第113話
ギィィィィィ……ガコン!
「ふぅ、やっと開いたね……」
路地裏にちょっと入ったところにある鉄扉。錆のせいで全然開かず手間取ってしまった。でも開けた価値はあると思う……何せこの扉は。
「地下街への入り口だからね」
鉄扉の上部分に付けられている表札。生憎、半分は腐食し過ぎて読めないが『地下街5番入り口』と書かれていた。
(5番ってことは他にも入り口ありそうだね……とりあえず入ってみよう)
私は扉を潜り、長く灯りが1つも無いため闇に呑まれている階段を降りていった。灯りは……いつ買ったか忘れたランタンがあったからこれを使おう。
ピチョン……ピチョン……
水が滴る音だけが聞こえてくる。また密閉された空間なのか外よりも臭いを強く感じる……そのうち鼻が麻痺って気にならなくなるかな?そう思っていると階段が終わり、私は地下街へと辿り着いた。
「ここが地下街……外よりも空気が澱んでいるね」
上を孤独な都市と表現するなら、ここは忘れられた都市。建物の様子は上と大差無い……照明用の光る貝が天井や建物の高い部分に張り付いていて階段よりは明るい。とはいえランタンは手放せないぐらい暗いけど。
建物は壊れては居ないけれど……板が打ち付けられていたり、頑丈な鉄格子が嵌められていたりと物々しい雰囲気がある。あと血のような跡も。
「「ガ、ァァァ……」」
「早速モンスターが……だけどなんか上と系統違くない?」
ランタンで照らし観察していた私たちの前に現れたのはは死霊系、ミイラというか皮と骨だけの身体を魔術師のようなローブで包み。胸には金色の星型ペンダントをぶら下げている。何処となく神官って雰囲気がする。
「「「ガ、ァァァ……」」」
「なんか増えてきてる……」
亡者たちは路地裏や道の横の水路。壊れた建物から這い出てくる。そして干からびた腕をこちらに伸ばし向かってくる。
「ピリリリリ!」
そんな亡者の集団にレモンは広範囲放電を放った。進化前だと威力が下がってしまい、威嚇ら制圧程度にしかならなかった……だけど進化したことで元の威力が増大。
「「「「ァァァァ……」」」」
電撃の波に晒された亡者たちは次々に崩れるように倒されていく。ただ、倒される側から補充が……
「ヴォロロロ……」
しかも見るからに進化系なやつも混じってる。少し豪華なローブに杖を持ってる奴が。杖持ちの亡者は杖を振り上げると、黒い頭蓋骨の形をした弾を飛ばしてくる。遠距離型面倒だね……でも見るからに呪いだし。
「ノロォ!」
「ルベリーのオヤツだよね」
杖持ち亡者の攻撃は全てルベリーが受けて吸収した。そして亡者たちは再びレモンの放電で片付けられる……しかしそれでも亡者たちは続々と出てき続ける。
チェリモも上から撃ちまくっているけど増えるペースが早い。これレモンが進化してなかったら押し切られてたかも。
(こいつら……まさか無限湧き!?)
だとしたら倒しても意味が無い。ここは逃げるべきか……私が一旦撤退するか悩んだ時だった。突如、後ろの方に居た亡者たちが宙に舞い……黒々とした触手が目に入った。
「ァァァァァ……」
「テラララララ!」
亡者たちを枯葉のように宙に舞わせ、更には触手で捕獲したのはタコ。小さな家ほどのサイズで黒い身体に紫色に発光する目と吸盤……見るからにヤバそうなやつ。
「テラララララ!」
タコは今のところ私たちに興味は無いようで、亡者たちを捕まえ口に運びバリボリと捕食していく。これは逃げるなら今だね。
「皆、こっちに逃げるよ!」
私はライムたちを連れて亡者たちとタコから離れた。逃げている間、亡者の呻き声とタコの咀嚼音が鳴り続け響いてくる。うん、これはあれだね。
「ホラー苦手な人は地獄だね」
今回のイベント。相当ヤバい……
◇
「ふぅ……やっと逃げ切れた」
無事に逃げ切れた私たちは近くの建物に身を隠していた。逃げてる途中でも亡者たちに群がられかけ、逃げてる途中で見つけた頑丈そうな建物に入ってなんとか振り切れた……あいつらの足が遅くて助かったね。
「チェリモが上から逃げる先指示してくれたおかげだね。ありがとうチェリモ」
「ヒュウ」
私はチェリモを撫でた。さて、逃げ切れたから探索再開しないと……でも外は亡者たちがユラユラと歩き回っている。
「まずはこの建物の中から見て回ろう。入れたなら何かあるかもだし」
そう思って建物の中を探索し始めた……ただ、海の底に沈んでいたためか中にあるものは腐食が酷く。本なんかはビシャビシャのボロボロ。碌なものが無い……これは中を探索したの無意味だったかな?
「ドロォ……」
「スチン、何か見つけた?」
私は溜め息を吐いているとスチンが何か持ってきた。受け取ってみるとそれは額縁……入れられているのは、この都市が沈む前の新聞のような記事で写真付き。防水の額縁だったのか中の紙は無事だね。
(ゲーム的な都合なのか文字は読めるね
……)
書かれていたのは王様が異国からのやって来た神官団を受け入れたこと。それから国に新しい教会ができ、新たな宗教が国に広まっていったことが書かれていた。
「宗教ね……ん?この写真に写ってる神官」
私は写真に写っている神官。外の亡者たちが身につけていた星型のネックレスをつけてる……神官たちの成れの果てが亡者たちってことか。
(かなり怪しい記事ではあるけど……この都市がなんで沈んだのかは判断できないね)
他にもこういう過去のことが分かるアイテムありそうだし。探してみよう……あとはクティアさんにこの教団のことを聞こうかな。
スライムの神殿は歴史が古い……この教団の情報もあるかもしれない。
「戦闘面じゃあんまり活躍できないし……私はこういう考察の方を頑張ろう」
私自身、戦闘よりもこの都市で何があったのか……そっちに対する興味が上回った。この建物は他に何も無かったから別の建物に向かおう。
「「「ガ、ァァ、ァァァ……」」」
「うーん、こいつら邪魔だね。明日はアセロラも連れて来て焼却しよ」
建物の外に出て早々に襲ってくる亡者に対し、私は若干の殺意を燃やしかけながらレモンに片づけさせた。この地下街……亡者にストレス溜める人多そうだね。
亡者
・ハングリーデイドリーマー
飢え死に死んでもこの世から解放されなかった亡者
暗い空間を彷徨い、生者を襲う本能しか残っていない
彷徨うのは己が背負った罪か呪いか
・ハングリー・イビルプリースト
飢え死に堕ちた神官
呪いの力を操り、生者を己のような亡者にしようとする
死んでも解放されないのは神に見放されたか、それとも祈る神を間違えていたか
それは誰にも分からない……




