第139話
大扉の先。そこはRPGでよく目にする大広間……縦に長くて奥には王様が座る玉座があり、そこにボスであろうクラゲ人間が座っていた。
「ジュリリリ……」
座っているのは黒いクラゲ人間。暗い身体を細かい粒のような発光している……頭のクラゲの傘の中央が王冠みたいな形してる。まさに王様って感じ……
「と、その両脇にも強そうなのがいるね」
王様の左側には大剣を持ち重厚な鎧を身に付けたクラゲ人間。右側にはゆったりとした灰色のローブを身に付け、沢山のリングが付いた錫杖を持つクラゲ人間。
「見た目的に騎士団長と……最初の声が言っていた巡礼者の長かな。真ん中の王様の取り巻きってことか」
私がそう思っているとクラゲ王が座ったまま右手を上げる。すると右手から紫色のオーラが発生して騎士団と巡礼者の長へと纏わりつく。
「「ジュリリリ!!」」
オーラを纏った騎士団長と巡礼者の長が
叫ぶとクラゲ王をドーム型の結界が覆った。アイツら2体を倒さないとクラゲ王には攻撃できないってことか。とはいえ2体ならなんとか……と思ったけど最奥のボス戦、そんな甘いわけが無かった。
「「ジュリリリ!」」
騎士団長が剣を地面に突き刺し、巡礼者の長は錫杖を振り上げる。地面に青い魔法陣が出現して幾らかグレードが下がった鎧やローブを身に付けたクラゲ人間たちが出現する。やっぱり楽させてはくれなさそうだね……数もかなり多いし。
「「「「ジュリリリ!」」」」
「「「「ジュリリリ!」」」」
呼び出されたクラゲ騎士たちは騎士団長を先頭に盾を構えて前進。クラゲ巡礼者は杖から青白い光をクラゲ騎士に纏わせる。クラゲ騎士たちの剣や盾に青白い電撃が発生する。支援能力持ちなのね。
「あの騎士たちは私たちが相手するわ。ココロちゃんたちは奥の神官みたいな奴らをお願い」
「……あの脳筋軍団はこっちでどうにかする。後ろのモヤシやっといて」
迫り来る騎士団は百鬼夜行とナギが対応してくれる……私たちはその間に後ろの巡礼者を相手することになった。
まぁ、私たち近接相手は苦手だからね……特にあの数は。
「ガタガタガタ!」
「シャァァァァ!」
カクリヨさんの大きなガイコツが黒いモヤを纏わせた拳を振い、ナギのラヴィアが炎を纏わせた尻尾で騎士たちを攻撃する。直撃した騎士の何体かが宙を舞っていくが、殆どの騎士は盾で受け止めた様子。騎士団長に関しては受けるどころから反撃までしたようでガイコツとラヴィアがダメージを受けていた。
「あら?反撃されるとは思わなかったわ……これは骨がありそうな相手ね」
「……思ったより楽しめそう」
どうやら騎士団は攻略組に気に入られた様子……攻撃がどんどん派手になってる。その分、騎士たちが向こうに集まってるから巡礼者達まで無事に辿り着けた。
「スチン、プルーン」
「ドロォ」
「ヒヤァ……」
スチンが水の壁を生み出し、プルーンがそれを凍らせる。騎士団と巡礼者側を分断する氷の壁が出来上がる……これでしばらく後ろは安全。挟撃されないはず。
(ラヴィアの炎でいつか穴ができそうだけど……)
その前にこいつらを倒せば問題無い。
「ジュリリリ」
巡礼者の長がシャン……と錫杖を鳴らしてこちらを睥睨する。顔には笑みを浮かべていて……完全に余裕を見せつけてきているね。
「レモン。アセロラ……挨拶してあげて」
「インディー。よろしく!」
「モロコシ。あのイラッとする顔に叩き込んでやってください!」
その余裕を崩すために私たちは初手から総攻撃を叩き込む。それに対して巡礼者たちは杖を掲げ六角形の結界を組み合わせて壁を作り出し、こちらの攻撃は全て受け止められた。
「ジュリリリ!」
「「「「ジュリリリ!」」」」
こちらの攻撃が終わると今度はお返しとばかりに杖から電撃が撒き散らされる。これ多過ぎて防御したら削り殺されるな……
「スチン、プルーン。壁」
私は騎士団との分断で使った壁を今度は防御のために作らせた。電撃ならかなり持ち堪えてくれるはず……
「こ、これどうしますか?私たちの攻撃全然通りませんけど」
「う〜ん、呪いが効くかな?って思ってマヤに色々試してもらってるけど。あんまり効いてる様子無いんだよね……」
「火力不足だね……アセロラの最大火力ならいけそうだけど。多分、数体しか倒せないかな」
数が減らせれば結界の壁も脆くなるかもしれない……ただ、ここで1つ疑念が。あの取り巻きたちって召喚されて出てきたんだよね。だから倒した側から補充される可能性がある。
「とりあえず試してみようか……アセロラ。1発本気で撃ってみて。プルーンは援護」
「メララ!」
「ヒヤァ……」
私の指示を聞いたプルーンは氷の盾を出して壁から身体を出す。プルーンに向けて電撃がいくつも飛んでくるが盾を貫けない。そしてプルーンが気を引いているうちにアセロラが青白い炎弾を撃ち込んだ。
巡礼者たちは攻撃を止め、瞬時に結界に切り替える。炎弾は結界に当たり爆発、結界の一部が割れてその後ろに居た巡礼者を数体巻き込めた。
(巻き込んだのは5体……そのうち倒せたのは2体か)
本気でこれは渋い……しかも撃ち漏らしは後ろに引っ込んでいき、魔法陣が現れて2体追加された。やっぱり追加されちゃうか。
(そもそもこんな少人数での戦闘を想定されていないだろうしね……こうなると時間稼ぎするしかないか)
ナギたち。もしくは別のプレイヤーたちが来るまでひたすら耐える。ナギたちの方にこいつらのヘイトが行かないようにすれば役割としては充分。
「適度に攻撃して気を引きつつ耐えるよ」
「了解〜」
「了解です!」
私たちは氷の壁を障壁に遠距離での撃ち合いを始めた。向こうの遠距離攻撃は今のところ電撃だけ、氷の壁を一気に壊してくることはないし近づかれることもない。
ドゴ!ドゴ!
ドォォォン!
背後の方からはナギたちが暴れてる音が聞こえてくる。この様子だと向こうも優勢とは言えなさそう。
「MPの回復が切れそうになったら言ってね。ストックはまだまだあるから!」
私はストレージからドサドサと薬を取り出しながら2人に伝える……チェリーのところの子たちもMP回復に関しては薬が使えて良かった。原理がさっぱりだけども。
(MPが回復できるならどうでも良いか……こーれ、在庫持つかな?)
MP回復は多めに作っているとはいえ、レモンやアセロラがドカドカMPを使うんで消費が……このあとクラゲ王とも戦わないといけないことを考えると使い過ぎは良くない。
「ジュリリリ……」
私が色々考えていると傍観をしていた巡礼者の長が不意に動き始めた。前に出て巡礼者たちの攻撃を止め、錫杖を上に伸ばすとぐるりと回転させて大きな魔法陣を作り出す。魔法陣はバチバチと音を鳴らして回転していく。
「っ!?皆、壁から離れて!!」
魔法陣の大きさから嫌な予感を感じた私は皆に伝え壁から離れる。それと同時に魔法陣から黒紫色の鋭い槍のようなものがいくつも射出され氷の壁へと突き刺さる。氷の壁はまるで剣山のようになっていて……壁の裏に居たら全員串刺しだった。
「「「「ジュリリリ!」」」」
「プルーン!お願い!」
「イースター!あなたも前に!」
「ヒヤァ……!」
壁から出された私たちに巡礼者たちが電撃を放つ。新たに氷の壁を作るには時間も無いためプルーンに守ってもらった。プルーンがカバーできない分はイースターがモアイ像を大きくして防いでくれる。プルーンとイースターのダメージはライムとラディッシュが回復してなんとか持ち堪える。
(それにしてもあの攻撃……厚みもあって何より進化してそれなりに硬度も上がった氷壁を簡単に貫いてきた)
つまりはプルーンの氷の盾も貫かれる威力ってこと……私はいつまた巡礼者の長が攻撃してくるか身構えたけれど、巡礼者の長は後ろに下がっていった。その行動で分かった……
「あいつ……完全にこっちを舐めてるね」
敵としてみてない。さっきの攻撃は氷の壁が邪魔だったから破壊しただけ。私たち程度、取り巻きだけで充分だと?
ブチッ!!
あまりにも舐められ過ぎていて、久しぶりに堪忍袋の尾が切れた……あいつは絶対私が潰す。その余裕の感情を潰してからね。
(そのためにも……この膠着をどうにかしないと)
向こうの結界をどうにかできれば……せめてこっちも人数が居れば。私が爪を噛む思いでいたその時。
「やっとボス部屋か……って、先に始めてるのか!?」
「蛇姫と百鬼夜行。それにスライムマスターって何これ熱!?」
「我らクラン天下一閃。助太刀は必要か!!」
待ち望んでいた援軍がやってきた。




