第23話
ゴリ……ゴリゴリゴリ!
「ふぅ……こんだけ細かくすれば良いはず。腕が疲れた」
テイマーギルドの一室で私は薬研から手を離し、腕を上に伸ばした。ロッククラブの甲殻とキャノンタートルの甲羅……難敵だったね。
(最初、すり鉢でやろうとしたけど……まぁ、無理だったよね)
手首が逝くかと思った。イメージとしてはボキ!と折れる感じ。
ちなみにこのゲームの骨折。薬使っても治すのに時間かかるんだよね……なったことも治したことも無いけど。そもそもパートナー含め、骨折の可能性があるの私だけだし。
「薬研使ってもキツかったけどね……リアルだったら明日筋肉痛」
薬研自体が重いからね。前後にゴロゴロ動かすにも体重をしっかりかけないと殆ど意味無いし。
(自動で粉砕してくれる道具無いかな……とりあえず薬を作ろう)
材料はロッククラブの甲殻(粉末)、キャノンタートルの甲羅片(粉末)。ここにライムの治療液とヤクゼンタケ……正直、治療液とヤクゼンタケは薬の添加物として使いやすい。一緒に使えばOKって感じ。
「治療液に粉末をそれぞれ50gで1:1の割合で入れて……ヤクゼンタケは粉末の半分程度を細かく刻み擦り潰して入れよう」
そしてこれを沸騰寸前まで加熱……カニの甲殻が入ってるからなのかエビセンみたいな匂いがしてきた。カニなのにエビとはこれ如何に?
加熱が終わったら、いつもの様に粗熱を取ってから丸薬にする。なんか黒の強い深緑色になったね。
「さーて、結果の方は……」
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防御強化丸薬(カニ風味)
1粒で被物理ダメージを5分間2%軽減
2粒以上飲んでも効果は変わらない
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飲む量が決められてるのは丸薬としては初めてだね。あとカニ風味って……他の風味があるってこと?
(エビ風味とかホタテ風味とか……5種類くらい作って、瓶に1個ずつ入れれば売れるかな?)
色んな種類の煎餅が入ってるやつみたいに。そんな夢のあることを考えたけども、まずはこれの改良しよう。もっと効果の上がる配合の比率を模索していく……ここが一番大変だけど、やってて一番楽しいところ。
「キャノンタートルの比率を1増やしてみよう。ロッククラブが風味付け程度なのか検証するのに。ライム、そこの容器取って」
「メキュ」
私はライムと一緒に実験に取り組んだ。レモンたちは各々遊んでいたり休んでいたりしている……ぶつかったりしなければ気にしない。
「キャノンタートル多めだと効果は上がるけど、効果時間が少し下がるね……今度はロッククラブも増やしてみようか」
こんな感じで量を微調整。それをコツコツと積み重ねて……完成した丸薬はこんな感じ。
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防御強化丸薬(カニ風味)
1粒で被物理ダメージを5分間5%軽減
追加で飲むことで1粒毎に効果を1分延長する
飲み過ぎるとカニの匂いが強くなるため注意
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効果は上がったけど、なんかよく分からないデメリットが追加された……ロッククラブ入れ過ぎたかな?でも今の量を減らすと効果時間がガクッと減る。だからこのデメリットは消せない。そんな影響無いでしょ……ただ身体からカニの匂いがするだけ。
(私はノーセンキューだけど。カニの香水とか嫌過ぎる……)
これにて実験は終了。このあとは自分で使う用と売る用のを作っていく……防御力上昇の丸薬の売れ行きはどんなもんかな?
「ふん♪ふん♪ふーん♪」
「メキュ♪」
やっぱり薬作成は楽しいなぁ……拠点のお金を貯めていこう。私とライムはウキウキで作り続ける。
◇
(おー、売れ行きがいいね……やっぱり防御力UPは需要がある)
薬を作った次の日。プレイヤー自身の防御力を上げられるからね。飲むだけっていう簡単な方法で。しばらくはこれを主軸に売っていくのもありだね……それはさておき。
「今日はここを攻略し切ろう。そろそろ次のエリアが気になるし」
セカンディアにかなり長いこと居た。そろそろ新しい町に行ってみたい……新しい薬の素材も欲しいしね。
(素材のために川の方を進みたいけど……道が悪いからやめておこ)
今回は安定さを求めていく。川の方だと寄生されたやつと戦いにくい。寄生キャノンタートルとかマジで辛い。あいつ口の中を凍らせても、顎を壊して氷の塊を発射してくるからね……
(あれは精神の方にダメージが来る……)
グロ耐性強くないのに……あれと戦うなら寄生モスリザードの方がマシ。あれはただラリってるだけだから。
「ギィイイ!」
「キシャァ!」
モスリザードとモススパイダーを倒し、キノコを採取して先へ進んでいく。奥に進んでいくほど寄生されたやつが増えてくるね……それと新しいモンスターも。
「ジギィィィ!」
「えーと、こいつは……ヤスデ?ムカデ?」
目の前に現れたのは、黒味がかった水色でヤスデとムカデの中間みたいなモンスター。触角の様に細い霧が頭の上から2本伸びている。
「ジギィィィ!」
ヤスデムカデ……面倒だからムカデでいいや。ムカデは触角の様な霧の量を増やすと一気にこっちへ向かってきた。まるで機関車の様だね……足場が悪いのに中々の速度が出ている。だからこうしてやろう。
「プルーン。足元凍らせちゃって」
「ヒヤァ」
私はムカデが通るであろう道をカチコチに凍らせた。ムカデはその上を速度を出したまま突撃し……思いっきりスリップした。
「ジギィィィ!?」
スリップしたムカデは変な方向へ勢いよく飛んでいき……背中から木へ激突。曲がったらマズイ方向に体が曲がっていた。
「ジ、ジギィィ……」
派手な事故を起こしたムカデは既に虫の息……虫のモンスターだけに。
「最近活躍が少なかったし……アセロラがトドメ刺していいよ」
「メラ!」
アセロラは燃え上がり、炎上タックルをムカデに放ちトドメを刺した。相性不利だからアセロラが全然活躍できない……少しでも活躍の場は作ってあげないと。
「あれの名称はミストセンチピート……センチピートってムカデって意味だったはず」
素材は甲殻と……霧袋?なんか変なものが手に入ってる。説明の方は……
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ミストセンチピートの霧袋
ミストセンチピートの内臓
気化性の高い液体がたっぷり詰められている
下手に傷つけると一気に気化するため注意
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うーん、危険物。扱う時は注意しないと……
(薬作成には使いにくいかな……現状は)
気化しないように手を打たないと……凍らせたりしてみる?ただプルーンの凍結液で凍らせた場合、凍り切る前に破けて爆発しそう。
「ゆっくり凍らせる冷凍庫の様な設備が欲しいね」
よってこれはしばらくストレージに死蔵。拠点を手に入れて機材を揃えたら使おう……忘れない様に気をつけとこ。
(次は地面を凍らせて倒してみるか……色々実験しておきたい)
あとあいつの寄生個体。怖過ぎて出会いたくない。私はそんなことを思いつつ胞子の山林を進んだ。




