第131話
めちゃくちゃ大変だった試練の翌日。今度はアセロラの試練を受けに神殿を訪れた……昨日は疲れ過ぎて薬の生産をしてログアウトした。
(今日はチェリーが遊べなかったしね)
チェリーは家の用事が……ミリアちゃんも学校の用事で今日は無理。明日集まる約束してるけどね。丁度今、最後のボスを倒すための戦いが行われてるから最終フィールドを一緒に初攻略できるかな?
(今頃……ナギは戦ってるんだろうね)
なんか面倒なボスらしくて、再戦するにも面倒な部分があるから怠いって言ってたね。ナギが怠いって言うの割と多いから……なんとも言えないね。
「さーて、火の試練はどんなかな?」
「メララ!」
アセロラはやる気を漲らせている。アセロラ、結構試練を楽しみにしてたんだよね……楽しいものじゃないからね?割と毎回大変な思いしてるからね?
(大体はスライムの性格を逆手に取った試練が多いからね……)
レモンやスチンは割とそうだった。せっかちなレモンに時間のかかる試練……面倒臭がりなスチンには焦らせるような試練。
ライムのはこういう感じでは無かったけど……いや味方が傷ついて欲しくないライムに対して、必ず私が傷つかないとクリアできない試練はかなり性格を逆手に取ってるか。
(アセロラの性格は明るい……というか情熱的)
これの逆手に取る試練ってなんだろう?思いつかないけど……まぁ、内容を確認すれば分かるか。私はそう思いながら火の試練への扉を開いた。
扉の先は正方形の部屋。足元の床には4×4のマス目があり、1番右下のところはタイルが抜かれているかのように窪んでいた。
「これ……パズル?」
マス目を見て思ったのは1〜16までの数字を正しく並べるパズル。でも数字など何も書かれていない。とりあえず説明を読もう。
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火の試練
①パズルを完成させ先に進め。部屋は3つあり、先に進むとパズルの難易度は上がる。
②パズルのピースは正しい位置に来ると赤く光る。ただし光ると熱を放ち気温を上昇させる。
③パズルを動かせるのはプレイヤーのみ。ただし模様はパートナーしか見ることができない。
④全てのパズルを解き、最後の扉を開けることができれば試練は達成となる。
※この空間では称号、装備、アイテムの効果が制限される
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なんだろう。今までに無いタイプの試練が来たね。時間制限は特に無いけど……温度の上昇が実質時間制限だね。装備の耐性が無いと碌に耐えられないし。この部屋、小さめだから熱もすぐに篭りそう……
(というかアセロラの性格的にパズルとか相性悪……)
この子、レモン程じゃないけど感覚で生きてる子だから……何も考えずに進めたら蒸し焼きになるね。
「まぁ、このパズル……必勝法というかやり方を知ってるからね」
このパズルは左上から外枠を作るように右下へと並べていくと簡単に組み立てられる。これはマスの数が多かろうとも変わらない……ナギに教わったテクニック。
「まずは……アセロラ。ざっくりでいいからどんな感じになってるか教えて」
「メラ!」
私はマスのそれぞれがどんな感じかを教えてもらい、それをメニューのメモに書く。試練の場でもメニューは使えるからね……使えるのステータスとメモくらいなもんだけど。
「ふむふむ……絵は炎を模った感じか」
アセロラから聞いたから全く同じという訳では無いけれど……これなら何処をどう動かせば良いか分かる。そうしたらここからは私の仕事だね。
「お、重……」
石でできているから動かすのも一苦労。動かす順は大体分かってるから、無駄に動かしたりはしないはず。
ポゥ……
正しい位置に移動したタイルに赤い模様が浮かび上がる。それと同時にじんわりとした熱を感じた……これ1枚でこの熱量だと時間かけるとマズいかも?
(かと言ってペースを上げるのは良くない)
難易度が上がる……このタイプのパズルならマス目が増える感じだと思うんだよね。それなら最初に飛ばし過ぎて体力を使い果たすのは悪手、ただでさえ放たれる熱でジワジワと体力を削られるのに。
「慌てず落ち着いて……」
「メラ!メラ!」
私はアセロラの応援を受けながらパネルを動かしていき、1枚目のパズルを完成させた。部屋の温度はそこそこ暑くなってきてるかな……
「次行こう」
私は奥の扉から次の部屋に移動する。次の部屋は密閉されていたから温度は低い。パズルは4×4から6×6に変わっている。
数が増えてもやることは変わらないからアセロラに模様を聞き、メモに書いて動かし方をシミュレーションしてから動かしていった。
(やっぱりパネルが増えると疲れるね……)
リアルだったら筋肉痛不可避。今回も無事に完成できたけど、時間がかかったせいでかなり暑くなってる……じんわりと汗が出てきた。
「次で最後……マス目は8×8かぁ……」
キッツ……これ後半は暑いなんて言ってられないかも。それでも私は同様にメモをしてパネルを動かしていく。今回は模様もかなり複雑だし、パネルの位置がかなりバラバラだから動かす数も多い。
「ふぅ……ふぅ……」
「メ、メラ……」
私は深く息を吐きながら動かしていく。64枚動かすの本当に辛い……アセロラも心配そうな感じだし。「大丈夫」と伝えたいけど、その体力もパネルを動かすのに使いたくて言葉が出ない。
ポゥ……ポゥ……
正しい位置に置かれたパネルが次々と光っていく。時間もかかるしパネルの数も多い……汗はポタポタと滴り落ち、まるで炙られるような熱に息が切れる。
「ハァ……ハァ……」
私は汗も拭わずひたすらパネルを押していった。暑さのせいで思考が飛びそうになる……視界もボヤっとするけども気力を振り絞って並べていく。そして遂にパズルを完成させた。
(扉開いた……でもちゃんと動けな……)
パズルは完成させたけど、体温が上がり過ぎて感覚がおかしくなっている。私はボヤける視界で扉に向かおうとして地面に倒れた。
「メラ!メララ!」
倒れた私をアセロラが揺するけど返事できない。私が朦朧としている中、アセロラはズルズルと私を扉へと引き摺り始めた。そして扉を超え、バタンと扉が閉じる音が遠くで聞こえると同時に私は意識を失った。
◇
「メラ!メララ!」
「ヴォル!ヴォルル!」
「うっ……煩い……」
私は騒がしい音で目を覚ました。どれくらい気絶していたか分からない……試練はクリアできてるのかな?
「メラ!」
「ぐぇ!」
私が起き上がって周りを確認しようとしたら、起きたことに気づいたアセロラのタックルがお腹に直撃……二度目の気絶をしそうになった。気合いでなんとか堪えたけどね。
「メ、メララ……」
「大丈夫だから……だから揺するのはやめて」
私は振り絞るようにアセロラに答える。と、その時アセロラの傍からニュッと何か出てきた。それはスライムで赤黒い体に橙色の割れ目のような模様がある……まるで溶岩のような見た目のスライムだった。
「あなたがここの管理人?」
「ヴォル!」
なんとか復活した私が聞くと溶岩スライムは肯定するように答えた。溶岩……確かに火属性の頂点って感じはあるね。
あとこの子が居るってことは試練は無事達成できたみたい。良かった……あの苦労が水の泡にならなくて。
「ヴォル!」
溶岩スライムはピョンピョン跳ねて誘導、いつもの水晶柱に触れるように仕草で伝えてくる。私はそれに従って水晶柱に触って聖書をアップグレードした。もう少しで半分行くね……プルーンの進化がまだだけども。
「メララ!」
「ヴォル!」
私が気絶している間に仲良くなったようで、アセロラと溶岩スライムは「また遊ぼねー」みたいな感じで挨拶していた。そして私とアセロラは火の試練から転移で移動した。
「ふぅ……とりあえず何か冷たい物食べたい」
暑さに苦しめられた私は冷たい物を食べたくなった。アイスとか売ってるかな?そう思いながら拠点に向かった。
火の試練管理人
ヴォルカニック・スライム
溶岩の身体を持つ火属性のスライム
冷えた溶岩の鎧を纏っており、生半可な攻撃では砕けず逆に熱で焼かれてしまう
また身体を爆発させることで周囲に溶岩を撒き散らし、鎧の破片を勢いよく弾けさせ攻撃もできる
テンションが上がると火山の大噴火のような被害を齎すことがある




