第105話
闘技大会から5日経った土曜日。闘技大会の熱狂も息を潜め、穏やかな雰囲気が王都を包んでいた。スライムの神殿がある地区は人が殆ど居ないから、特に騒がしさとかなかったけど。
「平日もいつも通りの日常だったしね……」
「メキュ」
「ノロォ」
実験室で薬の瓶を見る。薬を作って売る……攻略組っていうお得意様ができて、デメリット付きの薬の生産もすることにはなったけど割と満足してる。安定した薬の方は素材の関係上、実験が止まってるんだよね……あれは良くも悪くも遊びが少ないから。
「ナギからは特に連絡来てないけど……カクリヨさんからは使い勝手に関するデータが送られるんで実験が捗るね」
予定外だった攻略クランとの取引はお金だけじゃなく、2つも得られるものがあった。
1つは手に入れにくい実戦でのデータ。私たちって状態異常の薬とか私以外使わないし、回復もライムがやってくれるから。そういったデータを得る機会が少ない。
(これを元に改良から進められる)
2つ目に素材。百鬼夜行は色々なフィールドを攻略し素材を集めている。そのため惑わしの大砂丘や凍尽の大氷原などの素材を取引することができる。地味に集めるのが面倒な氷塊を得られるのは大きい。集めに行く時間が無く、大急ぎで必要な時ぐらいしか取引しないだろうけど。これに関してはナギからも取引できるし。
「というかそろそろ素材集めに行かないと……色々枯渇気味だしね」
この約1週間、探索とかはせず薬の実験と拠点の整備を進めた。裏庭の畑は広くして品種改良を施した薬草を植え、水草の薬草を育てられるように庭の角に池も作っておいた。レンシアの力で簡単に掘れた。
家の方は1階は特に変化は無し。2階は貝の養殖部屋の水槽を増やした。貝の養殖が上手くいったからね……ただ、稚貝が素材として活用できるのに時間がかかるから水槽の数でカバーするしかない。
2階には空き部屋が残り2つあるんだけど……そこはまだ手付かず。物置として使うのもありではあるけどストレージがあるし、地下貯蔵庫があるしね。あそこは素材置き場に使ってるけど、それでもスペースがあるから物置として使える。
(取引で素材を手に入れられるけど……素材集めは経験値稼ぎになるからね)
あとレモンとアセロラのガス抜き。戦いに連れて行けてないからね……それに今うちには新人も居るしね。
私はライムたちを連れて応接室に移動する。応接室には最近取り始めたアーカイブの新聞を読んでるスチンとプルーン、レンシア……そして新入りのドランが居た。アセロラとレモン、チェリモは隣の部屋で、メロンは裏庭かな。
「ドラン。迎え入れて5日も経っちゃったけど、実戦しに行くよ」
「ピュキ」
ドラン。名前の由来はドラゴンフルーツの金属属性予定の子。ドラゴンフルーツは皮は赤に近い紫色で果肉も赤紫か白。金属ってイメージが無いんだけど、果肉に小さな黒い種がびっしりと入っていて、白い果肉の方はそのせいか少し灰色のように見えるんだよね。あとドラゴンフルーツって名前が強そうだからってのもある。
(ドラン。良い子なんだけど……なんか固いんだよね)
5日間過ごしてきたけど……欲が著しく少ない。ご飯とかもライムたちはお腹空いたって教えてくれるだけど、ドランはそういうことをしてこない。食べる気が無い訳ではなくて与えれば食べてくれるんだけどね。
その他の場面でも基本は無気力……最近はスチンたちまったりグループに混ざっては居るけど、その前は1体でポツンだったからね。
(心配な子なんだよね……レンシアの時とは違った意味で)
一応、私がログインしてる時は注意するようにはしてる。ログアウト中はライムが見てくれてるしね……何か問題があっても大丈夫なはず。
「とりあえず編成は……ライムとドランは確定。向かうのは色彩の迷宮だからアタッカーにレモンとアセロラ。あと足止め役でルベリーかな」
編成も決まったし早速向かおうか。色彩の迷宮ぐらいならサクッと終わらせられるしね。私はレモンとアセロラを呼びに向かった。
◇
「ビリリリリ!」
「メララララ!」
色彩の迷宮の虫たちをレモンとアセロラがあっという間に片付ける……やっぱりアタッカーが2体だとあっという間に片付くね。そして敵をサクサク倒せるってことは……
『個体名:ドランのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
ドランのlvもガンガン上がる。さーて、進化先はどんな感じかな?
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進化先
▶︎テーパダイトスライム
高温と低温。その両方に強く温度変化による影響が少ないテーパダイトの身体を持つスライム
テーパダイトの性質を持ち温度変化に耐性があるが、それ以外は普通のメタルスライムと同等
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名前シンプルだね。これ与えた金属鉱石が名前に含まれるのかな……ちょっと気になるね。とりあえずテーパダイトスライムに進化……
「メタ」
進化したドランの見た目はthe金属スライムって感じの銀色。水銀の雫みたい。持ってみると中々に重い……長時間抱えてるのは腕が厳しいかも。ステータスの方も確認。
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ドランlv1/20
種族:テーパダイトスライム(第1進化)
HP:80/80
MP:25/25
スキル
《悪食》
《金属体》
物理攻撃に対して高い耐性を得る
その代わりに雷属性の被ダメージが増加し
急激な温度変化で大ダメージを受ける
《高温耐性・Ⅰ》
高温に強くなる
炎熱に対して少し耐性ができる
《低温耐性・Ⅰ》
低温に強くなる
冷気に対して少し耐性ができる
《温度変化耐性・Ⅰ》
急激な温度変化に対して耐性を得る
△△△△△△
耐性しかないんですが?まぁ、タンク役任せるつもりではいたけども……うーん、このままlv上げてもいいけど。今の段階だと温度にだけ強いタンクになりそう。
(……テーパダイト以外の鉱石を与えようかな?)
確か金属属性のモンスターの特性に合金化ってものがあったはず。相性が良い金属を与えることで新たな能力を得ることができる特性。テーパダイトなら高温や低温を放つ鉱石とか?
(合金化。結構難しいらしいからなぁ……次の進化の様子を見てからでもいい気がする)
理由として、まず鉱石食の子じゃないとできない。鉱物食じゃない子で金属属性を目指す時は、金属属性のモンスターの肉や金属成分を含んだ色物を与えるんだよね。なので合金化できるのは主に物質系やスライム系になる。
そして金属属性の子は進化すると偏食気味……自分の身体を構成する金属鉱石以外は食べなくなることが多い。なら進化前に複数種類与えればいいと思うかもしれないけど……複数種類をあげた場合は与えた量が1番多い金属が進化先になる。仮に全部同じ量を与えてる場合は与えた金属の種類進化先が増えるだけ……確かそういう仕様らしい。
「第3進化から合金化した実例もあるし……ここで第2進化させちゃおう」
というか素材集め的に第2進化まで上げれちゃうからね。それはそうとナギにちょっとメッセージを……高温と低温に関する鉱石についてね。百鬼夜行を頼っていいけど、あそこは鉱石使いそうだからね……ナギは私と同じ装備付けられないタイプだから、鉱石の使い道無いはず。薬と交換する感じならトレードも受けてくれると思う。
「送信完了。それじゃあ素材集め再開しよ」
石化と呪い関係はいくらあっても困らないからね。私は進化したドランを頑張って抱えて下の階層に向かった。




