第140話
「こっちは大丈夫!もう片方の方に行ってあげて!」
「……こっちに来るなら支援メインが来い。バフ無しだから普通に怠い」
「了解した。支援型は蛇姫の方へ!残りはこっちだ!」
氷の壁の向こうからカクリヨさんとナギの声がし、それから何人ものプレイヤーがこっちに向かってきた。
「助太刀する。相手の能力について教えてくれ!」
「取り巻きは電撃の範囲攻撃と結界による防御。偉そうな奴は高威力の槍を飛ばしてきます。結界の防御は取り巻きを減らさないと生半可な攻撃じゃ突破できません!」
「承知した。お前ら高威力の攻撃で取り巻きを減らすぞ!」
「「「おう!」」」
流石は集団戦慣れしている攻略組。端的に説明しただけで理解して行動に移した。高威力の遠距離攻撃がいくつも巡礼者たちへと飛んでいく。参戦してくれたプレイヤーの中にクランが居るから連携がそれなりに取れてる。
「「ジュリリリ……」」
結界が割れた隙に数発の攻撃が抜けて何体かを光へと変えた。やっぱり戦いは数だね……
「私たちは割れた結界の隙間を狙うよ」
「ビリリ!」
「メララ!」
私たちは攻略組が割った結界の隙間を狙って攻撃していく。特にレモンの攻撃は速度があるから割れた瞬間に捻じ込める。
「ジュリリリ……」
流石の巡礼者の長も人数が増えたことにイラついた様子。杖を振り上げるとさっき使ってきた黒紫色の槍を広範囲にばら撒いてきた。
「おわっ!?危ねぇ!!」
「うちのパートナー、防御特化なんだがこのダメージ……シャレにならねぇな」
幸いにもやられてしまうプレイヤーやパートナーは居なかったけれど、その間に巡礼者の長は新たに取り巻きを数を増やして召喚。更には黒いモヤを発生させると取り巻きに纏わりつかせる。黒いモヤを纏った巡礼者たちは目を赤く光らせると黒ずんだ電撃をばら撒き始めた。
「っ!この電撃、呪いが付与されてやがる!」
「こ、効果は状態異常耐性低下……薬飲んだのに麻痺がキツ……」
「衛生兵!衛生兵はいませんかー!?」
強化された取り巻きたちによってこっちの勢いが削がれた。だけども呪いなら問題無い!
「ライム!」
「メキュ!」
ライムは《慈悲の祝福》の液体を手に集め、周囲に広げるようにばら撒く。呪いに蝕まれていたプレイヤーとパートナーの身体に《慈悲の祝福》の雫が落ちて呪いを消していく。
「助かった!ありがとう」
「呪いが無くなったやつから攻撃していけ!あの電撃を使う暇を与えるな!!」
呪いで勢いが削がれたがすぐに元に戻り、逆に相手に攻撃させないように苛烈になっていく。強化されたことで結界の方も硬くなっているけれど……戦っているうちにプレイヤーが更に参戦して戦力が上がり叩き割れている。
「ジュリリリ!」
どんどん押されていく戦場に巡礼者の長の顔に焦りが見えてきた。どれだけ取り巻きを呼び出して強化しても私たち側の勢いは止まらない……召喚も段々と間に合っていない。
(あぁ、成程……数が増えると召喚に必要な時間が増えるのね)
出す数より倒される数の方が多くて、天秤の釣り合いが傾き始めてる。こちら側にね……
「ジュリリ……ジュリリリリリ!!」
遂に巡礼者の長は召喚を止めた。そして残った取り巻きに守らせると黒い槍を滅茶苦茶に乱射し始める。本気なのか槍には電撃が纏わりついていて強化されていた。徹底的に殺す気の攻撃……だけど。
「はっ!今更そんな攻撃食らうか!」
「そういうのは初見でなければ怖くありませんよ!」
「所詮は強化技……対処法は強化前と変わらない」
攻略組は軽々と回避して攻撃していった。動きが遅くて避け切れなかったパートナーはライムのような回復役が回復させて守る。中には私たちの壁として避けないで居てくれた子も居たからね……意地でも死なせない。ついでにドーピングもしておこう。
その後も巡礼者の長は攻撃をばら撒くもこっちの勢いは衰えることもできず、取り巻きを処理されていき……遂に取り巻きは4体だけとなった。
「今だー!取り巻きを出される前に潰せー!」
その声をきっかけに無数の攻撃が叩き込まれた。私たちも攻撃を叩き込む……ちょっと小細工した。
「ジュ、リリリ…ジュリリリ!」
攻撃による土埃が晴れるとそこには満身創痍の巡礼者の長だけが居た。どうやら取り巻きと自分の結界、並びに取り巻きたちを肉壁にして生き残ったみたい……だと思ったよ。
「アセロラ」
「メラララ!」
生き残った巡礼者の長に再び攻撃が放とうと他のプレイヤーたちが準備した瞬間、あえて攻撃させずに溜めさせていたアセロラの攻撃を放たせる。青から白へと変化した炎弾は光の軌跡を残しながら巡礼者の長へと飛び……顔面に直撃した。
「ジュ……!?」
巡礼者の長は断末魔を放ち切ること無く、頭部を弾けさせて地面に倒れた。身体は光にならずグジュグジュに溶けて消えていき……あとには錫杖だけが残る。
「ふ、念願の一撃……良いのが入ったね」
気分爽快。大満足。本懐を遂げて私がホクホクとしていると……
ドガァァァァン!!!
氷の壁の向こう側からとんでもない音が轟くように聞こえてきた。衝撃で氷の壁が崩壊……よく見たら割とヒビ入ってたね。こっちの戦闘に集中し過ぎた。
「あっちも終わったみたいだね……」
クラゲ人間は1体も居ない。さっきの轟音が聞こえてきた方向には騎士団長の剣が地面に突き刺さっていた。
「やっと倒せた……疲れた……」
「あそこまで骨がある相手とは思わなかったわね……と、そっちも終わったようね」
崩れた壁が消えていく中、ナギとカクリヨさんがこっちに来た。結構消耗してるね……あの騎士団長、相当強かったんだろうね。でもこれで残るはクラゲ王だけ。
「ジュリリ……」
クラゲ王の方を見ると結界が無く。玉座で足を組み肘を付いている姿が目に入る。騎士団長も巡礼者の長も居ないのに余裕そうだね。
パチン!
余裕な佇まいに不気味さを感じているとクラゲ王は立ち上がり指を鳴らした。すると騎士団長の剣が地面から抜け、転がっていた巡礼者の長の錫杖が浮かび上がりクラゲ王の元へ……そして剣と錫杖は光を放ってくっ付き大きな剣となった。
剣は長さが刃の部分が5m程もあり、宙に浮いている……そしてクラゲ王が右腕を振ると従うように剣が動いて黒い三日月状の刃を飛ばした。刃は射線状に居たプレイヤーとパートナーを次々と両断しながら進んでいく。
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」」」」
硬そうなパートナーたちが豆腐のように斬られていく。たった一撃で10人はやられた……なんて威力の攻撃。
「ここからが本番ってこと……」
どうやら偉そうなだけの王様ではないようだね。私は剣を再び振ろうとするクラゲ王を見ながら冷や汗が肌を伝うのを感じた。




