第112話
本日土曜日。第4回公式イベント開催日……昨日はレモンとドランの進化で軽く疲れた。
(イベント用の商品はあっという間に売れたね……)
ナギと百鬼夜行からは注文入っていた分は納品して料金も頂いてる。おかげでかなり設備を更新できそう……イベントの報酬もあるし、すぐには更新しないけど楽しみだね。
ちなみに今はイベントが始まるまで拠点で待機中。わざわざ人混みに行く必要は無いからね……普通に疲れるしね。
「と、時間だね……」
私はメニューを開いてイベントの欄を開く。えーと、転移先は情報通り6つあるね。ただ情報が何にも無い。実際に行かないとどんな場所か分からなさそうだね……
「んー……A〜FならFかな」
理由は1番後ろは人が居なさそう。AやBには逆に多いと予想……というわけで先に決めてあったメンバーと調査拠点Fに転移した。
メンバーはライム、レモン、スチン、ルベリー、チェリモ。何が来ても安定して倒せる構成……アセロラは今回場所的に水属性が敵になりそうなのでお留守番。様子を見て行けそうなら突入って感じで。
「おー……なんか雰囲気怖いな」
転移した先を見て思った感想はこんな感じ。空はどんよりとした曇天。調査拠点は浮上都市の外壁の壊れた部分に作られているんだけど……見えている範囲で不気味さしかない。
(黒っぽい灰色の石で作られた建物……)
見た感じは産業革命中のイギリスって感じ。建物には海の中で付着したのかフジツボや海草が……海草に関しては腐り始めてるのか悪臭をほんのり感じる。
そしてここに転移した時から感じる『目に見えない誰かに監視されている』という感覚。これが心の底の恐怖心を掻き立ててくる。
「ちょっと今回はエンジョイで済ませようと思ってたけど……少しガチにならないといけなさそうだね」
とりあえず調査拠点の依頼を1回見てこよう。ポイント獲得には大事になるし。私は調査拠点に作られた大きな掲示板に向かった。掲示板には依頼が書かれた紙が貼り付けてある。
(依頼はモンスターの討伐。モンスターの素材納品。薬などの消耗品の納品か……)
モンスター関連はこのイベントフィールドのモンスター。消耗品は向こうが用意した素材で作って納品……予め作ったものは納品不可。
(消耗品は品質で得られるポイントが増えるみたいだけど……わざわざやる必要は無いかな?)
使える設備も普段使っているものに比べたら微妙だし……多分、消耗品納品は生産初心者向けなんだろうね。
とりあえず討伐と素材納品を受けられるだけ受けて、早速探索と行こう。私は外壁の穴から都市へ侵入する。見えていたけどここは住宅街って感じだね。
「足元濡れてて滑りそう……」
ライムたちは身体の構造上、足場の悪さは気にならないのが羨ましいな。調査拠点周辺は人多いみたいだし……私たちは奥に進もう。
「「ギギョ!ギョギョ!」」
都市の奥へ行こうとする私たちを遮るようにモンスターたちが路地裏から現れる。モンスターの見た目は魚頭のゴブリン……深海魚みたいな魚の頭部に滑りのある鱗の肌。手には錆だらけの武器を持っていて腰回りには海藻の腰蓑がついている。気味が悪い見た目だね……とりあえずは魚人とでも呼ぼう。
「ギギョギョ!」
魚人たちは錆武器を振り上げてこっちに向かって来る。理性の欠片も無い様子でフェイントも何も無しで突撃か……
「レモンよろしく」
「ビリリ!」
私の指示を聞いたレモンが前に出る。そして両手を合わせて離すと手の間にバチバチ!と爆ぜる青白い雷撃が発生する。雷撃はどんどん大きくなっていきレモンの右手に集まると……剣の形になる。
「ビリリリリリリ!」
レモンは右手の剣を振り抜く。剣の刃がギュン!と伸び、魚人たちの胴体をすり抜けるように通過していく。
「「ギギョギョギョ!!?」」
雷撃の剣を受けた魚人たちは派手に感電、全身から白い煙をあげて地面に倒れ伏した。剣が通過したところは焼け焦げて炭化しかけている部分もある。
これがレモンの新技、電撃を圧縮して剣にして振るう雷撃ブレード。間合いを測ろうとも伸びる斬撃……戦闘慣れしている相手程刺さりやすい攻撃。
(今までの鞭攻撃が強化されたものだね……)
ちなみに剣なのはレモンが好きな本の影響かな。レモンはリビングメイルが題材のお話が好きだったからね。
(進化して剣の形のまま固定できるようになったんだよね……)
コントロール力上がってるのに昨日バッテリー壊したのは本当に謎。多分、いつもの感覚で流したら、進化のせいで流せる電気が増えて過剰に流したってところかな?
「ギギョギョギョ!」
「ギョギョ!ギギギ!」
「うわ、増えた……」
レモンの雷撃ブレードで倒した魚人たちが消えるとほぼ同タイミングで追加の魚人たちが。うーん、強く無いけどシンプルに面倒な相手だね。
「チェリモ、上から支援して。ルベリーはまだ何もしなくていいよ。あれに使うの勿体無いし」
「ヒュウ!」
「ノロォ」
とりあえず来た分は片付ける。チェリモが上から霧風の弾で牽制し、集まったところをレモンの雷撃ブレードで薙ぎ払う。レモンがアセロラ並みの範囲攻撃できるようになったから、火属性が有効じゃない場所も安心だね。
「ギョゴォ!ギョゴォゴォ!」
魚人たちを片付けていると、3倍ぐらい大きな魚人が出てきた。頭の形は同じく深海魚っぽいけど……何処となくサメっぽさもある。あと武器は錆まみれの両手斧で見るからにパワータイプだね。
「ギョゴォォォ!」
「ヒュウ!」
大魚人は斧を振り上げながら向かって来る。チェリモの攻撃も気にせず、私の頭をカチ割ろうという殺意を感じた。モンスターよりプレイヤー優先して狙って来るのか……見た目的にタフそうだし、こいつが複数出てきて囲まれたら面倒だね。拘束できるかだけ試してみよう。
「ルベリー」
「ノロォ」
ルベリーは返事をすると呪いの鎖を発生させ、大魚人を拘束した。大魚人はガチャ!ガチャ!と鎖を引き千切ろうとするが全く千切れず。
「ビリリリリ!」
「ギョゴォォォォォ……!」
雷撃ブレードで頭から両断(斬れてはない)されて倒れた。ふむ、この様子なら多数で囲まれても大丈夫そうだね。
「一段落着いたかな?じゃあ進もう。チェリモは上空から周囲の偵察よろしくね」
「ヒュウ!」
魚人たちの襲撃の合間を縫うように私たちは進んでいく。路地裏や壊れた建物の中から奇襲するように魚人が出てくることもあったけど、チェリモの索敵で大体回避。近くに来られるまで気づかなくても……弱いから問題無し。
「それにしても臭いが……それに奥に行くほど湿気が凄い」
アセロラ連れて来るのはやっぱり難しそうかな……ここの運営の感じからして、ギミック攻略に火属性が必要とかありそうだけど。
そんなことを思いながら歩いていると……急に先が開けた。そして水の流れる音が聞こえてくる。
「これは……大きな水路かな」
道の前先にあったのは水路……ただ横幅がかなりあって、橋も見当たらないから渡るのは厳しそう。深さも濁っているせいで分からない。
「流れ自体は速くないし。船や泳いで渡るのは……ん?」
私が右の方を見ると同じようなことを考えたプレイヤーがパートナーに乗って渡ろうとしていた。中々良い感じに進めていたけど……半分程行ったところで周囲から大量の魚人が襲いかかっていた。その様子は川に獲物が落ちてきたピラニアの如く……プレイヤーとパートナーは魚人たちによって水路の底へと沈められた。
「スゥ…………これは渡るのは一筋縄じゃ行かなさそうだね」
複数のプレイヤーで徒党を組めば行けなくもない。被害と消費を考えなければの話だけど。こういう場合は他にルートがあるはず……この様子だと地面の下とかね。
「地下通路みたいなものがあるかも……探してみよう」
私は水路を離れ迂回路を探し始めた。水路沿いに探すのも考えたけど……どうも魚人たちは水路から現れるようだからね。消耗はできるだけ抑えたい。
(さーて、何処にあるかな?)
魚人
正式名称:アビスマーマン
深海魚の頭を持つ人型モンスター。魚版ゴブリン
知能は低めだが徒党を組んで行動する
頭は3種類ぐらい種類があるが、能力は変化してない
大魚人
正式名称:ビッグアビスマーマン
アビスマーマンの進化体
頭が深海魚+サメのような形になる
身体が大きくパワータイプ……その分知能は低下
脳筋、単細胞枠




