第27話
「か、勝った…………ネバリサボテン完」
ネバリサボテンに手を付けて3日。私は実験地獄から抜け出せた……このネバリサボテン、思っていた数倍厄介な代物だった。
(水分をどれだけ抜いたかで効果に差が出るとはね……その後、どれだけ治療液を加えるかで更に変化する)
なんて扱い難い素材なんだろう……私みたいなパートナーの力を借りなきゃいけないプレイヤーにとって。
「試しに治療液無しで作ったら簡単にできたからね。スライム由来の液体を使うと面倒になるとは思わなかった」
スライムの液体は色々な使い方ができる素材。私の薬もライムの薬液や治療液のおかげで良いものが作れていた……
「スライムが有利にならないように運営が仕掛けた罠かな……試行錯誤すれば作れるのは優しいけど」
これからは治療液を考えなく使わないように気をつけよう。気づくのに遅れて長引いたからね……
「とりあえずこれで山道でやり残したことは無いね……じゃあ明日攻略しちゃおう」
ネバリサボテンの実験が終わったからね。これ以上山道で得られることは無い……ここのモンスターからは、薬の素材になるものが何も得られないって知ったからね。
(本当に旨みが少ない……)
鳥たちは装備と料理の素材しか落とさない。ナイトオウルはまだ戦ったことないけど……あいつは出会いたくない。
「情報収集で遭遇したプレイヤーの話聞いたけど、月明かりがあっても発見は困難……暗殺者って言われてるからね」
スカイファルコンとは違い鳴き声は出さず、羽音も無いから気がついたら味方が攻撃されている。しかも《暗殺》ってスキルで不意打ちの威力が高く、防御力の無いパートナーは第2進化でも一撃でやられてしまう。
「昼と夜で難易度が違い過ぎる……」
その分素材は高いんだけどね……薬に使えないから私にとってはほぼ無価値。というか、戦おうとしても全滅する予感しかしない。耐えられるのスチンだけだろうし。
「アセロラもそろそろ進化できるけど……スライムは全体的に防御力無いからね」
ちなみにアセロラの進化が近いのも攻略に踏み切る要因。あと私のlvが30後半になってきて、新しい子を増やすことを考え始める時期になってきた。なので明日頑張って王都まで行ってしまうつもり。
「新しい素材が欲しい……実験し足りない」
危うく設備が無いのに悪臭の実とかに手をだすとこ出すところだった……なんか私、実験中毒になってない?
「癒しを求めてやってた筈なんだけど……まぁ、ライムたちに癒されてるけどさ」
プニプニモチモチを1日1回摂取したくなるし。カラフルなライムたちが跳ね回っているのを見てるのも楽しいしね。
「あっ、そろそろログアウトしなきゃ……」
ログアウト前にプレマに売る商品を設定して……メッセージも確認。最近はマナーが悪いブラックリスト行きが少なくていいね。
「リジェネの丸薬も試作品は流してたけど、売れ行きが良いから完成品はもっと売れるかな……まぁ、手間がかかるからあんまり作りたくないんだけど」
手間がかかるんでちょっと高めの値段設定にしてる。これは私の汗と涙の金額……割とヒイヒイ言いながら作ってるからね。リアルだったら腕だけ太くなってる。
(よし、それじゃあ明日に備えて早く寝よう)
私は借りてた部屋を出てログアウトした。
◇
「良い天気……今日も砂嵐が発生しそうだね」
乾いた地面を見て私は小さい舌打ちが出そうになった。まぁ、雨が降ってるところなんて見たことないけど……反対側はビシャビシャなのに本当、なんでこっちはカラカラなんだろうね?ゲームだからって言われたら何も言えないけど。
「「ピィィィィ!」」
山道を降りていくと空からスカイファルコンたちが襲いかかってくる。
「もうお前らは怖くないんだよね……慣れちゃったし。習性も知っちゃったからね」
こいつら調べたら赤と黄色のモンスターを優先して狙う習性があるらしい。だからレモンとアセロラばっかり狙われる。
「赤と黄色……スカイファルコンの青を含めると色の三原色だね」
そういうのが設定に盛り込まれてるのかな?私はレモンとアセロラに襲いかかり、ダメージを与えるどころか返り討ちされているスカイファルコンを見た。あー、また要らない羽がストレージに溜まっていく……
(こいつの羽、硬いから羽毛布団とかに利用できないし……本当に要らない)
王都に着いたら全部売り払おう。薬にならず、金にもならない……
「コケェェ!」
「お前は金になるからウェルカムだけどね」
強いことに目を瞑ればだけど……バトルチキンは何度と戦ったのに安定しない。こいつが死に際に相手を道連れにしようとしてくるのがね。
(スキルなのか死にかけると麻痺や凍結が治るし、最後の一撃の威力も上昇する……更には必ず1回は死なないっていうね)
まぁ、連続で攻撃を叩き込めば殺せる。あくまで耐えるのは1回だけだから……連続でダメージを叩き込めば反撃の隙を与えずに済む。
「コケェェ!」
「ビリリ!」
「メララ!」
バトルチキンの飛び蹴りを回避し、レモンとアセロラは挟むようにバトルチキンへ攻撃を加える。同時じゃなくレモンの方が先に当たり、バトルチキンが死を耐えた後にアセロラの攻撃が入り、バトルチキンは反撃できずに倒れた。
「今回は成功したね……」
この方法、タイミングが大事だから成功率は割と低い……大体失敗してレモンかアセロラが蹴り飛ばされる。一撃じゃ死なないからライムが治療してくれ、保険で持続回復の薬も飲ませてはいる。できる限りの手段は用いてる。
(バトルチキンが強キャラってわけじゃないんだけどね……私たちが脆過ぎる)
やっぱり装備無しは辛いわ……私の装備で能力上げても微々たるものだし。
「王都での装備に期待だね……と、風が吹いてきた。物陰に隠れるよ」
「メキュ」「ビリ」「メラ」「ドロォ」「ヒヤァ」
風の吹き始めを感じ、私は砂嵐に備えた。あとは落石が隠れてるところに落ちてこないことを祈るだけ。
(砂が口に入らないように白衣の袖を口元に……)
私はライムたちと固まって強くなっていく風を耐えていった。




