第142話
現れた神の姿は光輝くクラゲ人間……ただ今までのクラゲ人間とは違い容姿は人からかけ離れている。人間にクラゲを足したのではなく、クラゲが人の形をしているような。
髪はクラゲの触手のようで先に行くほど黒く変化している。半透明な腕はとても長く肩の上から1本ずつ生え4本もあり、下半身は腰がクラゲの傘のようで足は触手が捻れ合うように2本の足を作り胡座の形に組んでいる。何処となく菩薩を感じさせるね……あと胸のところには大きな赤黒い結晶が脈動するように光っていた。
「ジュリララララ!」
クラゲの神は肩の両腕を上に向け、もう一対の手を合掌させた。上に向けられていた手に紫色の光が集まり……紫色の雷が周囲に撒き散らされた。
「「「アババババ!?」」」
クラゲ王の近くに居たプレイヤーとパートナーが雷の被害を受ける。雷を受けたプレイヤーたちは死ぬことは無かったけれど……
「ま、麻痺に毒、呪いで身体が……」
「しかも結構重……耐性上げていたのに」
かなり重度の麻痺と毒、呪いを与える攻撃みたいだね……幸いにも威力自体は控えめだけどデバフ技としては凶悪だね。
「ジュリララララ!!!」
クラゲ神は合掌させていた手を組み替える。すると今度は無数に黒の球体が出現、球体は周囲に無差別に乱射。球体は着弾した側から爆発していき、動けなくなっていたプレイヤーやパートナーはやられていく。
(動けなくしてからの攻撃。神のくせに堅実だね……まぁ、即死級の攻撃連発されるよりマシだけどさ)
球体に関してはスチンとプルーンで防げる程度。多少は休憩できたからコンディションも割と良いしね……向こうの手札次第なら無事に乗り切れるはず。
「攻撃が止まったら反撃するぞー!!」
「仲間の仇だー!!」
球体の乱射が終わると今度はこっちの攻撃ターン。プレイヤーたちが各々高火力の攻撃を放つ。クラゲ神は大きいから確実に当てられる。しかしそこは神故に隙は無かった。
「ジュリララララ!!!」
クラゲ神は組んでいた手を今度は肩に向けて交差するようにした。するとクラゲ神を包み込むように球体状の結界が出現、こちらの攻撃をシャットアウトしてしまった。
「あのバリア……突破するの難しくない?」
巡礼者たちのバリアと違ってヒビすら入らなかった。総攻撃でヒビが入らないとなると……何かしらのギミックがある感じか。
「ジュリララララ!!!」
攻撃が途切れたタイミングでクラゲ神はバリアを解除する。そして今度は右手を皿のようにし左手を縦に構えL字のようにする。クラゲ神の背後に三重の黒い輪が出現した。今度はなんだろう……私がそう思った時だった。
「あ”ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然、何人かのプレイヤーが頭や耳を押さえて悲鳴を上げ始めた。クラゲ神との距離は関係無いようで近くに居るのに叫んで居ない人や、かなり離れているのに叫んでいる人も居る。
「これ……恐怖系の状態異常っぽいね」
あの黒い輪の能力は恐怖を与えるってところか……精神系状態異常は耐性を付けるのが難しいからかなり厄介。私も恐怖は装備で耐性を得られてないけど……恐怖なら薬で対処できる。ライムたちにも与えて……これで良し。
「問題は恐怖状態になったプレイヤーか……」
恐怖はライムでも治療不可能。一度なってしまうと時間経過以外では治せない……魅了や混乱は衝撃与えれば治るんだけどね。恐怖は一度沼にハマってしまうと簡単には抜け出せない……この言い方はなんか違うか。
(恐怖は重症化すると錯乱……暴れたりするけど今のところは大丈夫そう)
とりあえずあれをやめさせることが先決だね。私はアセロラに攻撃命令を出した。レモンは距離的に近づかないと無理だからさ……私と同じ考えのプレイヤーが他にも居たようで、恐怖を与える技を止めようと攻撃が飛んでいく。
クラゲ神はそれに対して先程のバリアを発動して攻撃を防御、こちらの攻撃は全部防がれてる……さて、2回目のバリアだけど何か変化は?
「む、よく見たら胸の結晶……少し白くなってる?」
血のように赤黒かった結晶。よく見ると端の方から白く変化しているね……なんで色が変わった?ちょっと結晶に注目して観察してみよう……私はクラゲ神からちょっと距離を置く。
「ジュリララララ!」
バリアを解いたクラゲ神は今度は紫色の雷を降り注がせる。今回は近くに居て巻き込まれたプレイヤーは居なかったけど、恐怖状態になっていたプレイヤーとパートナーがやられた。
そして動けなくした相手にトドメを刺すように黒い球体がばら撒かれる。雷と球体はセットで使うようだね……そして動きが少し止まって隙ができるけど、バリアでこちらの攻撃は防御してくる。やっぱり隙が無い……ただ戦い方は少し見えた気がする。
「あいつが行動するたびに結晶が白くなっていった……あれがギミック?」
攻撃、バリア。何かをする度に結晶がジワジワと白くなる。恐らくあの胸の結晶は電池みたいな感じでエネルギーを貯めていて、全部白くなった時に攻撃を叩き込む感じかな?
(と、仮説は立ててみたけど本当かは分からない……6割は私の想像だからね)
というわけでこういうのはゲームに慣れている人に放り投げる。私はナギにメッセージで結晶のことを送信しておく。その後に仮説として私の考えも送っておいた。報告は事実と仮説を分けてやるのがベスト。
「と、返信返ってきた」
思ってたよりも爆速でね……返ってきた内容をまとめると、結晶が完全に白くなるまでは程々に攻撃……白くなったらその時の状況に合わせて行動って感じで行くらしい。
「ジュリララララ!」
私がナギのメッセージを読み終えるとクラゲ神は初見の動きをする。上に掲げていた両手を今度は斜め下に向けるように下げ、組んでいた手で三角形を作る。
下に向けていた両手に黒いモヤが集まっていき……巨大な剣を2本作り出す。クラゲ神はその剣を片手ずつ掴み、その場で独楽の様に回転した。間合いの内側に入れば一瞬でぶつ切りに、間合いの外に居ても剣から黒い刃が飛んできて仕留めに来る。
「威力はスチンとプルーンで防げる程度。なんとかなるから助かる……」
私がそんなことを思っているとクラゲ神の回転が止まり剣が消えた。そこで止まるかと思ったけれど……三角形にしていた手が崩され、今度は親指と人差し指を合わせて丸を作った。クラゲ神の背中に今度は白い輪が6つ程出現する。
(黒い輪は恐怖を与えてきたけど……今度は何?)
そう思っていると白い輪の内側に膜のようなものができた。膜は風船のように膨らみ……弾けると。
「「「「「「ブワァァァ!!」」」」」」
母体クラゲが出現した。あの白い輪は母体クラゲの召喚か……あれ?結構マズくない?6体も居るのは。
「「「「「「ブワァァァ!!」」」」」」
『プワァァァ!』
私の懸念通り母体クラゲはすぐさま自爆クラゲを呼び出す……それも数えるのが億劫になるような数を。自爆クラゲたちはワラワラとプレイヤーたちへと向かって広がっていく。
「つ、潰せー!!最優先で潰せー!!」
「こんなところで自爆持ちを出すんじゃねー!」
「ボスよりも厄介な雑魚とかやってられるか!!」
突然の自爆クラゲの大群にプレイヤーたちは慌てふためき、自爆クラゲの処理をしていった。その間、クラゲ神はバリアで引きこもっていた……これ自爆クラゲを片付けるまでバリア張る感じっぽい?
「もしくは自爆クラゲの爆発……呼び出した本人?本神?も受けるとかかな」
とはいえ自爆クラゲの処理中に横槍入れられる心配は無さそう。私もレモンとアセロラの範囲攻撃で自爆クラゲを処理していった。母体クラゲの方は高火力の遠距離攻撃ができるパートナーたちが既に撃ち落とし処理している。
「ジュリララララ!」
クラゲたちを処理し終えるとバリアが解除された。胸の結晶は……50%くらい白くなったところ。あと半分ってとこだね……プレイヤーの数は増えたり減ったりして今は100人ぐらいかな?神様相手にするなら物足りない気がする。
「ライム、できるだけサポートしてプレイヤー生き残らせるよ」
「メキュ!」
「でしたら私も混ざりましょう……ヒーラーがメインの役割ですからね」
私はマシロさんと共にダメージを受けたプレイヤーを回復させ、死に戻りする人数を減らすことに注力した。紫色の雷や剣から放たれる斬撃ぐらいなら即死しないからね……他の攻撃は直撃=死亡だから諦める。木っ端微塵に弾けたり、半分に真っ二つは流石に治せない。
「あれを治せるようになったら逆に怖いですね……」
「そうですね……でも私のパートナーの子には部位欠損程度なら治せる子がいますよ?」
「流石光属性特化……」
ライムも進化したら治せるようになるのかな?薬だとちょっと難しいだろうし……いや、樹海の素材を使えばいけるかな?イベント終わったら良い加減探索しなきゃ……
そんなことを思いながらクラゲ神の猛攻をやり過ごしていると遂にその時が来た。黒い球体の乱舞が終わると共に結晶が完全に白くなり……結晶から白い電撃が弾けるように発生しクラゲ神の身体を焼き焦がした。
「ジュリララララ!?」
白い電撃を浴びたクラゲ神はぐったりと動きを止める。バリアを張るために腕を動かすことも出来ない様子……攻撃チャンスだね。だけど猶予はあまり無さそう。
(胸の結晶がジワジワと黒くなっていってる……あれが完全に黒くなったら1からか)
「レモン!アセロラ!全力で攻撃!」
「ビリリリ!」
「メラララ!」
動けなくなっているクラゲ神に次々と高火力が叩き込まれていく。攻撃の轟音で耳が痛い……普通のモンスターなら死んでいてもおかしくない程の攻撃の雨だけど、流石は神というべきか倒れずに結晶が黒く染まり切った。
「ジュリララララ!」
クラゲ神はバリアを張りながら体勢を整え直した。座禅を組み直し手を構え紫色の雷を再び放つ……第2ラウンド開始ってとこかな?
「まぁ、戦い方が分かれば後は繰り返していくだけ……」
向こうが倒れるまで同じことを繰り返していけば良い……先にこっちの備蓄が切れないことを祈ろう。私は再び胸の結晶が白く染まるまでプレイヤーのサポートをしていった。




