第118話
お久しぶりの凍尽の大氷原。今回は珍しく吹雪が弱め……それでも相変わらず肌寒い。
「防具強化してんのにね」
これ以上の強化するには素材もお金もかかる……素材に関しては生半可なものじゃ大した強化にもならない。アセロラが側に居ればこの寒さも耐えられるし……しばらく防具の強化はしないかな。
「ビリリ!」
「メララ!」
「「「ゴォォォォ!」」」
私が腕を摩っている中、レモンとアセロラがハードアイスブロック・ゴーレムたちをボコボコにしていく。レモンは試練で溜まったストレス発散してるみたい。アセロラは最近戦闘時にかなりやる気なんだよね。ガンガン行こうぜ!スタイルが強め。中火から強火になった感じ。
そんな2体の苛烈な攻撃のせいか初めて遭遇した時は苦戦させられたゴーレムたち。今は程々に硬いサンドバッグとなっているなぁ……決して弱い部類のモンスターじゃないんだけどね。
「ドランも連れてきたけど……あの2人居るから出番無いね」
「メタァ」
ライム、レモン、スチン、アセロラ、ドラン。敵をサクサク倒せるように火力増し増し構成で来たんだけど……レモンとアセロラの大暴れでドランの出番が無い。今日はタンクとして活躍してもらうとしよう。
「氷塊ゴロゴロ……沢山集めなきゃ」
この氷塊から得られる水。普通に飲んでも美味しいんだよね……最近はお茶を入れたり、ライムとルベリーのドキドキクッキングにも使われてたりする。
あの2人の料理……最近は人間も食べられるようにはなってきた。ただスライムの味覚に合うようになってるからなのか、物凄く甘かったり、逆に火を吹くほど辛かったりする……スライムって味が強くないと感じにくいのかな?
「見た目は美味しそうなんだけどね……」
普段飴玉ばっか食べてるから文句言えないけど……今も咥えてるし。棒付きキャンディー、買ってからずっと愛用してる。最近は味のレパートリー増えてて飽きない。今舐めてるのも新フレーバーの塩キャラメル味だしね。
「最近のは満腹度の回復量も増えてきて実用性も上がってきてるんだよね……値段も上がったけど」
値段が上がってもこれからも愛用していく予定。やっぱり作業中も食べられるってところが偉大だね……
「ビリリ!」
「にしても……レモンの火力やっぱり壊れてるね」
物質系のモンスターって雷属性効きにくいんだけど……そんなの関係無いって感じで一撃死させてる。多分これ《感情強化》だね……ストレス爆発でテンションがブチ上がってるんで雷の威力も上がってる。
(これ見ちゃうとレモンにストレスを溜めさせて爆発させるって戦法思いつくけど……流石に可哀想)
今まで作ってきた信頼関係もヒビが入るどころか砕け散りそうだしね。そういう戦法は人の心が無い人に任せよう。
とりあえずレモンは好きに暴れさせておこう、ここの敵ならそう簡単にはやられないはず……恐らく居るであろう亜竜のモンスター以外はね。予め用意しておいた攻略ルートを通って、もうかなり後半まで来てるのに1体も出てきてない。
(東西南に居て、北にだけ居ないってことは無いだろうし)
ちょっと嫌な予感を感じ始めてきた。私は寒い場所なのにじんわり汗をかく感覚を感じた。そんな予感を心の中に留めながらも攻略は順調に進んでいき……ボスの居るエリアに到着した。
凍尽の大氷原のボスエリアは囲い込むように地面から白い先の尖った氷柱が伸びてできたドーム。中は闘技場のようになっていて隠れる場所は無い……だからボスたちの姿はすぐに目に入った。
「「ヴォォォォ!!」」
奥で寝ていたのは大型の自動車程の恐竜のトリケラトプスのようなモンスター……蒼白の身体に氷のように透き通った4本の角、襟巻きのような部分は氷の結晶に似た形をしている。
(やっぱりボスでできたか……ただ2体は予想外だね)
他に比べて強い亜竜が2体……サンドビーストのように特殊な倒し方は無さそうだけど、難易度は高めだね。
「って、前の私なら思っただろうけど……試練に比べたら緩いね」
聖女になるための試練……あれに比べたら亜竜2匹と戦えなんて楽。負ける気がしないね。ライムたちも緊張せず余裕な感じ。スチンは面倒そうな感じで、ドランは何も思ってなさそうだけども。
「「ヴォォォォ!!」」
私たちの余裕な態度が癪に障ったのか、トリケラトプスたちは響く咆哮を上げる。地面に角を突き刺し、氷と雪を巻き上げながら突進してくる。巻き上げられた雪や氷の塊が勢いよく飛んでくるけれど……
「ドロォ……」
「メタァ」
スチンの水の膜とそれを真似したドランの金属膜がブロックする。スチンの水はドランが《温度操作》で温度を上げてるためすぐに凍結したりしない。ドランはやっぱり他の子たちのサポートが光る能力してるね……とんでも威力の遠距離攻撃あるけど、あれ後で調べたらレールガンじゃなくてコイルガンってやつらしい。
「ビリリリリ!」
「メララララ!」
「「ヴォォォォ!?」」
スチンとドランの守りの間からレモンの雷撃とアセロラの炎の砲弾が放たれる。レモンの雷撃を受けたトリケラトプスは痺れて動きが止まる。アセロラの方は怯ませられたけれど……怯んだだけでそのまま突進してくる。
(弱点属性の攻撃……それを受けても怯むだけか)
やっぱり一段階進化してるのとしていないでは明確に差があるよう。しっかりレベリングして進化させよう……アセロラ、レモンと比べたのかしょんぼりしかけてる。
「メタァ」
「ヴォ、ォォォ!?」
私がアセロラのメンタルケアをしようと思いつつ、向かって来ているトリケラトプスに迎撃指示を出そうとしたらドランが右腕を砲塔のようにして金属弾を撃った。金属弾はトリケラトプスの右前脚に着弾し、深い傷を与え転倒させた。
「メ、メラ……」
「ア、アセロラ。大丈夫だよ。アセロラも攻撃力は他の子たちと比べて高いからね」
「メキュ」
新入りに自分よりも高威力の攻撃を見せられてアセロラがシュン……としてしまった。私はライムと一緒に励ましてやる気を元に戻そうとした。元気の塊みたいな子だから普段落ち込むことなんてないから珍しい。
アセロラは私とライムに励まされたことで戦意が戻ってきたようで、転倒したトリケラトプスに向けて攻撃をしていく。しかしその炎はどこか不安定でアセロラの心境を表しているかのように見えた。
(そういえば闘技大会の準決勝の後も、こんな感じで少し落ち込んでたな)
あの時は勝てなかったから落ち込んでるって思ってたけど……ナギの火属性の子、ラヴィアと自分を比較して落ち込んでたのかもね。よくよく思うとアセロラが戦闘にガチになり始めたの闘技大会の後くらいからだったし……
(ドランが仲間になる前……いや、闘技大会の前で、うちの子たちで1番火力があったのはアセロラだった)
火力に対して自信が持てなくなった……そんなところかな。アイデンティティの揺らぎ、これ思ってたより深刻な問題かも。
「ライム、アセロラの様子に目をかけて……これはプルーンにも伝えておく」
「メキュ」
私はライムに小声でお願いした。プルーンにも頼むのはあの子がアセロラを1番理解しているから……パートナーに迎えた期間が空いて無かったから姉妹みたいな関係なんだよね。プルーンも普段は冷たくドライだけど、時折アセロラのことを気にかけている様子を見せてる。
(ライムたちがカバーし切れない分は私が受け持つ……それが主人としての勤め)
とりあえず今はボス戦を終わらせてしまおう。私は指示を出してトリケラトプスたちを片付けた……こいつら攻撃の範囲や防御力が高かったみたいだけど、動きを止められれば大きな的だから楽勝だった。ギミック無しだとゴリ押しできちゃうなぁ……第4進化の力が怖い。
「メララ」
アセロラも少し元気になった……でも普段を中火に例えるとしたら今はとろ火。メンタルケアは怠らないように。
「新しい町はどんな感じかな?」
私たちはボスエリアを抜けて新たな町へ向かった。
◇
凍尽の大氷原を超えた先、そこに作られたのは町は要塞都市スノウフォート。モンスターの襲撃を抑えるために作られた要塞を継ぎ足すように増築していった結果作られた都市で、守りの硬さなら今まで訪れた町の中でトップだね。
「先に進むにはペレーミア同様にランクBになる必要があるね……」
まだ試験受けてないや。てかテイマーギルドの仕事最近あんまり受けてない……顔出ししないとマズイかな?
スノウフォートから行けるフィールドは氷山地帯。ただ氷山地帯に行くには氷神の裂け目と言われる巨大なクレバスによって作られた天然の迷宮を進まなくてはならない。ランクBになっても踏み込むのは中々難しそう。
ちなみに氷神の裂け目って名称は神様の怒りによって裂け目ができたって伝説から付けられたらしい。実際には神様は居ないらしいけどね……居たら攻略難易度高過ぎる。
「さーて、攻略終わったね……午後はイベントフィールドの方行こうかな」
地下街で亡者相手にアセロラを暴れさせよう……少しはスッキリすると良いんだけど。私はイベントフィールドに向けて準備するために拠点に帰ることにした。




