第162話
1週間遅刻しました
異動する人の引き継ぎが……
本当疲れた
薬の改変。それは完成品を弄る邪道中の邪道……失敗したものを誤魔化すようなものだからプライドの高い人には受け入れられない技術でもある。クイラさんに教わってた時にそう話してもらった。
「ま、そんな感じのこと言われてるけど。実際には改変する難易度が高いし、やるくらいなら新しく作り直す方が楽っていう感じだね。ちなみに私は容認派だね」
「失敗……あの爆発で飛び散った薬も改変できるんですか?」
「無理だね。そもそもあれは焦げちゃってて直しようが無いからね……あ、これ運んでおこ」
「それ中身重いですよ?1人で大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈……うっ!?腰が!!」
「クイラさーん!?」
「メキュー!?」
…………あの時は大変だったね。あれからクイラさん腰を痛めて殆ど寝てたし。一応、改変のやり方は教えてもらったけど1回もやったことは無い。そもそもやる程の失敗作なんてなかったしね。
「それがこんな土壇場でやることになるとは思わなかった……さてとそれじゃあやろうか」
時間制限は前線崩壊まで……あんまりのんびりとはしてられない。それにドラゴンの神官プレイヤーたちから回収した薬も本数があまりない。できるだけ多く用意したいから無駄にはしたくない。
「とりあえずこのデメリットを打ち消す……それかまともに使える程度に抑えようか」
えーと、精神系の状態異常に使える素材はこれとこれだね。ただこの効果的に手持ちの素材だと少し足りないかも……精神系の素材は貴重だし、そもそもこの薬を改変するにはある程度強い素材じゃないと。
(探索あんまりしてない弊害が……)
攻略速度が遅いせいで素材の幅があんまりない。とりあえず手持ちの素材でどうにか……そんな博打みたいな実験に踏み切ろうとした時だった。
「あ、あのー……良かったらこれ使ってください」
植物系のリーダーの人……確か姉のフローラさんだったかな。フローラさんが差し出してくれたのは何種類かの植物……どれも図鑑でしか見たことがない精神系状態異常に効く素材。
「わ、私も一応薬を作ってるプレイヤーですからスライムマスターさんがやろうとしてることは分かります。わ、私の実力じゃ改変はできないですけど……素材を用意することはできます!」
「……ありがとうございます」
私はフローラさんから素材を受け取った。どの素材もかなり質が良い……素材がダメで失敗したなんて言い訳ができないくらいに。絶対成功させないと……
「さてと早速始めよう」
私は簡易的な調薬道具を取り出す。そしていざ実験をしようと思ったけど……周囲の呪いが濃過ぎる。これ実験に影響出そう……ルベリーに吸い取ってもらおう。
「ノロォ!ノ、ノロォ…………!」
ルベリーが周囲の呪いを吸い込んでいく。しかし今のヘルゲート・ガーディアンの呪いはかなり強力なのか吸い取っても吸い取ってもキリがない。最初の雑魚戦で徹底敵に浄化したのにどす黒くなってるからね……ルベリーだけじゃ吸い取りきれない。
(どうしよう。ライムに浄化してほしいけれど調薬手伝ってもらうからお願いできないし……)
やっぱり土壇場でやるべきことじゃなかったかな……そう思っていると不意にガチャガチャと音が聞こえてきた。音の方を見ると……大量のアンデッドたちが近づいてきていた。敵!?って思ったけど戦闘には和風の神官たち……死霊系の神官たちがいた。
「クックックッ……面白そうなことをしていますね。協力致しますよスライムマスター殿」
神官の中でも異彩を放つプレイヤー……黒子のような暖簾状の布で顔を隠したプレイヤーが話しかけてくる。声的に男性かな?彼が手を振ると周りの神官たちが行動を始める。
アンデッドたちは周囲から呪いを吸い取り始めていく。神官たちは更にそれを水晶玉へと移していく。
「クックックッ……呪いのエキスパートである我々。周囲の呪いを除去する程度児戯にも等しい……彼女の友だちを手助けできて幸いでしたね」
「彼女?」
「あぁ、我々はチェリー殿の知り合いでして。死霊系愛好会の……一応、私が副会長させていただいています。死霊系のまとめ役と兼任ですね」
ちなみに会長はカクリヨさんなんだとか。そんな話をしている間に周囲の呪いが完全に除去された。数の力は偉大だね。
「呪いの侵食はこちらで止めておきましょう。スライムマスター殿はご自身の仕事をお願いします」
「分かりました。さっさと終わらせます」
私は手早く作業に入った。やることは単純……薬に素材を足して変質させる。
「ライム」
「メキュ!」
私はライムから《慈愛の祝福》を出してもらい。他の素材と一緒に薬へ投入……薬は焦げやすいから気をつけないと。焦がして失敗するのが1番マズいからね。そこにさえ気をつければ失敗することは基本無い。失敗したら爆発するらしいし慎重に……色が変化したら火から下ろして丸薬にする。乾燥は火属性と風属性のパートナーを連れているプレイヤーの力を借りた。
「とりあえず改変は完了……肝心の効果の方は」
丸薬となった薬を確認すると大して変化してなかった……え?結構ガッツリ素材入れたんだけど?あれで殆ど変化無しとか何を素材に作ったの……
「素材2倍……いや、3倍投入してみるか」
そうなると効能が薄い部分は取り除こう……そうじゃないと溢れるからね。私は溢れる限界まで詰め込んだ瓶を加熱していく。そして再び丸薬を作るけどこれでも足りない。
適度に増やしても全然変化してくれないし……こうなったら限界まで詰め込んでしまおう。私は瓶に詰められるだけ詰め込んで加熱した。やけっぱちでは無いからね?
プシュ……ジュワワワァァァ……
薬からエゲツない音が聞こえてくる。火から下ろした液体はドロドロのペースト状であり失敗したようにしか見えない。さてこれでどうなったかな……
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竜種強化丸薬(改変)
ドラゴン系パートナーにのみ有効
服用後、10分間全ての能力値を5倍にする
強力な素材により精神へ大きな影響を与える副作用があったが、改変によりその影響は興奮させる程度に収まっている
ただし沢山の素材が使われた結果使用後、強い倦怠感がその身を襲う
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倦怠感……明確な時間書いてないの怖いな。でもこれが恐らく最善。これをできるだけ作った。ギリギリ素材足りて良かった……とりあえず5体は充分戦えるはず。
「あとはそっちでお願いします。誰が強いとか分からないので」
「分かりました。ご期待に応えてみせます」
ドラゴンのリーダーに薬を渡して仕事完了……気負うのは良いけど握り潰さないでね?もうこれ以上作れないから。
「クックックッ……彼女たちに花を持たせましたな。ところでスライムの神殿はドラゴンの神殿と仲が悪いのでは?」
「あー、それ上の話ですね。私たちは特にそういうの無いですよ。そもそも私以外は最近入った子たちばかりですから」
「あー、スライムはそうでしたな。我々も不人気な種族故に人集めは苦労してますね……有望な者は百鬼夜行のカクリヨ殿のところに行ってしまいますしな」
やることやった私は死霊系のリーダー……名前忘れてたので改めて名前を聞いたらクロコさんと世間話をする。仕事しようにもね……手持ちの薬は殆ど出しちゃったし。改変で思ってたよりも神経すり減らしちゃってあの戦闘に参加するのも億劫……レモンたちもMPが無くなったら切り上げてくるでしょ。
「それにしてもクロコさんたちはよく参加しましたよね?他のボスのところに行った方が良かったんじゃないですか?」
「それはそうなんですが。我々としてもあの黒騎士と戦うのは願ったり叶ったりなのですよ。今みたいに呪い集めが捗りますからな……」
なんでも死霊系の神殿では集めた呪いを使ってアイテムを作ってるらしい。結構便利なアイテムもあるんだとか……生産に使えるものもあるのかな?
「私としてはスライムマスター殿が連れているそちらのスライムが気になりますな……その身に纏っている呪いを使ったらどんなアイテムができるのか興味深い」
「こちらもそちらのアイテムが気になりますね……あとスライムマスターじゃなくてココロで良いですよ。その呼ばれ方あんまり好きじゃないので」
「成程。ではこれからはココロ殿と呼ばせていただくと致しましょう」
私がそんな感じで話しているとバサ!と羽音が鳴り、5体のドラゴンが頭上を通り過ぎていった。背中にはそれぞれパートナーを乗せていて……その内の1体、黒いドラゴンにはリュカちゃんが乗ってた。
「リュカちゃん。強いプレイヤーだったんだ……」
「おや?ご存知無かったのですか?リュカ殿はドラゴンの神殿でも五指に入ると言われるプレイヤー。黒竜駆りの2つ名で呼ばれてますな……あとは齧り技とも」
後者はクロンに噛まれ続けてるからでしょ……というかあのドラゴン、もしかしてクロンか。そういえばサイズダウンできるアイテムがあったね。私は使わないから忘れかけてたけど。
そんなことを思っている間にドラゴンたちはヘルゲート・ガーディアンの頭上へ。足止めしていたパートナーたちがそれを見て後ろに下がると空からブレスを発射する。
「ギャァァァス!」
強化されたブレスを浴びたヘルゲート・ガーディアンが悲鳴をあげた。ヘルゲート・ガーディアンは反撃で斬撃を飛ばしていくけれど、強化されたドラゴンたちに簡単に避けられてしまう。更に上を見ている間に他のパートナーたちの攻撃がクリーンヒットした。
「ギャァァァス!!」
「「「ガァァァァ!」」」
ヘルゲート・ガーディアンの意識が下に逸れた瞬間、3匹のドラゴンがヘルゲート・ガーディアンを抑え込んだ。両腕と尻尾をガッチリと押さえ込まれたヘルゲート・ガーディアンは反撃としてブレスを吐こうと口を開くが、その口の中に火球が撃ち込まれた。
ボゴン!
「……………!!?」
口の中の炎が爆発しヘルゲート・ガーディアンの口から煙が上がる。流石の衝撃に声も出せていない。なお火球を撃ったのは……
「メララ!」
「ビリリ!」
うちの子たちだった。こら!狙われるからそんな目立つことしない……攻撃が来て苦労するのプルーンだからね?
「ガァァァァ!」
爆発によりヘルゲート・ガーディアンの動きが止まった瞬間、リュカちゃんとクロンが素早く首元に向かって突撃すると首筋へと噛みついた。そしてクロンはそのまま炎を吐き出し、首の肉を大きく噛みちぎった。ヒェ……
「ギャァ…………!!」
確実な致命傷。首の噛みちぎられたところから呪いのモヤを大きく吹き出しヘルゲート・ガーディアンは地面へと膝をついた。黒い身体が色が抜けるように灰色へと変わっていく……
サァァァァ……
ヘルゲート・ガーディアンの身体は灰のように崩れ風に乗って空へと舞い上がっていった。それはまるで天国へと旅立っているように見えた。こうしてヘルゲート・ガーディアンとの戦いは幕を閉じた。
ヘルゲート・ドラグーン
ヘルゲート・ガーディアンの成長体……ではなく瀕死の状況下で急成長した不完全体。
不完全故に暴走状態であり、その内には向けるべき相手を忘れてしまった復讐心しか残っていない。
解放された彼が何処へ行くのか……それは神ですら分からない。
なお、モチーフにタツノオトシゴが含まれている。尻尾にしか要素無かったけれども
次回、沼田のサメとの戦いです。お楽しみに




