第114話
鼻が完全に麻痺して悪臭が気にならなくなった。亡者たちの大群と呻き声も慣れた。そんな状態でも言わせてもらう……
「これはキツイ」
眼前に広がるは廃棄場。地下街の丁度中心というべき場所には山積みになった死体に死骸……ホラーが苦手な人が見たら耐えられないような景色となっていた。
「キャハハハハハハ!!」
そしてそんな廃棄場の中心には高笑いを上げる1体のモンスター。そいつの見た目は上半身は女性フォルムの人型で下半身はタコ……スキュラと呼べる姿をしていた。人型の部分は肌が白灰色で目が4つあったけど……まぁ、癖に刺さる奴は居そう。サイズが5階建てのビルぐらいあるけど。
ガシ!ムシャ!バクバク!!
スキュラはタコの足で周囲の死体と死骸を掴むと触手のスカートの中へ……スカートの中からは大きな食事の音が鳴っている。
「「「テラララ」」」
スキュラが食事している横で亡者たちを捕食していたタコたちが口から亡者たちを吐き戻す……中には上まで行ってるのか魚人をリバースしているやつも居る。あいつらはスキュラの餌を集めてたのね……親鳥が雛鳥に餌を取ってくるように。
「そう見ると随分とデカい雛鳥だな……」
スキュラの方が親だろ……さて観察はこの辺にしてどうするか。あのスキュラがいる広場を通らないと先に行けないんだよね。でも気づかれずに通り抜けるのは無理だろうね……スキュラ自体は食事に夢中だけど、タコたちに見つかりそう。
かと言って倒すのもね……あれ個人で戦えるような相手じゃないでしょ。恐らくは第2回イベントの悪魔のように数パーティーで戦うレイドボスって感じ。
(これは……情報だけ出して攻略組に任せよう)
私は参加する気は無いね……面倒だし。とりあえず地下街から出るか。そろそろ陽の光を浴びたい……外出ても曇り空だけどね。
「ん?なんかナギからメールが……」
私が亡者やタコたちに気をつけながら帰っているとナギからメールが届いた。薬は納品したばっかりだし……なんだろう?
メールを開いて確認してみると調査拠点Cに来て欲しいとのこと。なんでもCのフィールドを探索したプレイヤーとパートナーたちの間で謎の状態異常が発生……私の力を貸して欲しいとのことだった。
◇
調査拠点C。見た目はFと変わりはない……ここも壁にある大穴から中に入る感じ。ただ穴の先が黒い珊瑚が生えまくっているね。Fとは全然違う……
「おっ、来たねココロ」
待ち合わせ場所に行くとナギが待っていた。時間も勿体無いから、早速謎の状態異常について聞く。謎の状態異常は市街地を抜けた先、研究所エリアで発生したらしい。
いつの間にか身体に黒い紋様が出現……最初は軽い倦怠感程度のもの。しかし既存の回復アイテムでは進行を遅らせるだけで完全な治療ができない。そしてこの紋様は時間経過、並びに敵モンスターの攻撃で進行……最終的に全身に紋様が回って見境なく暴れ始める。
「状態異常としては暴走、凶暴化に似てる。対処法もまんまだし……」
暴走、凶暴化は精神系の状態異常。敵味方関係無く暴れてしまう。暴走はパートナーのストレスが限界まで達すると発生、凶暴化は魅了や恐怖などの精神系状態異常を長時間受けてると発生する。一部の能力には暴走状態になって身体能力を強化するものもあるけどね……
ちなみに暴走、凶暴化の治し方はシンプルに殴って気絶させる。このゲーム、味方攻撃してもダメージは無くても衝撃はあるからね。
「ふーむ……暴走ってプレイヤーもなるの?」
「プレイヤーはちょっと違うかな。プレイヤーも暴れるっちゃ暴れるけど……言葉が支離滅裂になったり、突然叫び出すっていうのが多い」
ふーむ、成程……その後、私はサンプルとしてモンスターの素材を渡されたけど……何も分からん。説明がね……
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イロウジョンシーゴーレムの破片
黒い珊瑚の欠片
元は黒くない珊瑚だったが***が侵食して変質している
持っているだけで何処か寒気を感じさせる
取り扱い注意
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内容が浅いし、肝心のところが伏せ字で読めない……
(説明がちゃんとしてれば早速実験と行きたかったけど……)
こうなると実地調査しなきゃだね。研究所だっけ?そこで色々調査しよう。私は研究所に向かうことにした。
その前にナギにはFの地下街、それとスキュラについての情報を話しとく。ナギは攻略組でも上位……何とかなるでしょ。
「了解。状態異常の調査の代わりにそのスキュラってやつを調査してくる」
「よろしく」
私はナギと別れ研究所へと向かった。Fと変わらぬ市街地を抜け……辿り着いたのは珊瑚に飲み込まれたような大きな施設。研究所って言われてなければ工場のようにも見える。人が居ないはずなのに煙突からは緑色の怪しげな煙が立ち上っている……ここもホラー感強めか。
「皆、何か異常を感じたら報告してね」
「メキュ!」「ビリリ!」「ドロォ……」「ノロォ」「ヒュウ!」
ライムたちの返事を聞き、私は謎の状態異常が発生する研究所へと足を踏み入れた。研究所はいくつか建物が分かれているようだけど、地面から生えた珊瑚のせいでルートが決められているみたいだね。
「ゴォォ!」
先に見える建物に向けて進んでいると、近くの珊瑚が動きだし行く手を遮った。黒い珊瑚でできたゴーレム……さっき渡された素材のモンスター。イロウジョンシーゴーレムっぽいね。
「ゴォォォォ!」
「ビリリリリ!」
イロウジョンシーゴーレムは身体の節々から緑色の液体を滴らせ腕を振り上げる。しかし動きが緩慢なため腕を振り下ろす前にレモンの雷撃を食らった。
「ゴ、ゴ、ゴ……」
全身から煙を発生させゴーレムは崩れていった。見た目硬そうだけど弱かったね……まぁ、点無しだから当たり前か。
「戦闘したけど特に異常無し……調査続行」
私たちは更に奥へと向かった。数回イロウジョンシーゴーレムと戦闘したが無事に建物に入ることができた。建物の中は流石に珊瑚が生えてない。代わりにパイプや謎の緑色の液体の入ったタンクがあった。
ゴボボ……ゴボ……
粘度の高い液体が泡立つ音を聞きながら進んでいると、前の方からベチャ……ベチャ……という音が聞こえてくる。
「メェェバァァ……!」
警戒した私たちの前に出てきたのは、緑色の液体の人型のモンスター。スライムヒューマみたいなモンスターだけど……こいつは緑のマネキンって感じで髪の毛も顔のパーツも無い。これをスライムヒューマって言った奴が居たら殴りたいぐらい。
「メェェバァァ……!」
緑マネキンはベチャ!ベチャ!と足音を出しながら向かってきた。身体のパーツは自在に操れるようで右腕を槍のように鋭く尖らせ、1歩1歩恐怖を駆り立てるように歩いてくる……うん。
「遅っそ。レモン片付けて」
「ビリリリリ!」
遅過ぎてイライラしてくるのでサクッと処理……モンスター名はバイオアメーバ。他の生物の形を模倣するモンスター。分類はどうも水生系に当たるらしい……
「アメーバってスライム系じゃないのか。まぁ、あれを仲間と言われても嫌だけど」
バイオアメーバに辛辣の評価を下す。ちなみに素材の方は有用そうだった。
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バイオアメーバの液体
バイオアメーバの細胞の塊
生命活動は停止しているため動くことはない
***が99%を占めており
体内に入れば***の影響が発生する
取り扱い注意
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謎の伏せ字……恐らくこれが謎の状態異常の原因のはず。研究資料的なものを発見できれば進展すると思うんだけどね。
「時間かけ過ぎると私も危ないし……できるだけ急ごう」
制限時間(いつアウトになるか分からない)付きの探索。スリルで背筋がゾクゾクしながら私は怪しい研究所の暗闇へと進んだ。
ポヨン。ポヨン。




