第143話
クラゲ神との戦闘はかなり長時間になった。胸の結晶が白くなった回数は3回……3回総攻撃してもまだまだ健在。どんだけタフなの?
「幸いなのは外のクラゲたちが全滅していることか……おかげでプレイヤーがどんどん集まってきてる」
増え過ぎて部屋に収まるか不安……と、私が思って居ると前の方が急に騒がしくなった。プレイヤーとパートナーが多くて見にくいけれど……クラゲ神の身体が光ってる。
「ジュリララララララ!!!」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!?」」」
クラゲ神の光が強まっていき一瞬光が消えたかと思うと、爆発するように光が解き放たれた。その衝撃はかなり離れていた私の元まで届いた……クラゲ神近くに居たプレイヤーは即死したようだね。ナギたちは無事かな?
「びっくりした……急に爆発するなんて……」
「め、目がぁぁぁ」
「少しチカチカしますね」
ナギとチェリー、ミリアちゃんは丁度近くに居た。無事みたいだね……1人
「と、これはまた派手にやったね……」
光が消えると空が見えていた。大広間の屋根が吹き飛び壁も倒壊している。私はかなり離れていてあまりダメージを受けなかったけど、かなりの威力の爆発だったのか。
そして爆発の中心にはゆったりと坐禅を組んだクラゲ神が静かに佇んでいた。
「ジュリララララ……」
クラゲ神は仄かに光を纏っており、どこか落ち着いた様子。言葉として合ってるか分からないけど……まるで悟りを開いたような感じ。
(胸の結晶は真っ白……攻撃は普通に通る感じかな)
だけどあの様子……一筋縄では行かなさそう。そんな中、光の爆発から生き延びた攻略組からクラゲ神へと攻撃が飛んでいく。それに対してクラゲ神は何もしない……攻撃はそのまま直撃しダメージを与えているようだった。そのあまりの無反応さに不気味さを感じた……その時クラゲ神がゆっくりと動き始める。
「ジュリララララ……」
クラゲ神は上下の4本の腕を動かし、それぞれで合掌を作る。そして背面には白い大きな輪が出現……輪には時計の数字のように不可思議な文字が浮かび上がり、1の位置にある文字はジワジワと黒く染まっていった。
「これは……カウントダウン」
見た目から完全にそれにしか見えない……12の位置にある文字が黒くなったら絶対に良くないことが起こる。
「この手のギミック技はマジでヤバい!止めろー!!」
数多くの攻撃がクラゲ神へと放たれるが、クラゲ神は揺らぐこともなく座禅を維持し続け、最初の文字が完全に黒くなる。と、同時に私を含めた数名のプレイヤーが何故か燃え上がった。
「「「熱っつぅぅぅぅ!!?」」」
炎に包まれたプレイヤーが熱さに悲鳴をあげる。私は装備のおかげで無傷……無傷で燃えてるせいで「えぇ……」みたいな視線を感じた。それにしてもこの炎は一体……
「多分、カウンター……火属性のパートナーを連れていたプレイヤーが燃えたみたいだね」
「あっ、ナギ」
突然の炎上を不思議に思って居ると、プスプスと煙を立ち上らせたナギが寄ってきた。どうやらさっきの炎上は火属性のパートナーを連れていたプレイヤーにだけ起きたらしい。パートナーの属性によって変化するカウンターか……
(ということは次の数字が黒く染まったらまた……
そう思った瞬間、新たな文字が黒く染まる。今度は数名のプレイヤーが水球に包まれる。
「ゴボボボボ!?」
「た、助けろー!」
水球に包み込まれたプレイヤーたちは溺れ始めるが、近くのプレイヤーが助けて難を逃れた……水球に包まれたプレイヤーは水属性のパートナーを連れていたプレイヤーだね。でも私は包み込まれなかったけど?
「どうやら……その属性のパートナーで攻撃してないと対象外っぽい」
「とすると私はあとレモンの分の雷を受けるのか……」
まぁ、無傷だから大丈夫だろうけど……ちなみにナギも装備の耐性があるおかげでほぼ無傷らしい。私みたいにノーダメって訳ではないようだけどね。羨ましいって言われたよ……いや、必要?確定被弾じゃなければ当たらないでしょ?ナギほどのプレイヤーなら。
と、若干路線ズレしかけたけれどカウントダウンを止めないと。私はライムにナギを回復させつつ、レモンとアセロラにどんどん攻撃させていく。攻撃をしていくと背中の文字盤のような輪にヒビが入り始める……そして文字がまた黒く染まる。今度は空から雷が降り、プレイヤーを打ち据える。
「うん、無傷」
「本当に羨ましい……」
その後も流砂による生き埋め、風の刃、全身凍結、呪いを帯びた霧、光のレーザー、棘だらけのツル草が文字が黒く染まる度にプレイヤーへと襲いかかってきて、今は10の位置の文字が黒く変わって強力な重力が襲いかかっている……次で11番目か。文字盤のヒビもかなり入ってきてあと少しってところ。
(あれ?そういえば残る属性って……色彩か崩壊じゃない?)
ふと思い出す。表に出ている属性は10種類。残り2つは表に出てない属性……これどうなるんだろう?色彩と崩壊はスライム固有の属性だからクラゲ神は使えないはず……神だから分からないけど。
「中々しぶとい……カウンターでだいぶ数減らされたのが厳しい」
「属性耐性……意外と抜けがあったプレイヤーが多かったからね。耐性あんまり関係無いのもあったけど……」
拘束系は耐性あっても結局抜けないといけない……全身凍結は溶かすのに時間かかったし。ツル草は簡単には切れなかった。
「カウントはあと2つ!さっさとケリをつけないとマズいぞ!!」
「火力を上げろー!この際、回復は最低限だ!」
猶予も少なくなりボス戦に慣れている攻略勢も焦り始める。攻撃は苛烈になるがそれでも背中の文字盤はまだ健在……そして11番目の文字が黒く染まる。それによって起きたのは……何かが身体からごっそり抜けていく感覚だった。
「ゴフッ!?」
「メキュ!?」
感じたことの無い感覚に思わず膝を着く。装備のおかげで殆どの状態異常を無効化できるのに……何をされた?
「HPが……70%近く持っていかれてる」
HPを直接持っていく効果か……被弾確定技でこれはエゲツない。しかもこれ……恐らくは固定値か最大HP量の割合っぽい。ということは……
ドサッ!バタバタ!
回復よりも攻撃を優先していたプレイヤーたちが地面へと倒れた。殆どの人が火力が高いパートナーを連れていた人……戦力を大きく削られてしまった。
(本当に最悪なタイミングでやってくれたよ……)
これまでのカウンターが殺しにくる火力じゃなかったからあの人たちも油断してたんだろうね……最後の文字が黒くなる前に帰って来れないだろうし。本当に最悪……
「ち、あの脳筋共が……天下一閃が居るから使いたくなかったけど使うしかないか」
戦力大幅ダウンにナギは舌打ちをしつつ、私が作った強化薬各種を自分のパートナーに飲ませていく……飲み合わせでデバフとか起きないとはいえ、あんまり良い絵面じゃないね。
「まぁ、そんなこと言っていられる状況じゃないか……」
見れば他のプレイヤーたちも薬やらアイテムをドカドカ使ってパートナーたちを強化している……私も使おうかな?
(とは言っても何か良いものは……あれくらいか)
あの問題作。あまりにもピーキーな効果をしちゃってナギや百鬼夜行にすら卸せない属性強化薬。効果を強くしようとしたらこうなっちゃった。
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雷属性強化丸薬
▷効果
雷属性のパートナーのみ使用可能
服用したパートナーの雷属性スキルの効果を1分間10倍する
追加で飲ませても効果時間が延長されず、効果の強化は重複しない
服用後24時間、服用したパートナーの取得経験値が75%減少する。48時間、受ける全ての被ダメージが3倍になる。72時間、服用することで効果を発揮するアイテムが使用不可になる。
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重いデメリット3種盛り……手持ちの素材で限界を突き詰めた結果がこれだよ。なお、手間もかなりかかる……1つ作るのに大体30分はかかるかな?コスパも悪ければタイパも悪い……一応、作れる属性分全部作ったけどね。
「デメリット重過ぎるけど……使うしかないね」
カウントダウンで死んだら経験値0だしね。最終戦……最後だし出し惜しみは無しだね。私はレモンとアセロラに投薬……レモンとアセロラの身体からそれぞれ黄色と赤色のオーラが立ち昇った。
「ビリリリリリ!」
「メラララララ!」
(あっ、これ投薬するとそんな感じになるのね)
何気に初めての投薬だった。オーラを纏ったレモンとアセロラはドカドカとクラゲ神へと攻撃していく……今まで聞いたことの無い轟音が響いてる。その分、MPの消費量が凄いけどね。アセロラなんて《過燃焼》使ってるし。
「はーい、燃料投下」
私はストレージからMP回復薬を取り出してレモンたちへと供給……ついでに周りのプレイヤーにも配っとこ。金は取らんから倒し切れー……もう猶予全然無いから。
「うぉぉぉ!押せ押せー!」
「出し惜しみするな!全てを出し切れー!」
決死の攻撃が放たれ続ける中、最後の文字はもう6割は黒く染まっている……それでもプレイヤーたちは諦めず攻撃していく。文字盤はもうヒビが無いところを探す方が難しいほどの有様。文字が完全に黒くなるのが先か、文字盤が砕けるのが先か……どちらに転んでもおかしくない。
「レモン!アセロラ!全力を出し切れ!!」
「ビリリリリリ!」
「メラララララ!」
私の声を聞いたレモンとアセロラが全てを出し尽くすように攻撃を放つ。少し離れたところではナギのラヴィアが大会で見せた熱線を放ち、カクリヨさんのドラゴンゾンビがドス黒いブレスを解き放つ。他にも有名?な攻略勢が必殺技のような一撃を放っていく……そして最後の文字が完全に黒く染まりかけた瞬間。
パキン!!
ガラスが割れるような音を立てて文字盤が粉々に砕け散った。それと同時にクラゲ神の心臓辺りから黒い光が漏れ始める。
「ジュリララララ……!」
光はどんどん漏れていき……クラゲ神は指先から黒く変色しボロボロと崩れていく。変色はどんどん広がっていき全身が黒く染まって崩れ……最後は小さなクラゲのような光が天に昇るように消えていった。
クラゲが消えるとイベント中、ずっと空を覆っていた雲から陽の光が差し込み私たちを照らす……
「終わった……あー、疲れた」
クラゲの大群から始まり巡礼者の長、クラゲ王、そしてクラゲ神と続いた最終日。長い戦いにようやく終止符が付いた。
このあとはプロローグを書いて掲示板……
戦闘シーン疲れた




