第20話
「はぁ……やっぱり服買わされた。また私のクローゼットに服が増える」
第1回イベントが終了翌日。私はお母さんの付き添いでショッピングモールに来ていた。私のクローゼットにまた背伸びした服が増える。
(お母さんは輸入販売店でよく分からない調味料見てる。私はフードコートで荷物番)
有名ハンバーガー屋のポテトとバニラシェイクを楽しみつつね。はー、甘さと塩気が身に染みる……
「あれ〜?心ちゃんじゃ〜ん。何してんの〜?」
「むぐ?」
私がモグモグとポテトを食べてると聞き覚えのある声が聞こえた。声の方を見ると……
「あっ、桜」
「やほ〜。久しぶり〜」
声をかけてきたのはクラスメイトの月宮桜。小、中学校から一緒の腐れ縁……幼馴染でもある。私と違って背が高く、今日買った服も私より桜が着た方が似合うだろうなぁ……なんか心が痛くなってきた。
「夏休み入って初めて会ったね〜」
「そうだね……って、自然に頭抱えないでくれない?」
私は桜にむぎゅーと抱きしめられた。桜は昔からこんな感じ……私のことをぬいぐるみように抱いてくる。本当なら子ども扱いされてるようで嫌なんだけど……もう諦めた。あー、硬い感触が頭に。
「心ちゃん?今何を考えた〜?」
「いや、何も?」
あ、危ない。しばらく会ってなかったから忘れてた……桜が自分の胸がまな板なのを気にしているのを。
「そういえば桜は夏休み何してたの?なんか旅行に行くってメッセージ来てたけど」
「うん、ハワイの方に行ってたんだ〜。凄い暑かったけど〜……ロコモコが美味しかった〜。心ちゃんは〜?」
「私はゲームしてた。【Monster・Evolve・Online】ってゲームなんだけど……」
桜を頭から離し、互いに近況報告した。桜は家が裕福だからハワイの他にも色々行ってたみたい。後でお土産渡すって言われた。桜のお土産のセンスってズレてるから、何渡されるのかちょっと怖い……去年は私と同じくらいの高さのトーテムポール渡されたし。あれ空き部屋に置いてるけど存在感がヤバい。
「心ちゃんがゲームか〜。意外だね〜……渚ちゃんはゲームよくやってるから分かるけど〜」
「あれは重度のゲーマーだから……」
白凪渚。友人かつクラスメイトの1人で、自他共に認める廃人ゲーマー。ゲームに徹夜しての遅刻は両手の指では足りないほど、先生を諦めの境地に至らせている。色んなゲームの大会で優勝したり結果を残していて、その手の界隈だと有名なんだとか。
ちなみに初対面で私に向けて「リアルロリ巨乳……」なんて失礼な言葉を放って来るくらいには無神経。桜の貧乳を弄ったりもしてるからね。私たちの制裁デコピン食らっても反省しない芯の強さには呆れつつも凄いと思っている。
「渚ちゃんはゲームの大会で東京行ってるらしいよ〜。それにしてもその【Monster・Evolve・Online】だっけ〜?なんか私も興味出てきたなぁ〜」
「面白いし桜も楽しめると思うよ。ただ始めるなら第2陣の抽選に選ばれるしか方法がね」
第2陣の抽選に関しては昨日発表された。受付はもう始まっていて、結果が出るのはお盆の頃だったかな?2000人だったから結構倍率が高かったはず。
「ふ〜ん。なんか大変なんだね〜。まぁ〜試しにやってみるよ〜。あっ、そろそろ私は行くね〜。美容院の予約の時間だから〜」
「うん、またねー」
桜はひらひらと手を振って去っていった。それからしばらくして袋を持ったお母さんが来て、また服屋に連れて行かれた……もう勘弁して。
◇
「あれ?なんか沼地に立ち入り規制がかかってる……何があった?」
夜。生産だけでもしようかとログインし、テイマーギルドに行くと悦楽の沼地に立ち入り規制がされていることを知った。
なんでもスワンプ・メガロドンを怒らせた奴が居て、そのせいで霊結晶の柱周辺が入れなくなったらしい。
(となると聖水はしばらく無理そう……他に霊結晶が手に入る場所無いからね)
霊結晶が手に入らないとなると沼地に行く理由も無くなるし。明日からは山に突入しよう……あっ、その前に新しい子を仲間にするか。
「まだ進化先をどうするか決めてないんだよね……」
一回デバフについて調べてみようかな。そこまで状態異常に知見があるわけじゃないから、どういうのがあるのか理解しておいた方が選択しやすいはず。私はテイマーギルドの資料室でデバフを調べた。
「デバフには大まかに身体系、精神系、特殊系の3つに分けられる……毒や麻痺、炎上に感電は全部身体系になるんだね」
精神系は恐怖や混乱などメンタルに来るデバフ。特殊系は呪いや弱体化……聖水の弱体化もここに分類される。この中だと身体系を仲間にしたい。
(精神系も欲しいけど……これは進化に与えるものが難しいそう)
ポイントで交換できるものにも精神系のデバフに関連するものは無い。身体系の中で欲しいのは動きを止めるもの。炎上の怯みや感電の麻痺と被らないもので私が目をつけたのは……凍結という状態異常。
凍結は文字通り凍らせることで発生する状態異常。身体の表面に霜や雪、氷が付着していき動きを阻害。対処しないでいると凍傷という別の状態異常も発生させダメージを与える。
(動きを止めつつダメージを与える。更には濡れている相手なら凍結の進行を促進可能)
ライムの浄化液。レモンの放電と同じように相乗効果がありそう。それにイベントが終わってしばらく弱体化効果は発揮されないだろうし、ここで新しい使い道を増やしてみよう。
「凍結……つまり氷。与える餌は何にしよう」
今考えているのは氷雪砂利。氷雪砂利はモンスターショップで買える餌で、帯電砂利の氷版。
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氷雪砂利
氷と雪が圧縮された塊が砕かれたもの
簡単には溶けず欠片は冷気を放ち続ける
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これなら目当ての進化をさせられるはず。とりあえずポイントで50個交換しておこう。あと氷雪小石って1つ上のやつも30個程交換。どうせ使うことになるだろうからね。
「ライムたちのご飯も減ってきてるし、交換で補充しよう。聖水はどうしよう?」
水で薄めたりできないし……新しい霊結晶の場所か、霊結晶の代わりになるものを探さないとか。教会のやつは品質があれだから与えたくない。体調崩されたら困る。
「残りのやつでなんかしつつ、解決策を探していこう……」
となると時間を無駄にするわけにもいかないね。私は資料を片付けてモンスターショップに向かいスライムを購入した。名前はプルーン……青系の果物ってあんまりないよね。ブルーベリーは安直だしやめといた。
(さーて、頑張って山を攻略しよ)




