第24話
胞子の山林後半。山を登っていくとシダがどんどん生い茂っていき、薄らと霧が発生していた。中には私よりも大きいシダも生えていて視界最悪……モンスターたちが近づいてくるとガサササ!と音が鳴るから接近には気づきやすいけど。一部を除いて。
「ビィィィ!」
シダの上を飛び、こちらへ向かってくるのは空色のハチ……ミストワスプ。こいつは飛んでいるからシダが揺れず、威嚇してくるまで接近に気づきにくい。ついでに……
「「「ビィィィ!」」」
こいつは基本群れで出現する。視界不良の森の中、飛んでくるやつが群れで出てくるとかキツい……普通ならね。
「ヒヤァ」
「「「ビィィィ!?」」」
私たちの場合、プルーンの凍結液を浴びせれば簡単に落とせる。その後は全員でボコボコに……楽な勝負。
プルーン居なかったらここの攻略、どれだけ地獄だったんだろうね?考えたくもない。
(氷属性大活躍だね。あとは雷属性もか)
逆に火属性は苦労する。パートナーの進化先として火属性は人気……他のプレイヤーも苦労してるのかな?
「逆に今後は氷や雷が苦労する場所も来そうだね……色々な属性のスライムを集めなきゃ」
将来、私の拠点はカラフルになりそうだね。ちなみにミストワスプの素材は針と睡眠毒が詰まった毒袋。睡眠毒は欲しかったものの1つだから嬉しいね。
(まぁ、同時にこいつの恐ろしさを垣間見たけども……)
刺されたら寝てしまい。意識が無いところをガジガジブスブス……鳥肌立ってきた。麻痺みたいに意識がしっかりしてたらトラウマになりそう。
「想像しただけで寒気がする……睡眠対策なんて素材が無くて作れてないし」
一応、強い衝撃を与えれば解除することはできる。起き上がるまでに刺され、再び夢の中に入ってしまうから確実と言えないけども。うちの場合は起こせる程のパワーがある子居ないし。放電や炎上がダメージソースだから……それで起こされたら死ぬ。
(スライムの弱点だよね。能力が無いと弱いのは……)
サイズが大きければ、重さとかで何とかなるんだけどね。ボディプレスで押し潰したりできる。ラージスライムを選ぶとそっち系になるのかな……だとしてもラージスライム選ぶ気無いけど。
「食事による進化でも、大きくなる進化あると思うんだけどね……」
食事量とか関係するのかな?割と与えてる方ではあるんだけどね……ライムは別として。ライムは本当に聖水の在庫が。新しい町に向かう理由に聖水の材料探しも含まれてるし。
(次の町から行けるフィールドにあると良いなぁ……)
私はそんなことを思いつつ、シダを掻き分けて進んだ。ほぼ寄生されているモスリザードにモススパイダー。ミストセンチピートにミストワスプを蹴散らしていく。
寄生モススパイダーは左右にステップしながら近寄って来て、地味に面倒なんだよね……あと木に衝突しても怯まないのが怖い。
『個体名:スチンのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
「スチンのlv。もう20になったんだ……スチンはあんまりステータス見ないから意識してなかった」
HPやMPの確認もあんまりしてなかった。私も攻撃受けないように気をつけていたし……さて、スチンの進化先はどんなのかな?
ーーーーーー
進化先
▶︎ハイハードマッド・スライム
より硬い泥で構成されたスライム
防御力は金属に並び立つが、その流動性の高さによって柔軟さも兼ね備えている
身体を構成している泥はより高い栄養を蓄えており、植物の育成を大きく助ける
▶︎スワンプ・スライム
保水性に優れた泥によって構成されたスライム
水を吸収することで身体を大きくすることができ、蓄えた水を攻撃として利用する
防御力はかなり高く、生半可な物理攻撃は優しく包み込み無力化させてしまう
吐き出す水は栄養が豊富であり、地域によっては豊穣の化身と崇められている
ーーーーーー
ライムと同じく進化先が2つ。しかも2つ目のは身体を大きくすることができる進化先。
(特殊進化をした子は進化先が増えやすいのかな……これは後々検証したいね)
後、スワンプ・スライムの条件。ここの泥枠を食べたからだろうなぁ……逆にそれ以外考えられない。特殊進化に繋がるとは思わなかったね。普段食べてるのとほぼ変わらないものだったし……
「これどうしよう……どっちも似たような進化先だし。属性的にハイハードマッド・スライムは土属性。スワンプ・スライムは水属性」
今のメンバーだとスワンプ・スライムがシナジーあるかな。でもハイハードマッド・スライムも捨てがたい……こういう時はスチン自身に選ばせるか。私が悩むより当人……当スライムがなりたい方を選ぶのが吉。
「……ドロォ」
「スワンプ・スライム……そっちで良いんだね」
私はスチンが選択したスワンプ・スライムへ進化させた。進化を遂げたスチンの見た目は青味がかった黒色……前に桜が見せてきたファッション誌に載っていたブルーブラックって色に似てる。サイズは2倍くらいに大きくなっていた。触ってみるとタポタポしてる……プニプニでは無いけれど、これはこれで癖になる。
「ステータスの方は……結構変わったね」
「ドロォ……」
▽▽▽▽▽▽
スチンlv1/40
種族:スワンプ・スライム(第2進化)
HP:100/100
MP:55/55
スキル
《悪食》
《物理耐性・Ⅲ》
物理攻撃による被ダメを30%軽減する
《貯水・Ⅰ》38/1000
体組織に水を蓄える。蓄えた水を利用することで身体の体積を増加させられる
《放水》
《貯水》で蓄えていた水を放出する
放出する勢いを強くし、攻撃に転用できる
放出した水は飲料水としては利用しにくい
《沼擬態》
泥や泥水のように溶け、身を隠すことができる
泥や泥水の中を素早く動くことができる
△△△△△△
ハードマッドスライムの名残が殆ど無い。違う系統へ進化した感じが強いね。でも鳴き声は変化してないから系統は変わっていなさそう。あと《貯水》の数字がジワジワと増えていってる。
(霧や草木に付着した水、地面の苔や泥から水を吸収し溜め込む感じなのかな?これ植物の乾燥とかに使えそう)
乾燥させた薬草で薬を作ったりしてみたかったんだよね。でも放置してるだけだと萎びたり腐ったりするんだよね……クイラさんの倉庫にはそういうのがチラホラあった。というか今あの家誰も居ないから、倉庫の中がとんでもないことになっていそう。
(あの人1ヶ月は帰らないとか言ってたし……考えないようにしよう)
私はクイラさんが迎える地獄から目を逸らした。そしてスチンの能力チェックを行った。《貯水》は理解できたから《放水》を見てみよう。
ピュー
スチンにやってもらうと水鉄砲のように水を出した。これは農芸の水やりに使えるね……
「どこまで勢いよく出せる?」
「ドロォ……」
スチンはピュー!って勢いの水をビュッ!と勢いよく発射した。どうも勢いを強くすると放水の持続性は下がるみたいだね……溜め込んでいる水の量が少ないからかもしれないけど。これは《貯水》をほぼ満タンにしてから実験してみるとしよう。最後に《沼擬態》だけど……
「これは今までと変わらないかな……」
今まで通りにボディスーツを覆うように擬態してもらった。ちょっと重くなった気はするけど……これは今までのように私の護衛をしていてもらおう。《放水》も攻撃性能あんまりないし……プルーンの凍結を補助するくらい。
(そろそろこの山林の主が出て来るだろうし……このタイミングの進化は良かったね)
何が出て来るにせよ、進化して強くなることは大きなアドバンテージになるはずだからね。
「さてさて……ここの主はどんなのかな?」
まぁ……大体予想ついてるけれどね。私は何処となく嫌な予想を浮かべつつ山を登っていった。
◇
胞子の森。ここで1番印象に残るもの……それは恐らくパラサイトマッシュルーム。モンスターが凶暴化し、傀儡へと変える危険なドラッグキノコ。そんなものがある山林の主……寄生されない程強いモンスターか、寄生され凶暴化したモンスターのどちらかとは予想していた。その結果は……
「後者。寄生されたモンスターか……この山林の生態系、結構終わってるなぁ……」
「ギュベラァァァ!!」
山林中腹の広場のような空間。そこで私たちを出迎えたのは、背中に無数のキノコを生やしたオオサンショウウオ。目はパラサイトマッシュルームの影響か真っ白に濁っている。
「路線バスサイズのオオサンショウウオは見応えがあるね……寄生される前の姿を見てみたかった」
見てて気分が悪い。さっさと倒して……解放してあげよう。私はライムたちと自分に防御力強化丸薬を使い、オオサンショウウオに向かった。
「ギュベラァァァ!!」
オオサンショウウオは私を見るな否や、大きな口を開けて私に向けて突撃してきた。よく見ると口の中にもキノコが生えている……これオオサンショウウオ自体はもう死んでいるんじゃ。
「そんなこと考えてる暇は無いね……みんな丸呑みされないように気をつけて」
私はライムたちに指示を出し、突進を回避した。オオサンショウウオが止まるとレモンとアセロラが攻撃を加え、プルーンが凍結液で身体を凍らせた。
「アセロラ。本体は粘液で燃えにくいだろうけど、背中のキノコはよく燃えそうだからそこを狙って」
「メラ!」
キノコが粘液から水分を奪っているのか、本体に比べれば少しは火が通りやすそう。私も油をかけて炎上を促進させておこう。
今までの敵は動きが早かったり、火を消せる水場に居たりでこの方法使いにくかった。私、コントロールそこまで良くないし。
「ギュベラァァァ!」
電撃、炎、凍結。3種類の攻撃を受けたオオサンショウウオは上半身を持ち上げ、勢い良く前足を地面に叩きつけた。叩きつけた地面から水が撒き散らされ、攻撃しようとしていたレモンやアセロラが地面に転がった。
「ライム。治療お願い」
「メキュ!」
「ギュベラァァァ!!」
私はライムの指示を出し、オオサンショウウオの突進を誘導してレモンたちから離した。寄生されているやつは誘導だけはしやすくて助かる。プルーンが地道に凍結を進めているから、スチンに頼んで《放水》で援護してもらう。さっさと凍って動けなくなれ。
「ギュベラァァァ!!」
「鬼さんこちら。手の鳴る方へ!」
効くか分からないけど挑発しつつ、私はオオサンショウウオを引き付けていった。そしてライムの治療が終了し、レモンたちが戦線に復帰した。身体の凍結もプルーンが地道に頑張ったから全体の3割ぐらい凍っている。
「ギュ、ギュベラァァ……!」
オオサンショウウオも自分の動きが悪いことにようやく気づいたようだった。そもそも凍ってることに今気づいたような様子を見せている。まさかとは思うけど……
「最初から私以外のことは全く眼中に無かった?」
キノコ中毒が末期過ぎて知能が大きく減少。プレイヤーを優先して襲う本能が強過ぎて、プレイヤー以外は関心が皆無……致命的じゃない?
「これ……寄生されてなかったらちゃんと強かったのかな?」
こいつがライムたちとか狙ってきたら普通に面倒だった。ライムたちなんて突進どころか尻尾の一振りですら致命傷になりかねない……防具で防御力上げられないからね。丸薬での強化なんて本当に気休め程度だし。
「こいつの寄生されてないやつとは、いつか戦ってみたいもんだね……それじゃあ氷が溶ける前に倒そうか」
私たちはそこからオオサンショウウオをボコボコにした。寄生されて苦しんだんだから……さっさと楽にしてやろう。
「ギュ、ギュベラァァァ……」
タフ過ぎて時間かかったけど、溶けないようにスチンとプルーンに頑張ってもらって無事倒し切れた。あー、疲れた……
「レモンの全開放電タックルを10発も受けて死なないとか……魔力回復薬だいぶ使っちゃったな」
貯蓄分殆ど使っちゃった。今回は準備不足が否めないなぁ……次の町に早く行きたくて山林後半の情報を調べずに来ちゃったから。あとアセロラの進化をさせてから来るべきだった。アセロラも進化すれば活躍できただろうからね。
「うーん、今回は反省点が多い。次のフィールド攻略は今回の反省点を踏まえよう」
私は消えていくオオサンショウウオを見る。パラサイトマッシュルームに支配された哀れな主、いつかちゃんとした形で出会うことができるのを願って。
今回の戦闘シーン
過去一キツかった
何回書き直したんだろう……




