第26話
「ここの植物……採取するの難しい。痛て!」
私はブスッと刺さった棘に悲鳴をあげる。うー……サボテンに棘は付き物とはいえ、本当に採取しにくい。
(これ転がり落ちた先にあったら最悪だろうなぁ……)
所々に群生している所があるからね……あそこに突っ込んだりしたら、ただ死ぬよりも地獄なことになるね。
「てかこのサボテン。薬にする前に棘の除去しなくちゃいけないよね?このまま薬にするの難しいし」
私は苦労しながら採取したウチワサボテンのようなサボテンを見る。これの情報も勿論確認してある。
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ネバリサボテン
乾燥地帯に生えるサボテン
普通のサボテンに比べ、より乾燥に強く
粘り強く生え続ける
針はただ硬いだけだが、茎に持続性のある回復効果がある
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持続性のある回復……要するにリジェネ効果。ネバリって名称はリジェネ効果で粘り強く生き残るって意味も含まれてそうだよね。
「棘の除去は面倒だけど価値はある。実験をするのが楽しみだね……」
私は針が刺さるのに耐えてネバリサボテンを毟り取っていった。厚手の革手袋買おうかな……ずっとこれに苦しむのは嫌だし。
「次はこれだね。これには棘生えてないから助かる……」
次に手をつけたのは赤いアロエのような見た目のヤキアロエ。これは棘が無いから、肉厚な葉を根本から毟り取った。これの効果は火傷の治療効果……現実のアロエも火傷に効くらしいしリアル準拠な薬草となっている。
「火傷はアセロラみたいな火属性のモンスター対策になるから……出すタイミング次第では良い稼ぎになりそう」
ちなみにこれで採取できる素材は終了……うん、少な過ぎ。あとはモンスターの素材に期待するしかない。スカイファルコンとバトルチキンからは薬に使えそうなものは手に入っていない。
「スカイファルコンに関しては弓矢に使える羽しか手に入ってない……羽だけって渋くない?」
1番素材が美味しくない。弓矢って不人気な武器らしいからね……ゴブリンくらいしか装備できず、最初の方は誤射が酷い。敵じゃなくて味方の頭を撃ち抜いてしまうことも。
「このゲーム、フレンドリーファイア有りだからね……」
乱戦とか悲惨だろうね。私たちは主な攻撃がタックルだから、あんまり味方に当たることも無いんだけどね。
ビュゥゥゥ!
「っ!また風が……みんな転がっていかないよう気をつけてね」
採取していると強い風が吹き、土が巻き上げられ始めた。これまでも何度か同じくらい強い風が吹いて……アセロラが飛ばされかけた。無事私がキャッチできたから良かったけど、飛ばされてたら大変なことになってたね。
(顔に砂粒とかが当たって地味に痛い……)
私たちはサボテンの陰に集まって風が止むのを待った。側から見ればカラフルなお団子が見えてるだろうね……
「風止んできた……ぺっ!口に土が」
風は20秒ぐらいで止んだ。誰も飛ばされていないね……さて、じゃああいつに備えるか。
「ピュォォ!」
「出てきたね……サンドバード」
サボテンの陰から出ると私たちの前に茶色の鳥……サンドバードが現れた。こいつは強風による砂嵐の後に出現するモンスター。見た目はライチョウに似ていて飛行はしてこない。
強さに関してはスカイファルコン以上、バトルチキン以下。土を蹴り上げて目潰ししてきたり、石を飛ばしてくるくらいだね。ただ、こいつ素材が高く売れそうなんだよね。
「資料に出現条件があるって書いてあって、全然出ないと思ったら割と出てきてくれるんだよね」
薬の材料になってくれないのが不満だけどね。私は土を飛ばそうと地面を掻いているサンドバードを睨んだ。サンドバードはちょっとビビったような仕草を見せた。
「ピュ、ピュォォォ!」
サンドバードは自分を鼓舞すると土を飛ばし、こっちへ突撃してきた。土はスチンが触手を伸ばし放水して迎撃、サンドバード自体はアセロラの炎上タックルで沈められた。
(そろそろ1回帰るかな……集めた素材で薬作りたいし)
あと、これより下に行くと帰るのが面倒になる。帰りは登りになるからね……
「うわぁぁ!?」
「あっ、プレイヤーが転がり落ちてる……南無」
私は斜面をゴロゴロと落ちていくプレイヤーに合掌する。止めようにも遠いし……巻き込まれて一緒に転がり落ちる未来が見える。
「おわぁぁ!?」
「きゃぁぁ!!」
他のプレイヤーの悲鳴が聞こえる中、私は心を無にしてサディナスへ戻った。
◇
トントントントン。ネバー……
「ネバリサボテン……ネバネバが強過ぎるんだけど?」
私は針を取り、皮を削いで細かく刻んだネバリサボテンを見て溜め息を吐いた。ネバリサボテン……まるでメカブのよう。いや、あれよりもネバネバが強い……最早モチだね。
「今までの素材に比べて水分量が多いね……普段の感覚でやると効果が薄くなりそう」
これ1回水分飛ばすか……治療液の量を少なくすると効果下がるだろうし。ネバネバしてて容器に移し難い……
「弱火で加熱していこう……強火は多分焦げる」
じっくりコトコト混ぜながら加熱していく。ネバネバしていたのが段々とモッタリしてくる……中身が重くて腕に負担が。
「ここらで治療液を投入……」
ある程度水分が飛んだところで治療液を投入し、更に混ぜていく……あれ?水分を足した筈なのに重いままなんだけど。
(これ……丸薬に丸められるかな?)
そんな心配をしつつ加熱を止めて粗熱を取った。幸いにも冷えたやつはガチガチに固まらず、無事に丸くすることができた。
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持続回復丸薬(5個入り)
効果
1粒でHPを1秒間に5回復させる
持続時間は20秒で、時間内に追加を飲んでも効果は発揮されない
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合計回復量は100か。これ改良したらもっと伸びるのかな?シンプルな作り方だし改良の余地はある。
「次はヤクゼンダケも入れてみるか……1から作るの怠い」
1回ヤキアロエの方をやろうかな。こっちはそこまで面倒じゃないでしょ。こっちも面倒だったら苦しいけど……てか泣く。
「おー、スルっと皮が剥けた。ネバネバしてないから刻みやすい」
ネバリサボテンとは真逆でヤキアロエは扱いやすかった。多肉植物だからネバリサボテンと同様水気が多いけど、加熱すれば問題無い。そしてネバリサボテンと違って粘り気が殆ど無いから掻き混ぜるのに支障は無い。
「ふん♪ふん♪ふーん♪」
私はテキパキとヤキアロエの薬を作り終えた。火傷治し……新しい状態異常回復薬。
「今回加熱し切らないようにして軟膏に。火傷は飲み薬より塗り薬のイメージ強いし」
ライムの治療液は加熱を調整すれば軟膏も作れる。飲み薬ばっかり作ってたから使う機会が無かったんだけども……塗り薬が向いてる効果って少ないしね。
「さーて、それじゃあネバリサボテンの実験しようか。腕の筋肉が死ぬ前に終わらせたい」
私はネバリサボテンとの長い戦いを開始した……
結末として、私の腕が死んだので実験は翌日に持ち越しとなった……筋肉疲労なんて状態異常初めて見たよね。
「これは長い戦いになりそうだ……」




