第119話
本日でこの作品も1周年
ここまで続けてこられたのは読者の皆様のおかげです
これからもよろしくお願いします
昨日の変わらず腐った海藻のような臭いが籠っている地下街。嗅覚が1回死ぬまで悪臭の暴力に耐えながら探索していく。
メンバーは凍尽の大氷原から変わらず……帰った時ルベリーが『連れてけー!』って感じで大変だった。レンシアとチェリモが両脇抱えて連行していったね……ドナドナされてた。
「メララララ!!」
「「「ァァァァァ……」」」
ワラワラと湧いて出てくる亡者たちはアセロラの火炎放射で焼き払われていく……やっぱ、ストレス溜まってたのかな。いつもより火力が強め……亡者たちあっという間に燃え滓になって倒れていく。
(湿気強めだから、少しは弱まっているんだけどね……)
炎が強いのは気持ちのせいか。何処となくアセロラの背中からは鬼気迫る何かを感じさせてくる……正直、ちょっと怖い。
「ビ、ビリリリ……」
レモンがビビってる……アセロラに発散させるためにヤバそうだったら支援してって伝えてたんだけど……アセロラ大暴れで出る幕が無い。これはしばらく亡者たちには薪になって貰おう。タコにさえ気をつければ大丈夫。
「あのタコ……中々曲者らしいからね」
今、スキュラの討伐のためにタコ狩りしているらしいけど……どうもあのタコは物理ダメージを大幅に軽減してくる能力と、亡者を食べることで微量だけどHPを回復する能力。そんなタフさを持ちながらタコ故のパワー……沢山居るのにボス同等の強さを持ってる。ここ、他の場所に比べてギミックほぼ無いからモンスターの強さはっちゃっけてない?
「スキュラがレイドボスみたいな感じだから、タコもボスレベルにしてるのか……そして亡者は無限湧き」
最早モンスターがギミック。まぁ、タコは私たちと相性良いんだよね……物理攻撃なんてプルーン、レンシア、ドランしか使わないし。属性攻撃メインなら時間かければ勝てる気がする……怠いからやりたくないけど。ちなみにナギは5分ぐらいで片付けたらしい。怖……
「まぁ、タコは今日戦うつもりは無いし。アセロラの気が済むまで亡者狩りしよ」
タコもそう簡単に出会える相手じゃないしね……私が呑気にそんなことを思ったのが悪かったのだろうか。残念ながら私の予定は瓦解するのだった。
「メララララ!!」
亡者たちの群れに放たれた《爆炎弾》。しかし昂り過ぎたのか炎の弾は亡者たちの頭上を通過……離れたところで爆発音、それと何か悲鳴と怒号の叫びが聞こえてきた。
「テラララララ!!」
亡者の群れを蹴散らしながら現れたのはタコ……頭の丸い部分に焦げ痕が付いていて見るからに怒っている。あー、もしかして誤射したのが当たっちゃった?
「テラララララ!!」
「完全にブチ切れてる……」
逃げようにもこいつの移動速度的に逃げ切れないかな……見た目の割に速いんだよね。こうなったらやるしかないか。
「メララララ!!」
アセロラは完全にやる気……殺る気だしね。私はパッと切り替えて指示を出し始める。亡者たち相手には勿体無い強化用の薬もライムたちに投与……そしたら私はスチンとドランの後ろに下がる。
「ビリリリリ!」
「メララララ!」
私がスッ……と安全圏に逃げている間にレモンとアセロラがタコに攻撃をする。属性強化薬でブーストされた雷撃と収束させた火炎放射を食らってもタコは怯まず4本のタコ足を振り上げた。
「レモン、アセロラ。下がって!」
「テラララララ!」
レモンとアセロラが後ろに下がった途端、タコは振り上げた腕をビダン!ビダン!と振り下ろした。地面の石畳が砕け陥没する程の威力を持ったタコ足が荒れ狂う……下がらせてなかったらヤバかったね。
「ビリリリ!」
「メラララ!」
タコの攻撃が終わるとレモンとアセロラが前に出て再度攻撃を放つ。タコはズルっと後ろに下がると近くに置かれていたボロボロの樽を掴み上げ投げつけてくる。狙いは……レモンでもアセロラでも無く私。
「ドロォ」
「メタァ」
私目掛けて投げられた樽はスチンとドランが防ぐ。あのタコ、攻撃してきているレモンたちじゃなくて私を狙ってくるとか……思ってたよりも頭良いな。でも私にヘイトが向くならレモンたちの攻撃がどんどん続くよ。
「「「ァァァァァァ……」」」
レモンたちが着実にダメージを蓄積させていってると音に引き寄せられたのか亡者たちが集まってきた。タコは亡者たちの方にチラッと視線を向けるとズルズルと近づいていった。なるほど、これを放置すると食べられて回復されちゃうのか。
「レモン、アセロラ。まとめて掃除して」
「ビリリリリリ!」
「メラララララ!」
私の指示を聞いたレモンとアセロラは広範囲に放電と火炎放射を放つ。タコはそこまで反応が無いけれど、亡者たちの方は次々と光に変えられタコのご飯にならないでいっている。
「テラララララ!!」
亡者たちを食べて回復しようとしたのに邪魔され、タコは更に怒りが増した様子。食事は諦め私たちを片付ける方に集中することにしたみたい。足を振り回したり近くにある瓦礫などを投げつけてくる。
「テラララ!」
「ん?なんかしてるね……」
暴れていたタコは瓦礫を掴むと口に近づけた。口がモゴ……と動いたかと思うと黒い液体が吐き出され瓦礫を黒く染めた。見るからにタコ墨って感じ……絶対ただのタコ墨じゃないだろうけど。
「テラララララ!!」
タコは黒く染めた瓦礫を投げつけてくる。ただ狙いが甘かったのか黒い瓦礫は離れたところに着弾、ジュワァァァ……と溶かすような音が聞こえてくる。やっぱり変な効果付きか……見た感じは毒か呪いかな?どんどん地面に広がっていってて面倒さを凄い感じる。
「ライム。お願い」
「メキュ!」
私はライムに頼んで地面に広がる何かをライムに処理させた。黒いアレはどうも呪いのようで《慈悲の祝福》で綺麗にできた。呪いならレモンたちが食らっても治療できるね。
「やっぱりタコと私たち……相性良いね」
HPが物凄く多いのか中々倒せないけど、このまま詰めていけば勝てるはず。攻めはレモンとアセロラ、守りをスチンとドラン、支援を私とライムという布陣ならね。
私はライムたちに指示を出しながらタコを着実に追い詰めていった。亡者は集まってきてもすぐに処理して食べさせない。タコとの距離はタコ足が届かない距離を保っている。瓦礫投げはタコ足攻撃に比べて威力が低いみたいだし、直撃しても私とライムで治療できる。
(このまま無事に終わってくれると嬉しいなぁ……)
しかしゲームの神様はそんな地味な勝負はお望みではなかった。タコが投げた瓦礫が近くの壊れかけていた建物に直撃、その衝撃で建物が倒壊……私たちとアセロラが分断されてしまった。
「メララララ!?」
「アセロラ!」
建物の倒壊のせいで舞い上がった粉塵でアセロラの位置が見えない……少ししたら粉塵が落ち着くとアセロラの位置が分かったけれど、すぐ側にタコが近づいていた。タコはビンタするかのように1本の足を振り翳す。
「メララ……」
さっきの倒壊の残骸が掠り体勢が崩れたのかアセロラの動きが鈍い。攻撃の間合いから逃げる前には攻撃が放たれる……
「くっ、瓦礫邪魔!!」
「メキュ!」
「ビリリ!」
アセロラのカバーに入ろうにも建物の瓦礫のせいで迂回しないと行けない……しかしそんな猶予は無かった。
「テラララララ!!」
なんとかアセロラの元へ行こうとした私たちの目の前で、アセロラにタコの足が放たれる……その時、私の横からボゥ!!と強い風が吹いたかと思うと目の前の瓦礫の山が弾け飛んだ。そしてアセロラの前に何かが割り込み、アセロラを庇うかのようにタコ足に叩かれた。
ドゴン!
叩かれた何かは勢いよく建物にぶつかり、建物に穴を開けて見えなくなった。その間にアセロラはタコから離れ合流できた。ダメージは軽微だけど念の為、ライムにはアセロラの治療をお願いする。
「一体、さっきのは何が……」
目が追いつかない速度のせいでよく分からなかった……ドランの砲弾攻撃?と思ったところで私は気づいた。ドランが居ない…………まさかさっきのって!?
「ドラン!?」
私は壁の穴を確認する。見えにくかったけど……穴の先にはドランが着ていたメイド服と同じ色の灰色の布、そして頭に着けていたホワイトプリムらしきものが見えた。やっぱりさっき吹っ飛ばされたのはドランだったのか……
「でもどうやってあの速度で……いや、それよりもドランを回復させないと!」
金属属性で防御力があったからかHPが0になってはいないみたいだけど……ダメージは相当なはず。一刻も早くドランを回復しようと動いたが、それを邪魔するようにタコが近づいてくる。
「テラララララ!!」
「邪魔しないで!レモン!」
「ビリリリリリ!」
タコに向けレモンは雷撃の剣を振り下ろした。バリバリバリ!とタコを雷撃が襲うが、タコはそれでも近づいてくる。私がライムだけでも行かせるべきか悩んでいたその時。
「メ、メララララララララ!!!」
回復を終えたアセロラから今までに聞いたことの無い声が聞こえてきた。声の方を見ると髪の部分が炎のように逆立っているアセロラが……怒髪衝天、その言葉が似合う様相をしていた。あとなんか暑い……いや、凄い暑くなってきた!?装備の耐性貫通してきてるんだけど!!?
「テ、テラララ!?」
その剣幕にタコも一瞬たじろぐ。アセロラは自分の周囲に陽炎の揺らめきを放ちながらタコへ1歩(スライムだから違うかも)近づく。そして両手を合わせるように構えると火の玉を作り出した。
火の玉は野球ボール程で赤く揺らめいている。《爆炎弾》にしては小さい……と思っていると炎の色が変改していく。赤からオレンジ……そして青へと。炎の温度が上がってる?
「メララララララ!!」
アセロラは青い炎弾をタコに向けて放った。小さい炎だからかタコは足で叩き落とそうとする。そうして振られたタコ足が炎弾に触れた瞬間、ボゥ!!と炎弾が爆発しタコ足は触れたところから千切れ飛んだ。
「テラララ!!?」
自分の足が無くなったことにタコは驚愕したような悲鳴をあげた。それを見てもアセロラは様子を変えず新たな炎の弾を生成、タコに向けて放つ。足を失った衝撃から抜け出せていないタコの足を更に1本吹き飛ばした。
「い、怒りのパワーで覚醒している……」
ドランの救出作業をしながら私はアセロラの様子を見る。怒りでこっちの声も聞こえてないようだけど……淡々とタコに青い炎弾を飛ばす。またタコの足が消し飛んだ。
「テラララララ!!」
前側3本の足を失い、タコは驚愕より戦意が勝ったようでアセロラを潰そうと残っている足を振り上げる。アセロラはそれにノーリアクションで新たなる炎弾を作っていた。
「レモン!」
「ビリリリリリ!」
無抵抗のアセロラへ足が振り下ろされる瞬間、振り上げた足へレモンの雷撃がピンポイントで当たった。痺れは発生しないけれど衝撃でアセロラから狙いがズレる……アセロラのすぐ横に足が減り込むと同時に青……いや更に温度が上がり青白い炎弾が解き放たれた。炎弾はタコの頭部に着弾、弾けずそのまま貫通し爆発した。
「テ、ラララ、ララララ……」
タコはバグったような断末魔をあげ、残った足が変な動きをしたと思うと唐突にペタっと伸びて動かなくなる……そして光へと変わって消えた。た、倒した……?
『個体名:スチンのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
『個体名:アセロラのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
倒したことを裏付けるかのように進化可能のアナウンスがされた。スチンとアセロラ同時……あぁ、そういえばスチンとアセロラは連れて行くタイミングとかの影響でlv差がかなり近くなってたね……タコの経験値が多くて一緒にlv60に達したのか。
「メ、メララララ……」
タコが消えるとアセロラの様子も落ち着いていき、糸が切れたかのようにパタっと地面に倒れた。どうも怒りが収まるのと同時に力尽きたみたいだね……怒りで消耗し過ぎたようだね。シュゥゥゥ……って白煙が上がってるからオーバーヒートしてるようにも見えるね。
「ドランの方も無事で良かった……さっきのあれは後で聞くからね。アセロラのアレもチェックしなきゃだね」
「メタァ……」
ドランも無事に救出。派手に吹っ飛ばされたけどHPは3割残ってた。兎に角、誰1人もやられずにタコを倒せたね……
(とりあえず帰ろう……みんなヘトヘトだし)
アセロラは私とレモンが肩を貸して連れて地下街を撤退した。亡者たちとは出会わずに済んだので無事に拠点まで帰れた……とりあえずアセロラ熱いから冷やそう。
「10月も終わりの頃にこんな汗かくと思わなかった……」
まぁ、ゲームの世界だけどね。とりあえずアセロラが起きてから進化させるとしよう。どんな進化先が出てるかな?
補足としてアセロラが覚醒した理由は
『自分の力の無さに対する不甲斐無さ』もありますが
1番は『末っ子のドランをぶっ飛ばされた怒り』が主な理由となっています。




