第123話
「クイラさん……あなた、私と再会する時は牢屋に居なきゃいけない呪いでもかかってます?」
「そんな呪いをかけられた覚えは無いね。まぁ、衛兵くんからは恨みの籠った目を向けられてるけど」
「自覚があるなら反省してください」
冷たい鉄格子を挟み、私はクイラさんと久しぶりの会話をする。ライムたちは諸々の理由で別室で待機中……メンタル壊れかけてる衛兵さんはメロンの香りで回復中。スキル使わなくても匂いは出せるからね。ちなみに匂いは桃のような甘い匂いで私は好き。
牢屋に入れられているのに反省の色は無い……そういえばイスティリアでもこんな感じだった。この人の辞書には『反省』の文字が無いんだな……まぁ、それは分かってたことだけど。
「私からも謝罪して1週間の拘束だったのを4日にしたんですから……次は気をつけてくださいよ」
「はいはい。気をつけます……ところでココロちゃんの方は実験はどう?色々作れてる?」
「そうですね……まぁ、色々作ってはいますよ。失敗作も多いですが」
面会時間もまだあるし、私はクイラさんに近況報告をする……ついでにクイラさんがここにいる理由も聞いておいた。この様子だとファストロンの家には一度も帰って無さそうだし。
クイラさんがアマゼニアに居るのは当たり前だけど薬を作るため。このアマゼニアには崖下のジャングル……魔境の1つである文明喰らいの大樹海から手に入る素材が豊富に集まる。
「魔境ってなんですか?」
「魔境っていうのは普通のフィールドよりも危険な地域のことだね。西とかだと火山地帯が魔境かな……魔境はね他と違って環境も特殊なんだよね」
分かりやすく言うならば大きなフィールドの中にいくつかサブフィールドがある状態。文明喰らいの大樹海なら毒のある植物しか生えていない場所、菌類が猛威を奮っている場所、数多の食人植物が葉を鳴らして待ち構えている場所など……様々な環境が大樹海の中で発生している。またいくつかのダンジョンの入り口も大樹海の中に存在しているんだとか。
(なんか後半ステージって感じがあるね……)
町に関しても大きい町はここがラスト……大樹海内には中継拠点があるくらい。町が無い理由は……文明喰らいって名前がついてることから察せられるよね。
文明喰らいの大樹海……名前の理由はその名の通り数多の町や村を飲み込んで広がっていったから。過去に存在していた町や村は大樹海のモンスターや環境によって淘汰され、残された残骸は木々や根に覆われ隠されてしまった。
「大樹海は魔境の中でも優しい方だけどね……西と北は人類生存が難しいし。南に関しては船が無いとそもそも無理だし」
後半ステージ。何処もヤバそうだね……西の火山と北の氷山は見た。あとは南の霊山を越えれば最後の魔境が見れそうだね。どんなもんかは大体想像付くけども。
「そういえば……今異邦人って浮上都市の攻略してるんでしょ?なんか面白いものあった?」
「んー……特には。気持ち悪いモンスターは多かったですけど」
イベントについて聞かれたけれど、絶対に呪毒のことは言わない。理由は単純……呪毒なんてものを教えたら興味を持つだろうし、持ってきてと言われるだろうから。あんな危険物を使った実験で爆発なんてさせたらヤバいことになる。クイラさん=爆発なんだから。
(呪毒汚染は笑えないからね……)
私はニコニコしながら雑談をしつつ、絶対に呪毒のことは言わないように気をつけた。
◇
クイラさんとの面会を終え、私は一度王都へ戻ってきた……目的はテイマーギルドのランク上げ。良い加減やっておこう……私は久しぶりにテイマーギルドに訪れ、ランク上げの試験を受けた。試験内容は極めて単純……地下にある試験会場で向こうが用意したモンスターを倒すだけ。脳筋でも分かる単純な試験内容だけど……
「これ試験になります?」
「なりませんね……逆にそこまで強いのになんでランク上げをしなかったんですか?」
私とギルドの試験官の人は黒焦げの何かの焼死体を見て溜め息を吐く。あの真っ黒焦げは試験用のモンスター……クアトロアーム・グリズリーって名前の4本腕のクマ。強さ的には……淘汰の大森林や蠱惑の湿地帯のフィールドボスぐらい。うん、今の私たちには弱過ぎる。
「魔境に入るための試練にしては緩くないです?」
「あー、魔境の制限ですか。あれのランクBが制限なの昔の名残りなんですよね」
なんでも昔は魔境の攻略やモンスターの駆除に人手が欲しく、ランク制限がBだったんだとか……あとあのランク制限はパーティー推奨で、ランクBでもパーティー組んでないと入れなかったらしい。
今だとソロならランクA程度の強さがあれば1人でも魔境に入っても問題は無く。大体、殆どのプレイヤーは魔境に入る時点でランクBにはなっているから問題無いんだとか……はい、私がランク上げをサボったせいです。
「こうなったらランクAの試験もやっちゃいますか……幸いにも依頼の達成度合いはクリアしてますし」
ランクBに上がるには依頼を規定された度合い以上にクリアしている必要がある。私の場合、衛兵隊などへの薬の納品でクリアしていた。あとは神殿の聖水作り……あれも依頼数にカウントされるのね。
ランクAの試験はランクBと変わらずモンスターを倒すだけ……強さは勿論上がっている。
「ギュアァァァ!!」
試験官が呼び出したのはtheワイバーンな見た目の飛竜。恐竜ベースでは無いけれど……こいつも亜竜だろうね。さっきのクマよりは骨はありそう。この試験場……地下にあるけど高さと広さがそれなりにあって広いしね。
「ギュアァァァ!!」
「ドロォ」
ワイバーンは羽ばたいて宙に飛び上がると火球を放ってきたが、その火球はスチンの水の膜によって防がれる。進化したことで水の膜は分厚い状態で発生させられるようになったから、あの程度の火球なら問題無く防げる。ワイバーンが何度も火球を放つけど水の膜は微かに揺らぐだけ……
「メララ!」
ワイバーンが火球を放とうと空中で停滞した瞬間、アセロラが赤いシャボン玉をいくつもワイバーンに放つ。シャボン玉はフワフワと動きワイバーンに触れて弾けると……勢いよく爆炎を撒き散らす。そして爆炎で他のシャボン玉も爆発しワイバーンは爆炎に飲み込まれた。
「ギュアァァァ!!?」
ワイバーンは全身に焦げ痕を残して地面へ堕ちる。地面に潰れるように倒れたワイバーンの身体をスチンが水の触手で拘束……
「ヒヤァ」
トドメはプルーンが頭部に氷の槍を突き立てて刺した。ワイバーン……今までに4種類も亜竜と戦ってきたから全然余裕だったね。
(《爆焔粘砲》は中々ヤバかったね……)
連鎖爆発が便利かつ強過ぎる。しかもあれ普通に砲弾として撃った場合は爆発の威力が高くなるっていうね。《過燃焼》も使えばもっと火力は上がる……アセロラは本当に強くなった。
「お疲れ様でした。これにてランクAへの昇格は決定です」
試験官の人に労われ、その後手続きをしてランクAになることができた。色々とできることが増えたけど……私は変わらず自由にやっていこう。とりあえず今はlv上げとイベントをそこそこね。
「と、なんかメールが……」
送り主は……カクリヨさんからだ。薬の注文かな?と思って開いてみると、そこには予想外のことが書かれていた。
「研究所の最奥のボスの討伐に参加して欲しい?」
内容はまさかのボス戦への参加願い。生産職の私に?と思ったが、一先ずは詳しい説明を聞こうと百鬼夜行の拠点に向かうことした。




