第96話
「これで風属性強化薬は完成……まぁ、もうちょっと弄れそうだけどね」
風属性のモンスター素材がイマイチ集まってない。強化できる素材が手に入ったら地道に強化していこう。
他の強化薬も基本素材とライムの治療液以外は逐一良いものが手に入ったら変えてるし。おかげでレシピがごちゃごちゃしてるんだけども……今度整理しとこ。
「あとは光属性のみか……」
私は風属性強化薬をストレージに入れ部屋を出た。そして2階のある部屋に入る……部屋の中には大きな水槽が入っていた。水槽の中には石や砂利が入っていて設備で川のように流れができている。中には魚は居ない代わりにシラウズガイやヒカリガイが入っている。
(んー……これが上手くいくといいんだけどね。養殖)
この部屋は貝の養殖部屋。シラウズガイとヒカリガイの小さいのをちゃんと使えるサイズに育てたり、稚貝ができたらそれで素材が賄えるように用意した。
意外と安く組めたんだよね。水槽も普通のやつで、他の設備も魔導バッテリーがそこそこの値段したくらい。
「餌に関しては植物性ならなんでも良いし。色々試せるよね」
魚と違って貝は大人しいしね。モンスターでも無いし……そのうち餌とかの実験もしてみたいところだけど。そこまでやったらタスクに潰されそう。それに……
「これはスチンの仕事だしね」
貝の世話はスチンに任せることになった。というか任せられるのがスチンだった。レモンは電気を漏らしたら貝が全滅するし、アセロラとレンシアは水が苦手。プルーンは水を凍らせる可能性が高く、チェリモは世話を忘れそう。ライムとルベリー、メロンは仕事があるから残ったスチンに仕事が回った。
(スチンには畑の水やりと貝の餌やりを任せる感じに……あとはレモンの付き添い)
部屋に置いてあるバッテリーに充電するのはレモンだからね。うっかり過充電して壊されると嫌だからスチンには見張ってて貰おう。
「とりあえずこれは実験段階……今後の進展で水槽を増やしたりしていきたいね」
ちゃんと養殖できるのかがそもそも分からないからね……ダメだったらインテリアとして使おう。応接室にでも置いとけば映えるでしょ。
「見た感じ上手くいってるし気長に待とう……さーて、このあとどうしようかな?」
今日は日曜。来週の土日はイベントがあって大盛り上がりするだろうから、がっつり探索するなら今日くらい。でも特に行きたいところが無いんだよね……素材はまだあるし。
「あっ、そうだ……あれの実験してみようか」
手に入れるのが面倒で使ってこなかったあれをね。私は調薬室に戻りストレージからあれ…………蠱毒の体液を取り出した。
(色彩の迷宮のボスから手に入る素材……量はそれなりにあるけど貴重なのは変わらない)
虫系の素材しか強化できないけど、状態異常対策系の薬では殆ど使ってる……そしてこれを使って作るのは万能薬。複数の状態異常を治すことができる薬。
「作り方は調べてある……めちゃくちゃ面倒だけど」
複数の状態異常を発生させる素材と上質な水、浄化系の素材を合わせることで作れる。一見、簡単そうに見えるけど……状態異常の素材の比率が上手く釣り合ってないとダメで、更には浄化系素材との強さのバランスが釣り合ってないと失敗する。
「良いものを作ろうとすると浄化系素材は浄化氷晶になる……」
水はハードアイスブロック・ゴーレムの氷塊を溶かしたもの。これにライムの浄化液と亜竜の血を分離した液体を1:1:1で混ぜたものを使う。
状態異常系の素材は色彩の迷宮を始めとした強いモンスターたちの素材……うん、肝心の状態異常系素材が他の素材に比べて格が無い。
「とはいえ状態異常持ちの素材なんてそれくらいだしね」
だからこそ蠱毒の体液の出番。これで足りない格を補う……それじゃあ頑張って作っていこう。
「まずは状態異常系の素材からだね」
私は容器にデッドベノム・スパイダー、スタンラバー・センチピート、ペトリファイ・シカルゴラーヴァ、ハイカース・バタフライ、アルーリング・マンティス、バンデッド・サンドスコーピオンの素材を量って入れていく。
この時デッドベノム・スパイダーの素材は少なめに、バンデッド・サンドスコーピオンの素材にも猛毒が含まれてるからね。しっかり調整する。
「ここに蠱毒の体液を入れるんだけど……どれだけ入れよう?」
入れ過ぎると浄化系素材が負けちゃうからね。とりあえず丸薬1個分に一滴垂らして少しずつ調整しよ。私は混ぜた毒液から丸薬1個分取り分けて蠱毒の体液を混ぜる。
そしたらここに氷塊を溶かした水と治療液、血漿液を混ぜた液体を同量。加熱し沸騰寸前で火を止めて粉砕した浄化氷晶を入れて混ぜる。
(この段階で色が白になれば成功だけど……今回は失敗だね)
私はくすんだ半透明の薬を見る。この失敗は状態異常の素材が負けた時のもの……次は蠱毒の体液を2滴だね。私はひたすらチマチマと調整を重ねていった。
「丸薬1個に6滴が限界か。浄化氷晶がまだ多いようだからそこを調整しよう」
ドス黒くなった7滴加えた丸薬をゴミ箱に放り込んで処理する。これ状態異常の素材が上回った場合、ランダムに状態異常を発生させる危険物に変わるからキッチリ処理しとく。
私は浄化氷晶の粉を少しずつ調整していった。こっちは割とすぐに調整し終えた……あとはこれを大量生産用に計算し直すだけ。
「……うん、これ蠱毒の体液全然足りない。売る時の値段は割高なの決定だね」
レンシアとチェリモがどれだけ強くなったか、実験がてら久しぶりに倒しに行こうかな?てかこれ亜竜の血も結構使うな……アースラプトル狩りするか。あいつくらいしか安定して倒せないし。
「とりあえず作れるだけ作ってしまおう」
私は計算した通りに材料を入れて万能薬を作成した。そしてこれが完成品。
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万能薬丸薬
猛毒(毒)、硬直(麻痺)、石化、呪い
誘惑(魅了)、飢餓を治す
服用後3分間。上記の状態異常へ耐性を得る
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欲を言えば睡眠や昏睡も入れたかった。でも睡眠系の虫系素材ってミストビー……胞子の山林のモンスターくらいなんだよね。
「なんだろう。モンスターの数に対してフィールドやダンジョンが少な過ぎる」
スライムだけで100種は超えてる。全てが野生で出てくるとしたらフィールドとダンジョンの数なんて3桁は下らないよね……どうするつもりだろう?
(その辺ちゃんと考えてるのかな……)
まぁ、私はそんなことよりも聖女の試練をどうにかしないとなんだけど。そろそろ挑戦する準備しないと……
「とりあえずライムが進化したら光属性の試練だね……どんな試練なんだろう?」
戦闘系じゃないことを祈ろ。私はそんなことを思いつつ万能薬をコロコロと丸薬にしていく。いくらで売ろうかな?




