第117話
イベント2日目。日曜日だからか攻略はとても賑わっているみたい……呪毒の薬は実証実験で上手く行ったから大量生産してプレマに流し、アーカイブ経由で作成するための情報を広めて貰っている。流石に私1人は供給が追いつかない……
「今はお金に困ってはいないしね……またアーカイブから情報料でお金貰ったし」
なんか受付してくれた人が『ハ、ハサーン!』って言って奥に向かって行ったけど……ハサンってプレイヤーが居るのかな?流石に破産の方じゃないとは思う。
(にしても今回のイベント……相当難易度が高いみたいだね)
昨日ナギから届いたメールには『地下街のボスは現状討伐不可』って書いてあった。どうもあのスキュラ……食事によってHPがモリモリ回復するし、タコたちがわんこ蕎麦みたいに補充するからキリが無いらしい。攻略組でもトップのメンバーで総攻撃しても削り切れず撤退したらしい……今は倒すためのギミック探しや作戦を模索してるとのこと。
「とりあえず攻略は頑張って貰おう。私は私でやることをやる」
「ビリリ」
私はスライムの神殿の地下、雷の試練の前にレモンと立っていた。イベントは?って思うだろうけど……イベント攻略は他の人に任せる!私としてはこっちの方が優先だし。
(コツコツ終わらせないと……)
まとめて片付けるのは疲れる……この試練、難易度高いしこまめに終わらせたい。レモンも進化して強化された電気の扱いも慣れてきた頃合いだしね。
私は扉を開けて試練の間に向かった。薄黄色の通路を進み2枚目の扉を潜ると……金属の壁が視界に入ってきた。壁の右には人間2人分の通り道が……これもしかして迷路。
「説明の石碑は……あそこだね」
試練の内容が書かれた石碑を見つけたので近寄る……石碑の側には長くて太い金属の棒が置かれていた。これも試練に使うのかな?そんなことを思いながら説明を読み始める。
ーーーーーー
雷の試練
①近くに置いてある金属の棒を持ち、電撃の流れている迷路を通ってゴールまで向かえ。
②金属の棒は人が運ばなくてはならず、迷路の制限時間は2時間。制限時間は金属の棒を持って迷路に入ってから開始される。
③金属の棒を壁に当てたり、床に突いたりすると電撃が流れる。なお、途中に用意された赤い床は金属の棒を置いても電撃は流れない。
④1回でも電撃を受けると試練は失敗となる。
⑤ 無事、ゴールの先にある台座に金属の棒を設置できれば試練は達成となる。
※この空間では称号、装備、アイテムの効果が制限される
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これ要するに迷路の形になったイライラ棒って感じか。迷路の大きさにもよるけど……面倒そうな試練だね。
「お、重……」
金属の棒を持ち上げたけど、私が持って運べる限界の重さ……しかもツルツルで持ちにくい。これを持って歩くのしんどい。
「ビリリ」
「大丈夫……さ、行くよ」
私は心配するレモンに対して気丈に振る舞い迷路の中へと入った。迷路の鉄則は左か右、どちらかの壁に沿って進むこと。このやり方なら時間はかかるけど確実に進める。
「ビリリ!」
「レモン。ちょっと待って……そんな早く進めない」
せっかちなレモンはガンガン進もうとするけれど、重い鉄の棒を持った私は壁にぶつけたり、滑らせて落とさないようゆっくり慎重に進まないといけない。
雷属性の子はせっかちだったりでゆっくり移動するのが嫌いなことが多い……この試練、プレイヤーだけじゃなくてパートナーもストレス溜まりそう。
ジャキン!ジャキン!
「うわ……こういうギミックもあるんだ」
「ビリリ……」
迷路を進んでいる私たちの目の前に現れたのは棘が飛び出す床……長くて飛び出す周期も速いからレモンは兎も角、今の私は串刺しになる未来しか見えない。殺意高くない?
「ん?奥にあるのは……止めるためのギミックかな?レモンお願い」
「ビリリ!」
通路の先に関連してそうな青い石柱が見えた。レモンに声をかけるとレモンは棘の床をスイーっと移動。棘出てきてもお構いなしで突き進む……そういえばスライムの身体って刺突効かないんだった。あれはスライムの特性というか半固形故の性質なので、私には反映されないんで忘れてた……あとうちの子達って刺突攻撃してくる相手とやり合う機会無かったし。
(刺突使う相手居ても……大体は近づかれる前に片付けちゃってるからね)
そんなことを思っているとレモンが石柱に到着。石柱を押したり叩いたりして居たけど……どうやら電気を流せば良いみたいで、バチバチ!と音が聞こえたかと思ったら棘が飛び出して来なくなった。ただいつ動きだすか分からないので急ぎ目で棘床地帯を通り抜けた。
「レモン。ありがとう」
「ビリ!」
私はレモンにお礼伝えて奥へと進む。その後もギロチン振り子に突き出し潰そうとする壁、オーソドックスな落とし穴とトラップ満載……落とし穴に関してはレモンが前で落ちかけなかったら危なかったね。
「こ、ここの試練……精神めっちゃ削られる」
「ビ、ビリリ……」
光の試練もかなり大変だったけど……感電しないように気をつける緊張感、トラップの殺意の高さ、そして迷路の長さで疲労が溜まる。休憩地点で休めるけど、制限時間のせいで少ししか休めない。時間ももうギリギリ……
「でも……ついにゴールは見えた。そこまでが地獄だけど」
先に光が見える道……そこには丸くて中心に赤い光がピッ!ピッ!と音を鳴らしながら点滅する物体。見るからに地雷って感じのものが点々と設置されている。なんか……いきなり現代兵器出てきて棒を落としかけたよね。初めて見た瞬間。
「ビ、ビリリ……」
「よっ、と!あわわ……!」
私とレモンは地雷を踏まないように気をつけながらゴールを目指す。くっ、この地雷……設置位置が意地悪で持ってる棒が凄いふらつく。
(目の前にゴールが見えていること。そして時間が無いってことでかなり集中力が乱される)
そしてまだ半分しか進めていない地雷ロード。制限時間までに行けるか私がより不安になった時だった。
「ビリリリリリリ!!」
ここまでのストレスが爆発したのかレモンが大きな声をあげると前方に大放電をかました。そ、そんなことしたら地雷が爆発するんじゃ!?そう思って身構えたけれど……爆発は発生していなかった。
「あれ?なんで?」
よく観察してみると放電を受けた地雷は点滅していた光が消えている……もしやこの地雷、電撃を受けると停止する設計になってる?
「回路が焼き切れたのかな……って、今はそんな考察している場合じゃないね」
停止している今のうちにさっさと抜けてしまおう。私は最後の力を振り絞って地雷ロードを突破した。そしてゴールの先にあった台座に持ってきた鉄の棒を差し込んだ。
ゴゴゴ!!
差し込んだ鉄の棒が鍵だったのか。ゴールの先にあった、光の試練では黒い鎖に封じられていた大扉が開き出す。光の試練の時は気絶しちゃってて自分の足では入らなかったんだよね……今回は疲労が凄いけど自分の足で先に入れるね。
私は気疲れが残っているままレモンと共に大扉の先に進んだ。暗めの通路を歩いていくと部屋に辿り着き、薄黄色の水晶柱……そして青白いスライムが居た。
「プララ!」
「ビリリ!」
青白スライムは挨拶なのか青白い電光をバチ!と迸らせる。レモンも答えるようにバチ!も小さく放電した。青白スライムは嬉しかったのかピョンピョンと跳ね……水晶柱に触るようにジェスチャーしてくる。
「凄いせっかちだね……」
雷属性の子らしいなと思いながら私は水晶柱に触れた。聖書の黄色の石の縁が装飾されたのを確認……これで2つ目の試練突破だね。
「プララ!」
青白いスライムは賞賛するようにバチ!バチ!と細かく放電し、帰るための転移陣の横に移動した。
なんか『さっさと帰れ!』的な行動だけど……本スラの雰囲気はそういう感じじゃないんだよね。多分、滅茶苦茶せっかちなんだろうね。戦闘とかは指示聞かないで見敵必殺って感じ……
「じゃあね。また会えたらよろしくね」
「ビリリ!」
「プララ!」
私とレモンは青白スライムに手を振って転移陣に乗り、雷の試練を後にした。
「これで一先ず第4進化した分はクリアだね……」
この後はレベリングかな……スチン、アセロラ、プルーンを優先してね。スチンは昨日で割と経験値稼げたし、他2人は割と連れて行ってたから経験値も良い感じのはず。
(一先ずはスチンとアセロラを優先。スチンが進化したらプルーンと交代させよう)
そして肝心のレベル上げ場所だけど……地下街は亡者たちがドンドン集まってくるからそこでやろうかとも思ったけど、あそこはスキュラ攻略の糸口を探すために人が多そう。獲物の取り合いになりかねないね。
「なら大氷原を攻略しちゃおうかな……今ならプレイヤーたちはイベントフィールドに行ってて空いてるだろうし」
薬に使う氷塊も集めておきたかったからね。スチンは殆ど能力が死にそうだけど……なんとかなるでしょ。私はイベントそっちのけで凍尽の大氷原攻略に踏み切ることにした。
雷の試験管理人
プラズマティク・スライム
プラズマを発生させることで特殊な空間を作り出し、
空間内では必中の電撃、雷と同速の移動を行うことができる
移動速度に特化したスライムであり、殆どのモンスターはその正体を察知することもなく生き絶える
なお、この個体は超せっかちであるため
敵と認識した1秒後には攻撃するため隔離されている
そのことに本スラは特に気づいてはいない




