進んでいけば到着するはず。
コツ。コツ。コツ。
ピョン。ピョン。ピョン。
私の足音とライムたちが跳ねる音しか聞こえない。不穏過ぎて喋る気にもなれず、ライムたちも騒いだりしないから黙々と歩き続けていた。そしてようやく神殿に辿り着いた。
「なんかボロ……趣きがあるね」
スライムの神殿はここに来るまでに見た神殿と比べると小さく、一部が欠けていたり石材が日に焼けていたりしていて味があった。まぁ、こういうのは歴史を感じられて好きではある。
「お邪魔しまーす……」
扉は開けっぱなしになっていたので、私は挨拶しつつ中へ入った。中は思っていたよりも綺麗。なんか不気味なデザインの長椅子や燭台、祭壇のせいで雰囲気が怖いけども。
「誰も居ないね……管理する人居ないのかな?」
にしては燭台に火が付いてるんだけど……私は不思議に思いつつ周りを見回す。人が居ないし、また今度来ようかな。ただここで時間潰すのもあれだし。私はクルッと振り返り帰ろうとし……振り向いた目の前に誰か居た。
「こんにちは。ようこそスライムの神殿へ」
「ぎに"ゃぁぁぁ!!?」
笑顔で挨拶したその人に対し、私は悲鳴で答えることしかできなかった。
これがこの神殿の管理人であり、司祭でもあるクティアさんとの出会いだった。




