第100話
大変お待たせしました
「第2回イベント以来ですね……ココロさん」
「そうですね。正直、あなたとは戦いたくなかったですよ……デルタさん」
舞台の上、私とデルタさんは久しぶりに相対した。向こうのパートナーはホワイトオウルにバトルチキン……そして黄色のクジャクだった。
(こっちが守りを捨てるの予想されてたか……あのクジャクの情報はあったね)
確かディスチャージ・ピーコックだったかな?放電孔雀……レモンを連れて来れば良かったかな?と思ったけど、多分互いに電気を吸収し合うだけになりそうだね。あまりにも不毛過ぎる。
(とりあえずあのクジャクから倒そう。ニワトリはアセロラならある程度は戦える)
ライムの回復があればある程度はタンクになれるからね。地上組はクジャクから対処させよう。それには空戦……チェリモの働きにかかってる。
「チェリモ。頼むよ」
「ヒュウ!」
チェリモは私の言葉に「任せて!」という風に返事をする。やる気に満ち溢れてるね……これならやってくれるかな。
「それでは試合開始!」
私がチェリモに期待するとのほぼ同時、試合開始の合図が出る。合図と共にチェリモ、そしてホワイトオウルが高度を取った。
「ヒュウ!」
「ホォォ!」
チェリモは霧の混ざった風弾。ホワイトオウルは雪の混ざった風弾を撃ち合う。あのホワイトオウル氷じゃないのも撃てるんだね。
でもって飛行能力の方は向こうが上、チェリモの攻撃は華麗に回避されて当たってない。チェリモの方は纏ってる風が相手の攻撃を弾いてるため張り合えている。あの風無かったらもう撃墜されてたかも……
(もう少し空中戦の経験を積ませとけば良かったかな?)
いや、それでも無理か。なんせ向こうはゲーム開始から鳥系を使ってる人……経験を積んだ時間が違いすぎる。
「コケェェ!」
「クェェェ!」
「メラララ!」
一方、地上の方は近づこうとするバトルチキンとピーコックをアセロラが火炎放射で応戦する。ピーコックは火炎放射で近づけないようだが、バトルチキンは炎を突っ切りアセロラに蹴りをかます。
「メ、ラ……」
「メキュ!」
腹部に強烈な蹴りを受けたアセロラにライムが治療をする。やっぱりあのバトルチキンが厄介過ぎる……そもそもバトルチキンって『・』が無かった時から厄介だったしね。
「クェェェ!」
「アセロラ。左から来てるよ」
「メラ!」
火炎放射が止まった隙を狙って近づこうとしたピーコックにアセロラの火炎放射が放たれる。炎はピーコックを飲み込もうとしたが……バサッと翼を広げたバトルチキンが間に入り、なんと火を吸い込んでいった。
(火を食べてる……)
しかも空間が歪んでるかのように炎が口元に引き込まれている。後ろのピーコックは無傷だね……あのバトルチキン、めちゃくちゃアセロラと相性悪い。
「どうですか?これは《火食い》というスキルで炎を食べて無効化するスキルです……こちらのデータから雷属性と火属性のパートナーがアタッカー。どちらが来るから分からなかったので両方に対応できるようにしてます」
デルタさんは淡々と説明してくれた。《火食い》……《蓄電》と似てる気がするね。
「流石情報系クランのアーカイブ。ちゃんと対策してきてるんですね」
「それは勿論。ですが大変だったんですよ?スライムって情報が少ないですし……同じ属性でも進化先のパターンが膨大。今回は第2回イベントの時の情報を元にって感じです」
あなたが情報を売ってくれれば苦労しなかったんですよ?と、デルタさんはこっちを見ながら呟いた。私はあんまり掲示板見ないし、情報系クランのお世話になること無いからね……知りたいことできたら自分で調べる派なのもある。
「あの風属性の子の情報は外見と飛行能力のみで戦闘能力は情報無し。と言いますか水属性の子が来ると思っていました。うちのミネルが上空から撃って、チャンティとアストで詰める予定だったんですが……」
「うちの隠し玉です。厄介でしょ?」
「えぇ、まさかミネルが足止めされるとは思いませんでした……なので地上から片付けさせてもらいますね」
デルタさんはそう言うとパチン!と指を鳴らす。その音に反応するようにバトルチキンが胸を膨らませると……口から大波のような炎を吐いてきた。
「メララララ!!」
相手の火炎放射に対してアセロラも火炎放射を放つ。炎同士がぶつかり合い横へと広がる。
「クェェェ!」
横から回り込もうとしていたピーコックが炎に巻き込まれかけて逃げ帰る……なんか残念臭がするな。あのピーコック……
「メララララ!」
「コケェェェ!」
火炎放射の競り合いは続き、アセロラとバトルチキンの鳴き声が炎のゴォォォ……!という音に混ざって聞こえてくる。どちらかがスタミナ切れするまで続きそうな勝負……アセロラの方が消耗が見え始め、炎の勢いが弱まりそうになった。その時、上空から風の刃がバトルチキンを襲った。
「コケェ!?」
上空からの攻撃にバトルチキンは炎を吐くのをやめて回避しようとしたが、避け切れずに右の翼に被弾した。
「今の攻撃……チェリモ?」
上を見るとホワイトオウルと戦闘中のチェリモと目が合った。チェリモはウィンクをするとホワイトオウルにビシバシ攻撃を放っていく……ホワイトオウルの方は疲弊が見えていて攻撃の精度も心なしか少し落ちてる。
(スタミナ切れ?あー、そういえば鳥だもんね)
チェリモは纏ってる風で常時飛行してるからあれだけど、鳥系のモンスターは飛行中にスタミナを消費するから休憩が必要。特に回避軌道を取らなくてはいけない空戦なんてスタミナをより消費してしまう。
「ヒュウゥゥゥ!」
「ホ、ホォォォ……!」
飛行にスタミナが要らないチェリモと、スタミナが必要なホワイトオウル。持久戦になればどっちが有利か自明の理だったか……休憩しようと地上に降りればアセロラとチェリモが横から上から攻撃する。炎は防げても風は防げないでしょ?
(タンク役の子が居れば休めたかもしれないけど……今回居ないからね)
安心して休憩しスタミナを回復させることはできない。第1回戦はそもそも地上から
「くっ、飛行能力持ちのスライムはスタミナの消費が無いという情報はありましたが……ここまで厄介とは」
デルタさんの方もデータはあってもここまでとは思っていなかったようで、少し余裕が崩れてきていた。
空戦が余裕になったチェリモはホワイトオウルの相手をしながら地上にちょっかいをかけ始める。
「コケェ!」
「クェェ!」
アセロラだけではなく。上空からの攻撃にも対応しなくてはならなくなった、バトルチキンとピーコックはワタワタし始める。
そうしてチェリモが相手のペースを掻き乱している間、アセロラはスタミナを回復させる。ダメージ?そんなのはライムがあっという間に治しちゃうから無いね。
「メララ!」
アセロラはさっきの仕返しと言わんばかりに火炎放射を放つ。バトルチキンが再び《火食い》で飲み込もうとするが上空からチェリモが風弾を撃ち下ろし妨害。火炎放射はバトルチキンとピーコックを飲み込んでいく。
「クェェェェ!!?」
炎に包まれたピーコックが飛び上がって走り回る。バトルチキンの方は耐性があるからかプスプス……煙を出す程度。しかしチェリモの邪魔でかなりHPが削れてそうだね。
「くっ、ミネル!地上の援護!アストはHPが少ないから特攻してヒーラーを!」
「ホォォォ!」
「クェェェ!」
デルタさんの命令を聞きホワイトオウルが地上に氷弾を、ピーコックは全身からバリバリと電撃を迸らせながらライムに突撃してくる。
「メララ!」
「メキュ!」
空からの氷弾はアセロラの火炎放射が溶かしつくす。そしてピーコックの放電体当たりにはライムが浄化液を大量に浴びせた。
「クェェェ!?」
「なっ!?」
浄化液を浴びたピーコックの纏っていた電撃が弱まる。放電の対策は熟知してるんだよね……放電、もとい電撃は電気を通すものに触れるとそっちに流れて威力が下がる。
(レモンがちょいちょい興奮して電気を漏らすからね……漏電に対処してたら慣れちゃった)
特にライムがその対処をするからね。雷属性の相手だとライムが割と得意だったり、物理戦は弱いけどね。
「メララ!」
「クェェェ……!?」
放電を弱められたピーコックはアセロラの炎弾を撃ち込まれ哀れにも爆散。更に空中戦ではチェリモがホワイトオウルを追い詰めていた。
「ヒュウゥゥゥ!」
「ホ、ホォォォ!」
チェリモがばら撒く風弾をホワイトオウルが不規則な軌道で回避しようとする。しかしスタミナが枯渇しかけている身体では避け切れずに被弾、そこへ追撃の風弾が何発も撃ち込まれて遂に撃墜された。
「ホ、ホォォォ……」
HPがまだ残っているようだが、あの状態ならもう怖くない。残りは手負いのバトルチキンのみ……いや、結構辛いな。バトルチキンって単体でも厄介だし。
(バトルチキンには苦手意識が……)
これってトラウマかな?私が顔に出さないようにしつつ、どうやって倒そうと考えているとデルタさんが溜め息を吐いた。
「アストがやられ、ミネルもほぼ戦闘不能。どうやらスライムについての情報が足りなかった……いえ、スライムのことを少し舐めていたようです。手負いのチャンティでヒーラー付きの3体は不利ですし……降参しましょう」
デルタさんは降参を宣言。この勝負、私の勝ちになった……良かった、バトルチキンと戦わずに済んで。
「勝ったお祝いで1つ情報を。次の相手……ナギさんは第1回イベントでランキング1位取った人です。そしてMEO最強プレイヤーで候補に入るほどの猛者です……頑張ってくださいね」
「勿論です。情報ありがとうございます」
デルタさんに感謝しつつ私は内心でちょっと不安になっていた。MEO最強プレイヤー候補か……私、戦闘ガチ勢じゃないんだけど?
(とりあえず出場メンバー考えよう)
今回、過去一執筆が大変だった……誰だ戦闘系のイベントにしたの!?
ココロ「お前だよ」




