第104話
海外から感想来てました
モチベーションが上がりますね……
忙しくて返信できなくてすみません
20時。約束の時間になった私は、メールに添付されていた地図を頼りに待ち合わせ場所に向かっていた。
イベント後の熱が残っているのか人通りが多い。飲食店、特に居酒屋的なお店は何処も混んでるね。
「えーと、地図の場所はここだね……」
私は周囲の建物から浮いてる日本家屋を見た。入り口には『迷い家』と店名が書かれた板が建てられていた。
「扉も引き戸だし……もう中で待ってるらしいし行こうか」
「メキュ」
「ノロォ」
私はガラガラと引き戸を開け、ライムたちと中に入った。中も和風で席は座敷多め……店の真ん中には桜の木が生えてた。室内にどうやって持ち込んだんだろう?というかこのゲームに桜なんてあったっけ?
「いらっしゃいませ。今、席が全て埋まっているので少し待ってもらうことになるのですが……」
「あっ、待ち合わせです。既に来てると思うんですけど……」
「あぁ、チェリー様の……ではお席にご案内しますね」
私は和服の店員さんに席に案内された。案内されたのは座敷の席で、パートナーと戯れているチェリーとミリアちゃん……それと首に赤いヘビを巻いたナギが居た。
「お、ココロちゃん来た〜」
「ココロさん。大会お疲れ様でした」
「…………ん」
「お待たせ」
約1名、焼き鳥食べるのに集中してる……てかナギ居るの知らなかったね。多分、チェリーが誘ったんだろうけど……
「チェリー。いつから気づいてた?ナギのこと」
「イベント前だね。王都のお店をあちこち見てる時にね……髪と目の色変えただけだし。私を見てまな板って言ったからね」
ナギ……チェリーの時も地雷踏み抜いていったのか。私はモキュモキュと焼き鳥を食べてるナギにジト目を向ける。当の本人は気にしてない様子……ぺっ!
「とりあえずココロちゃんも好きなの頼んでいいよ。今日沢山稼げたから」
「具体的にはどれくらい?」
「これくらい」
チェリーはそう言って両手で7を示した。7……桁数だとしたら100万!?仮に頭の数字だとしてもチェリーの顔的に70万は稼いでるだろうね。
「ココロちゃんだけじゃなくてナギちゃんにも賭けてたからね……沢山稼げたよ」
「ふーん……ちなみに私とナギの試合の時はどっちに賭けたの?」
「ナギちゃん。あっ、ココロちゃんの方はミリアちゃんが賭けてたよ……」
ほー……その言い方だと先に賭けたのはチェリーか。つまりチェリーは私が負けると思ってた訳だ…………その通り過ぎて何も言えない。
(それでも腹立つから高そうなの頼んでやる)
ライムとルベリーの分もね。私はメニューを見て食べたいものを選ぶ店員さんを呼んで注文した。料理は和食多め、和食じゃない食べ物も和風って感じで凄く美味しかった。
「メキュ♪」
「ノロォ♪」
ライムたちも大満足。留守番してるレモンたちにもお土産として買っていけるかな?買えるなら自腹で買って行こう。
「そういえばナギの首の子って……あの火属性の子?」
「そうだよ。ラヴィア……うちのエース。今は装備でサイズダウンしてるけども」
「シュルルル」
食事で気分が良いのか。ナギは指でラヴィアを撫でながらちょっと説明してくれる。ラヴィアは第4進化……しかもlv40。火力特化の育成でその辺のボスなら一撃で倒せる火力を持っている。
「火力に特化したせいで燃費が悪いけど……まぁ、物理も強いし。他の子たちでカバーすれば良いからね」
「あー、そういえばMPを分け与える子が居たね……」
回復、浄化、MP補給の3種類できる子。ナギ曰く、あの子はラヴィアのサポート役として育成したらしい。他にもラヴィアのサポート役として育成してる子が複数……
「私のlvが今カンストの100で……各属性10体仲間にしてるけど。そのうち4体はラヴィアのサポートだね」
「今さらっとカンストって言ったね……」
流石は最強候補プレイヤー……ちなみにカンストして12体まで仲間にできるのに、2枠空けてるのは今のパートナーで充分だかららしい。
「下手に増やしても育成が面倒……そもそも10体でも持て余してるくらい」
「分かる」
数が多いとバランス良く育成させるの難しい。私もそれで苦労してるし……このあと増えるんだけども。
「あと数が多いと食費もかかる。うちは大きいのが多いから特に……このサイズ変換の首輪が無いと食費で破産する」
ちなみにサイズ変換の首輪は1つ10万G……高いからお金稼ぎが安定してからじゃないと、大型のパートナーを抱えてるプレイヤーは食費で破産が有り得るんだとか。
(私は資金に関しては安定してたからね……手に職を付けたから)
調薬の道を選んでなかったらどうなったことやら……そんなことを思いながら私は見た目はマグロっぽい刺身を食べていく。これ味はサーモンだ……味覚がバグったかと思った。
「てかチェリー……ここって知り合いの人のお店なんだよね?見た感じかなりトップクラスのお店だと思うけど……どうやって知り合ったの?」
「ん?あぁ、知り合い……ここのオーナーとはパートナーの集まりで知り合ったんだ〜」
チェリーによると死霊系パートナーのプレイヤーの集まりがあるらしく。そこに参加した時に持ち前のコミュニケーション能力を発揮、色んな死霊系のプレイヤーの人と仲良くなったらしい。
「結構そういう集まり多いんだよね〜。獣系は何処かしらで集まりがあるらしいし。死霊系はパートナーにするプレイヤーが少ないから互助会的な感じの集まりなんだ〜」
「ちなみに私も獣系……特に小動物系の集まりには参加してますね。戦い方だったり教えてもらえるので助かってます」
「私は不参加……そもそも参加しても得するような情報を得にくいからね。どちらかというとこっちが情報出す側になるし」
ふーん……そういう集まりあることを始めて知った。掲示板とか殆ど見ないからね……スライムもあるのかな?
「あっ、ちなみにオーナーはあの人だよ〜」
チェリーはそう言って指差した。指の方を見るとそこには白装束の白髪の人がチビチビとお猪口で何かを飲んでいた。あれ?あの人って……
「決勝でナギと戦った死霊系の人じゃない?」
「うん、そうだよ。カクリヨさん……クラン『百鬼夜行』のリーダー、そしてこの『迷い家』のオーナーをやってるの」
まさかのチェリーの知り合いが大物……知らないところでとんでもない人脈を築いてるよ。
「クラン『百鬼夜行』。和服イメージの攻略ギルドだね……私も時々顔を合わせるよ」
「『百鬼夜行』さんは結構初心者向けの講習とかやってくれるので助かりますよね。メンバーの人も皆優しいですし」
「へー……そうなんだ……」
そのクラン名初めて聞いたなぁ……あれ?もしかしてこの中だと私が1番世間知らずになってる?
「私が言うのもあれだけど……情報集めはそれなりにやっておいた方が良い。アーカイブが作ってる新聞ぐらいは買って読むのをオススメする」
「……はい」
ナギに注意された。普段はこっちがする側なんだけどなぁ……てか新聞あったの?
そんなこんなで私の情報収集能力の愚かさを自覚しつつ、私はチェリーたちと雑談しながら料理を楽しんでいった。
「そういえば……ココロの薬を買いたいんだけど。直接のやり取りってできる?プレマだと争奪戦のせいで安定しないんだよね」
「直接のやり取り?まぁ、できると言えばできるけど……」
作る時、いくらかは自分たちの分のストックとして貯めていってるからね。最初の頃に貯めてた効果がイマイチなやつは安く流し始めてるけど……まだストックは沢山ある。
「何をどれくらい欲しいの?」
「とりあえずHP回復とMP回復を30ずつ。直接のやり取りだからお金は多めに払う。それと定期的に買いたい」
ふむふむ……どっちもストックは100以上あるし問題無いね。どっちも色々種類があるけど……シンプルなやつでいいか。定期購入も数によるけど問題無いし。
私がストレージから丸薬を取り出そうとするとコツコツと足音がこっちに近づいてきた。
「良くないお話が聞こえてきましたね……蛇姫さん?抜け駆けはズルくないかしら?」
「むっ……そっちは自分たちで薬作れるでしょ?カクリヨ。あとその呼び方は嫌いだからやめて欲しい」
近づいてきたのは1人でチビチビお酒を飲んでたカクリヨさん。近くで見ると幽霊感凄いね……表彰式の時はナギを挟んで並んでたからよく見えなかった。
「てか蛇姫って何?」
「ナギちゃんの異名。ヘビがトレードマークみたいだからって付けられたんだって〜。本人は姫呼びが嫌みたいだけどね」
まぁ、姫って柄じゃないしね。御伽話の騎士も助けた姫が無愛想な表情してたら冷めるだろうし。そんなことを思っているとカクリヨさんに話しかけてきた。
「初めまして私はカクリヨ。『百鬼夜行』のリーダー兼このお店のオーナーをやってるわ。噂のスライムマスターに会えて光栄よ」
「初めましてココロと言います。料理美味しいです」
「それは良かったわ。うちの料理人も喜ぶわ」
カクリヨさんはふふふと笑う。なんかこの人……クティアさんに似た気配を感じる。優しそうに見えても強かな人って感じの。
「……で?私とココロに割り込んできて何か用?」
「あなたと同じよ。彼女の薬を買いたいだけ……最初は食事に割り込むのも無粋だからしないつもりだったのだけど。あなたが薬を買う話をしたからね……ライバルに抜け駆けされそうになったら割り込みたくなるわ」
「……百鬼夜行はお抱えの調薬士が居るから必要無いでしょ」
「それでも優秀な性能の薬が欲しくなるのは、あなたも分かっているでしょ?」
ナギとカクリヨさんの間にバチバチ!と弾ける電撃が見えた気がした。ナギがここまで戦意に溢れてるの初めて見たかもしれない……
「それでどうかしら。お金に関しては蛇姫の2倍出すわよ?お金なら沢山あるから」
「蛇姫やめろ。まっしろしろすけ」
「うーん、数によりますかね……」
正直な話、数が多いと生産が間に合わない……大量生産ができるようになっても手が足りないのが現状だからね。ストックを切り崩すと自分たちがピンチの時に困る。
(今の設備をグレードアップできれば多少の個別注文は対応できるけど……)
時間がかかる要因は整形と乾燥。だから自動整形機と自動乾燥機が導入できれば生産効率があがる……どっちも100万Gもするんだよね。
(とは言ってもね……この大きな取引を断るのも勿体無い)
それにプレマの安定性に欠ける収入と違って、こっちは安定した収入が得られる。衛兵詰め所の依頼もあるけど……あれはそう頻繁に来ないからね。
私はどうしようか悩んだ。そして試しにあれらを提供してみるかと思っていくつか薬を取り出す。
「プレマに出してる薬だと難しいですが……この薬なら沢山出せますね」
「この薬……これは何か違うのかしら?」
「……見た感じは普通。効果が問題?」
カクリヨさんとナギは薬の瓶を手に取って観察する。そんな2人に私は説明をする。
出した薬はプレマに出してる薬の1.5倍〜2倍の効果がある。それだけなら優秀な薬なんだけども……代わりに攻撃力や防御力の低下。属性攻撃の被ダメージ増加という強烈なデメリットがある。そのせいでプレマには流せなかったんだよね……
(ただこの2人は攻略組……多少のデメリット付きでも何とかできるはず)
そんな希望的観測を持ちながら取り出した問題作たち。結構としてカクリヨさん……そしてナギが問題作たちを買ってくれた。あとこういう薬がまだあるなら買いたいとも。
「これデメリット強めですけど良いんですか?」
「この程度のデメリットなら問題無いわ。むしろこれだけ効果が高いならね」
「この程度のデメリット……飲み込んで乗り越えるのが攻略組」
どうも攻略組は私みたいな一般プレイヤーとは思考回路が違うようだね。まぁこれで大きい取引先ゲットだね。
なお、この後は特に何もなくお開きに……会計の時のチェリーの顔が面白かった。
「えっなんか思ってた3倍もお会計が高いんだけど……なんで?」
「うちの子たちだね……スライムって満腹って概念が無いから。ご馳走様でした」
「メキュ」
「ノロォ」
次は掲示板かな?
そろそろ新章なのでお楽しみに




