第18話
このゲームにおいてプレイヤーは悲しいほど脆い。装備も防御力なんて無いし、鎧なんか着れば動きが遅くなって的になる。そもそもプレイヤー用の鎧なんてそんなに無いけど……プレイヤーが着るくらいならパートナーに装備させた方が良い。どうせ戦えないんだから。
(まぁ、私みたいなパートナー全員装備が何にもできない。なのにプレイヤー自身も脆いってのもいるけど)
一応スチンがいるから紙装甲というわけではない……というかスチンの《物理耐性》があるからその辺の防具より強い。進化したら多分もっと防御力上がる……あれ?もしかしてモンスターを装備するのって最適解なんじゃ?
「強いていうなら装備になれるようなモンスターは少ないことだね……」
スライムはその少数派に含まれている。スライムの新たな利点の発見だね。
「とはいえスチンも万能って訳じゃない。何かしら手は打っておくか……」
現状のタスクとしては燃やすための油の作成があり、これと並行して防御力の補強を行うことになる。優先度的にはカエルの油でもなんとかなる分、防御力の補強が優先されるか。
(ただ防具を新しくするのは一時的な凌ぎにしかならない……やるなら持続的にできることを選ぶのが最適)
そうなると私にできる手段は2つ。1つ目は防御力の上がる称号を得ること、2つ目は防御力を上げる薬を作ること。この2つなら……調薬になるね。
(薬なら売れるし。防御力を上げる薬とか買う人多そうだし……)
ブラックリスト入りしたやつはハンカチを噛んで後悔するだろうから気分も良いしね。問題は素材として何を使うか……防御力を上げる素材に心当たりが無い。
「そもそも防御力を上げる素材ってなんだろ?硬いイメージならカメの甲羅とか?」
確か山にカメのモンスターが居たはず……イベントが終わったら山に行って素材取ってこよう。そろそろ森林と沼地の素材を主軸に作っていくための実験と準備をしたかったし。
「さーて、今後の予定はおいといて……やっぱりゾンビは燃やすに限るね」
「メララ」
床に転がる黒焦げになった焼死体。マッチョゾンビは中々燃えなかったけど普通のフールゾンビはよく燃えた。今までタフで面倒だったのが嘘のよう。
「こいつ程度ならなんの加工もしていないカエルの油で十分」
スケスケで燃えるところのないスケルトンはレモンの放電で、タフなゾンビはアセロラで焼却……完成したね。
「新しいモンスターも追加されないし……安定して攻略できそ」
私がそう思って進んでいると宝箱を発見した。遠目だけどパズル無し……つまりトラップが無いやつだ。すぐに開けられるからストレスフリーだね。私はルンルン気分で宝箱を開けようとした……その瞬間。
「ガチャァァァ!」
「おわっ!?何!?」
宝箱がいきなり開き、鋭い牙が生えた大口で噛みついてきた。私は咄嗟に横に飛び込んで回避して噛まれずに済んだ。こいつは……
(ミミック……宝箱のモンスター)
いつか出てくるんじゃないかと思っていたけども……このタイミングか。あー、心臓止まるかと思った。
「ビリリ!」
「メララ!」
「ガ、ガチャァァァ!?」
私に不意打ちしてきたミミックはレモンとアセロラにボコボコにされていた。物理に強そうな見た目だけど……電撃と炎には弱かったみたいでバカッ!と大口を開けて消えてしまった。
「おっ、思ってたよりもポイントが美味しい。ミミックはポイントが高いのかな?」
あとは経験値も美味しそうだよね。ポイントが高い敵ほど経験値美味しいイメージがある……これはミミック狩りか?
(レモンの進化に経験値欲しいしね。とりあえずトラップの付いていない宝箱には1発攻撃してもらおうか)
二度と不意打ちされてたまるものか。脅かされた恨みは種族単位で支払ってもらおう。私はフフフ……と笑った。ライムたちが少しビビっていたのは見なかったことにして忘れよう。
◇
イベント開始5日目。地道にダンジョンを攻略し続けていたけれど、ミミックはゾンビ以上のレアモンスターだった。広く複雑になったダンジョンで攻略中に3回出会えれば良い方。現在45回目の攻略中だけど遭遇数は10にも達していない。
「広く複雑になるせいで1回の攻略に時間がかかる……」
パズルも難しくなって攻略1回に3時間以上かかることが多い。けれどその分ポイントは攻略回数の割に美味しい。
(軽く調べたら戦闘勢は攻略回数が80とか超えてるらしいけど、 どんなハイペースで攻略してんだろう?)
戦闘型のパートナーで固めてるのかな?なんかガチのプレイヤーには1日20 時間もレベリングしてるヤバい人いるらしいし。普通に身体ぶっ壊しそうな生活リズムしてるよね……
「夏休み中とはいえ、私はそんな生活する気は無いね……」
やったら親に怒られる。お父さんは単身赴任で家に帰って来ないけども、お母さんは普通に家にいるしね……バレたらどんなお仕置きが待ってることやら。
「ただでさえ毎日ゲームしてることに小言が多いのに……ここで長時間もやったらね」
一応、ご機嫌取りでイベント終了の翌日は買い物に付き合っている。丁度いくつか買いたいものあったし丁度良い。強いていうなら必要無いのに服を買わされることかな……私の身長だと大人っぽいものは幼稚に見えるし、子供っぽい可愛らしい服はこの身長を許容しているみたいで嫌。幼稚なの覚悟で大人っぽい服を着なくてはいけない……なんて地獄?
「ヴェェェ……」
「煩い。燃えてろ」
「メラ!」
私は襲いかかってきたフールゾンビに油をかけ、アセロラが着火した。人の機嫌が微妙に悪い時に来ないで欲しい……雑に処理するよ?
(ストレス発散として松明になってくれ……)
私はどうしようもない身長に対するストレスをフールスケルトンやフールゾンビを倒して発散させていく。レモンたちも戦闘を重ねて慣れてきたのか倒すのが手早くなってきた。
(スキルのランクアップもそろそろかな。でもその前に……)
『個体名:レモンのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
遂にレモンのlvが進化まで達した。レモンの進化先は……1つだけだね。
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進化先
▶︎ハイエレキ・スライム
蓄電、放電の他に発電能力を会得したスライム
電気を吸収するだけではなく、MPを使うことで電気を生成、より電撃攻撃に特化している
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発電能力獲得。そして魔力回復薬の出番がようやく来たね……今まで通りの蓄電もできるから魔力回復薬を大量に用意しなくて済みそう。
「それじゃあ進化。そんでステータスを確認」
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レモンlv1/40
種族:ハイエレキ・スライム(第2進化)
HP:65/65
MP:85/85
スキル
《悪食》《打撃耐性・Ⅱ》
《蓄電・Ⅲ》150/200
《発電・Ⅰ》
MPを1消費し、電気を5生成する
生成した電気は《蓄電》にチャージされる
《自在放電》
《蓄電》に溜め込まれた電気を放出する
どれだけの電気を放出するかを自分でコントロールすることが可能
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発電能力だけじゃなくて放電量もコントロールできるようになってる。今までの蓄電した分を全放出じゃなくなったのは大きい。溜め込み過ぎた際にオーバーキル気味だったからね。調整できるようになったのは大きい進歩。
「調整は自分でできるようになってね?過剰放出にならないように……自己管理よろしく」
「ビ、ビリリ!」
私は軽く圧をかけながらレモンにお願いした。こうでもしないとレモンの性格上……毎回全ブッパしそうだから。この子せっかちな部分があって手っ取り早く終わらせようとするから。
(自分で考え最適な行動できるようになる。命令だけ聞く機械になられると困る)
指示出してから動くんじゃ遅い。特に私に的確に素早く指示を出す能力なんて無いしね……ライムたちに自立してもらった方が良い。今後、戦闘中の指示はちょびっと控えめにしていこう。
「早速レモンのサンドバッグ……実験台を探そうか」
「ビリ!」
ゾンビは要らん。スケルトンだけ来い。そんなことを思いつつ、やる気に満ちたレモンの攻撃を叩き込む相手を探し先へと進んだ。




