第12話
『個体名:スチンのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
セカンディアへの帰り道。襲ってくるモンスターたちを撃退しているとスチンのlvが10になった。丁度良いところで10になってくれたね。
(そろそろライムもlv20 になりそうだね……)
ライムは《医療術》でも経験値が得られるから戦ってなくてもlvが良いペースで上がってくれる。さてスチンの進化先はどんな感じかな?
「ラージスライムはいつものこととして、ニートスライムがある。やっぱ戦闘させないとニートになるって感じか……」
いつもの進化先は置いといて、今回スチンが進化するのはハードマッドスライム……硬い泥のスライム?。説明文はこんな感じ。
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・ハードマッドスライム
全身が黒い泥で構成されたスライム
身体の流動性が高く、自由に身体を変形できる
また泥は通常の泥と比べて硬く、生半可な攻撃は通さない防御力を持っている
なお泥には栄養が豊富に含まれていて、植物の肥料としてもとても有用である
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成程。要するに普通の泥じゃなくて黒泥のような性質の泥ってことか。ライムみたいな特殊進化みたいだね……
(条件は黒泥を与える……いや、ある程度栄養が豊富な泥を与えるかな)
嵩増しにアースワームの肥沃な土を混ぜてたからね。あれも影響していそう……説明にもその辺触れられているし。
「それじゃあ進化開始」
説明の確認も済んだから早速進化させてみる。毎度のように光に包まれ、しばらくして光が消えていく。スチンの見た目は艶のない黒色、大きさは一回り大きくなったみたいだね。
「ドロォ……」
進化したスチンはクタァ……と少し溶けた。確かに流動性が高そうだね……気を張らないと丸で居られないのかな?
(ステータスの方は……)
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スチンlv1/20
種族:ハードマッドスライム(第1進化)
HP:60/60
MP:30/30
スキル
《悪食》
《物理耐性・Ⅱ》
物理攻撃による被ダメを20%軽減する
《硬質泥弾》
硬質化させた泥を敵に飛ばす
硬質化させない場合は目潰しや肥料に使える
《泥擬態》
身体の形状をドロドロにし身を隠す
自然の泥に同化し自由に動くこともできる
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意外と器用?防御力がしっかりあって、攻撃手段もある。更には伏兵としても活躍できる……仕事の幅は広いし、一見凄く強そう。しかしそう上手くはいかない訳で……
「ドロォ……」
「あー、機動力が無いんだね」
そもそも移動方法が違うし、ライムやレモンのように跳ねるんじゃなくて、ズルズル……と引き摺っての移動……速くないはぐ◯タって感じ。流動性の高さがデバフになってる。
「抱えるのも難しそうだしなぁ……スキルのチェックしながら色々考えてみよ」
私はスチンのスキルを試しつつ、どう活かすか考えていった。《硬質泥弾》は握り拳サイズの黒っぽい塊を10mまで飛ばせたし、《泥擬態》は本当にドロドロの泥のようになり、沼の泥に混ざると何処にいるか全然分からなかった。
「《硬質泥弾》は速度が遅めだから攻撃よりは支援に使うのが良さそうだね……目潰しにも使えるみたいだし」
なお、当たったら痛そう。地面に落ちた時にゴンって重い音が鳴ってたし。そして《泥擬態》の方は環境によるけど強い、黒い見た目なのに泥に混ざると色が変化して見分けがつかなくなる。ついでに泥に溶け込んでると少し移動速度が速くなってるね……気持ち程度だから移動速度問題は解決してない。
「だけどこれ……あれの回収行けるんじゃ?」
あれっていうのは霊結晶のこと。ここまで擬態できるならスワンプ・メガロドンに探知されない気がする。今度探知されるかどうかだけ確認してみようかな……探知されたらスチンをすぐに回収できるようにしてね。
そんなことを思いつきつつ、スチンをどう連れて行動するか考えていく。そして最終的に決まったのは……
「私の服に擬態させる……慣れさせれば分かりにくくなるかな?」
私のボディスーツに纏わりつかせるという方法だった。《泥擬態》を発動させたスチンは2つ以上に千切れたりしなければ自由に形を変えられる。それを利用してボディスーツに擬態してもらった。よく観察すると違和感があるだろうけど……上から白衣を羽織っているから観察力が高い人じゃないと気付けないと思う。
(こっちのデメリットは私の移動速度が遅くなるだけ。実質0)
私が弱体化しても別に何か問題があるわけじゃない……調薬している時は擬態解かせればいいし。
「これで移動の問題は解決。それじゃあ町に帰ろっと」
霊結晶は夜の人が少ない時間帯に行けばいいや……夜ってプレイヤー増えると思ったんだけど、夜になると沼の泥が見えにくくなって不意打ちされやすくなるせいか、大体のプレイヤーは山に行ってるらしい。山は光るキノコや植物があってそこそこ視認性が良いらしい。
「沼地に満足したら行こうかな……スチンあんまり動かないで、擽ったい」
「ドロォ……」
私は擬態を調整しようとするスチンにちょっと困りながら町へ帰った。
◇
「これダメだね。今の機材じゃ失敗して地獄を見る……」
テイマーギルドで部屋を借り、沼地の素材で早速薬を作ろうとした私は悪臭の実をそっとストレージに戻した。
悪臭の実は中のガスは悪臭を軽減するガスへ加工できるのだけど……今持ってる調薬キットでやると失敗して爆発。よくて悪臭が周りに撒き散らされる……
(成功率は緩く見積もって30%……称号で失敗率を下げてるとはいえ悪臭撒き散らすのは色々マズい)
借りてる部屋で悪臭散布したら絶対出禁食らう。失敗しても被害が小さい素材で実験しよう……まずは浄水草。
「まずは回復薬を作るように刻んで煮てみようかな」
浄水草は根に効果がある。私は生姜みたいな根を細かく刻み、沸騰するまで煮て濾してみる。
「あれ?特に変化してない……」
できたのは無色透明で無臭の液体。ただの水にしか見えない……説明文カモン。
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浄水
浄水草によって不純物が取り除かれた水
薬や料理に使うと効果を普通の水よりも上昇させることができる
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水の上位素材。薬じゃなくて素材だからか効果じゃなくて説明文……まさか水も良いものを用意しなきゃ行けないんだね。
「これは今後大量に作らないとかな?あー、でも液体の薬じゃないと使わないか」
普段から作成しているのはライムの薬液で作る丸薬。あれは水を入れると上手く纏まらなくなるからね……ならこれと合わせてみるか。私は泡沫華を取り出した。
(いきなり浄水に入れるのは博打過ぎるから普通の水で試そう)
私は泡沫華から蜜を取り出す。泡沫華の蜜は袋のような膜で包まれてるから採取しやすい……これ蜜の匂いとか広がらなさそうだけど、どうやって虫とかを惹き寄せるのかな?
「ファンタジーの植物だから不思議なパワーで、とか言われたら何も言えない……」
私は蜜の入った膜に穴をあけてサラサラとした蜜をビーカーに入れる。泡沫華の蜜は熱に弱く、加熱したりすると効果が薄くなるから常温か冷たいものに混ぜる必要がある。今回は前に作ってストレージの肥やしになってた下級回復薬に混ぜてみる。
シュワァァ……
ある程度の量を入れて静かに混ぜていくと小さい泡が沸々と出てきた。そして混ぜ切ると下級回復薬は炭酸飲料のようになっていた。見た目はメロンソーダだね。
「味は多少甘くなった?薬草の苦味が残っててお茶ソーダって感じだね」
これ上手いことすればジュースみたいな薬作れそうだね……調薬系ラノベあるあるの。このゲームにもちゃんと果物あるからやろうとすればできる……単純に混ぜただけだと成分が分離したり、混ぜたことで効果が低下したりするんだけど。
βテストの時にチャレンジした人が沢山居たけど、成功者は誰も居なかったって話があるくらい。
(まぁ、作り方がややこしいからね……)
クイラさんに教えてもらった作り方だとフルーツの果汁を抽出し濃縮してエキスを作る。それを薬を作る際に適量混ぜる必要がある。この量は素材によって細かく変化し、素材によっては合わないものもあるから面倒。
「抽出するのに抽出キット、濃縮するのに濃縮キットが必要になるから手間もかかる……コスパが悪い」
1つ1つ手作りしたら時間もかかるしね……確か拠点を手に入れることができれば大量生産向きの設備を用意できるから、やるとしたらその時。その時に需要があるか分からないけど。
(上薬草は下級回復薬と同じ作り方でなんとかなる……なら丸薬に加工してみよ)
魔力草も水で煮出せば薬になるので、ライムの薬液と混ぜれば丸薬になると思うんだけど……ライムの薬液にMP回復効果のあるものがないから何と混ぜるか分からない。
(魔力草の丸薬は後で実験するか……丸薬化は急ぎじゃ無いし)
もうそろそろ夕飯食べにログアウトしなきゃだからね……夜は霊結晶の回収に挑戦するつもり。霊結晶が手に入ったらそっちをメインに実験する……聖水とか気になる。それをスライムに与えたらどんな進化をするかとかね。
「忙しい忙しい……」
過密スケジュールにならないように気をつけよ……幸い夏休みはまだあるし。友人との約束も無いしね。友達が居ないわけじゃなくて親の帰省や旅行で居ないだけ、ラインとかでやり取りはしてるから……誰に言い訳してんだろう?
「ん?なんかメッセージが来たんだけど……誰から?」
差出人は運営から。内容は第1回イベントの予告……それとアップデートについてだった。
(これはスケジュールの見直しが必要そうだね)
私はちょっと運営を恨んだ。




