第94話
首を痛めて1日ズレました
大きく高い滝がドドドド……と音を立てて流れている。現実だったら観光地として有名になりそうな光景……だけどここはモンスターのいるゲームの世界。
「「「「「ガァァァァ!」」」」」
風情に浸らせてくれる筈もなく、滝壺から大きなワニが飛び出して噛みつこうとしてくる。しかもワニの数は1匹ではなく5匹……それがまるで押し寄せ並みのように向かってくる様子はさながらB級映画だね。
「だけど……そんな固まってたら格好の的だよ?」
「ビリリ!」
ワニたちに向けてレモンが横薙ぎに電撃の鞭を振るう。ワニたちは揃いも揃って感電し、無様に地面へと転がる。
「ヒュウ!」
麻痺って動けないワニたちにチェリモの無慈悲な追撃……動けず的にしかならざるを得ないワニたちは何もできずに光へと変わって消えていった。
「登場は格好良かったのに……天敵の前にはなす術もなかったね」
水場の敵に電撃は最強。感電対策してから出直してきな……嘘です。対策されるとレモンが無力なので勘弁してください。
ちなみにワニの名前はホワイトウェイブ・アリゲーター。群れで襲ってくるモンスター……素材は皮と牙で薬にはならない。だけど皮はかなり高く売れる……ワニの皮ってリアルでも高級品だしね。それにこいつらのは白と青のグラデーション……お金持ちは好きそうだね。
「でもなぁ……私としては薬になるものが欲しいんだよね」
お金は確かに欲しい。でもただ素材を売って稼ぐのって調薬士としてどうなんだ?ってなるよね……でもなぁ
「ここ薬になるものがあんまり無い……自生も含めて」
滝を離れ上へ上へと移動しながら、私はそう口から溢した。山だから自生してると思うかもしれないけど……ここ水分が多すぎるんだよね。
地面は石とか砂利の場所以外は泥。更にはほぼ地表が苔で覆われていて薬草類が生える場所が無い。苔も薬にならないただの苔。苔が積もって土になったところには特薬草に霊力草が生えてたけど、それも霞森に比べたら全然少ない。
(ここは薬草類に期待できなさそうだね……)
水魔樹と苔以外の植物に優しくない……代わりにキノコは凄いんだけどね。全部食用で薬用なの今のところ見つかってないけども。
水湧きの霊山……食用になるモンスター多いし、料理素材が豊富はフィールドとして作られてそうだね。
(ここ釣りの名所らしいし……)
水中から襲ってくるモンスターに対処できる力があることが前提だけど。魚じゃなくてモンスターが釣れることもあるらしいし……こんな風にね。
「「「ピラァァァ!!」」」
近くの川から特徴的な鳴き声を出して飛び出してくるのは白と青が混ざったカラーのピラニア。レギオン・ピラニアってモンスターたち。
こいつらは戦闘の匂いを嗅ぎつけて襲ってくる面倒な魚……陸上でもかなり動き回れるから、普通に飛び出して襲ってくるんだよね。
「まぁ、範囲制圧できると雑魚なんだけど……」
「ビリリ!」
レモンが範囲広めの放電を放つ。レギオン・ピラニアたちは痺れ、ピクピクと痙攣しながら地面に転がった。こうなったら捌かれるのを待つだけの魚だね。
「素材が鱗と魚肉だから間違いでは無い」
サクッとシメて素材に変えながら小さく呟く。鱗の方はグラデーションが綺麗でキラキラしてるから装飾品に使われるんだったかな?
「ホワイトウェイブ・アリゲーターの皮のことも考えると……そっち系の素材も手に入りやすい感じかな」
「メキュ?」
装飾品方面は興味薄いしね。香水作りしたりはしたけども……注文入りっぱなしだから、最近は気分転換で作って売ったりはしてる。ごく少量をね。
(香水で稼ぐつもり無いからね……)
てか誰か他に作ってくれ……そうすれば私に注文する人減るだろうし。
(作り方……匿名で流すか)
こんなアドバンテージ必要無い……他のプレイヤーに押し付けるとしよう。イベントが終わってからの方が良いかな?今、忙しい時期だし。
「掲示板に書き込むの初めてだなぁ……見ることもそんなに無いし」
今は攻略を優先……それにしても本当にここは川が多いね。浅いところは橋が無いから入る必要あるし……川の底が砂利で本当に良かった。泥だったらハマって大変なことになってたかも……
「そういえば……川の中はあんまり見てないな」
川の近くにいると襲われるからね……浅い川ならレギオン・ピラニアも泳げないし、その他のモンスターたちも接近に気づきやすい。次、浅い川が出てきたら何か無いか探してみよう。
ゴゴゴゴゴ……
「あっ、嫌な音と振動が……」
何処からか聞こえる音、それと同時に小さな振動を感じた。これは……こっちに来てないな。
「ぎゃぁぁぁぁぁ……!」
「わぁぁぁぁぁぁ……!」
振動が大きくなると同時にプレイヤーの悲鳴が聞こえ、次第に遠くなっていった。
今の音と振動は天然ダムが決壊した音……大量の水と土砂、倒木が入り混じった濁流が下へと下っていった音だね。
(いつ来るか分からないから怖いんだよね……)
強いていうなら流れが緩やか川は上流に天然ダムができてることが多い。でもダムが無くても緩やかな川もあるから……割と運次第。
「っと、浅い川に出たね……何かないかな?」
ぬかるみの道を進み私は浅い川に出た。流れも緩やかで深さは15cmくらい……私は川の中に入りガサガサと漁ってみる。すると5cmくらいの巻き貝を見つけた。石や砂利の隙間に隠れてたから水面からじゃ気づけなかったね。
「これは薬になるかな?」
ーーーーーー
シラウズガイ
綺麗な川に生息している白い巻き貝
激流の川でも生存できるほどの生命力がある
身は淡白な味わいで、貝殻は焼いて砕き粉末にすることで水中呼吸薬の素材の1つになる
激流に棲む個体ほど大きくなる
ーーーーーー
やった!薬の素材ゲット!水中呼吸薬は初めて聞く薬だけど……南のフィールドでは重宝されるはず。
「なんなら……サウスレイクのダンジョンで使われるはず」
あそこは水没している場所もあるからね。これだけでは作れないようだから、他の素材も手に入れないと。
「おっ、今度は二枚貝だ……」
白渦貝の次に見つけたのは横幅が10cmある二枚貝。こっちも白くてガサガサと漁らないと見つからなかった。こっちはどんな貝かな?
ーーーーーー
ヒカリガイ
綺麗な川に生息している白い二枚貝
日光でエネルギーを得る特性があり、貝の内側は金色で縁起が良いとされている
身は濃厚で食用目的で採取されるが、体内に真珠を作る生態があるため
真珠目的で採取されることもある
激流に棲む個体ほど良い真珠を作る
ーーーーーー
真珠……これには入ってるのかな?試しに採取用のナイフで割ってみると、小粒な真珠が入ってた。真珠は金色をしていて見た目に比べて重さがあった。本物の金みたいだね……真珠も何か素材になるかな?
ーーーーーー
光真珠(未熟)
ヒカリガイが作る特殊な真珠
日光のエネルギーが蓄えられており、重ければ重いほど内包するエネルギーが多い
装飾品として使われることが多いが、砕いて粉末すれば薬にもなる
光属性のモンスターが好む
※この真珠は未熟なため価値は低く、効果も薄い
ーーーーーー
これ光属性強化薬の素材じゃない?まさか手に入るとは思わなかった……
「未熟だからこれは使い物にならないだろうけどね……激流か」
流れの早い川なら質の良い真珠が手に入る……久しぶりスチンに一肌脱いでもらうか。
「とりあえず実験用に採れるだけ採って……むっ?」
私が採取を続けようとした時、何か気配を感じた。この気配……何か強いモンスターが来るかも。
「キロロロロロロ……」
川から上がり戦闘体勢を取ると気配の主が現れた。そいつの見た目は恐竜……アンキロサウルスってやつに近かった。
背中には苔、更には小さな水魔樹が生えていて。尻尾の先には石や木の枝が混ざって固まったような塊がハンマーのように付いている。
「亜竜……ここにも生息していたんだね」
アースラプトルと同じ竜モドキ……思ってたより強いやつが出てきたね。とりあえずアンキロとでも呼ぶか。
「キロロロロロ!」
アンキロは尻尾をダン!ダン!と地面に叩きつけて威嚇してくる。そして尻尾を横にグッと曲げると身体を一回転させた。
ズガガガ!!
尻尾が地面を抉り、石や砂利が混ざった土がこっちに飛んでくる。スチンが水の膜を張って防御するが勢いが強い石や砂利が貫通してスチンがダメージを負う。
「ドロォ……」
スチンがダメージに眉を顰める。しかしすぐに負ったダメージは回復して無くなる。スチンは《再生強化》持ってるからね。致命傷で無ければそう簡単に死ぬことは無い。おまけにライムの治療が合わされば90%以上身体を吹き飛ばされるか、即死以外では死なないはず。
「ビリリ!」
「ヒュウ!」
スチンが攻撃を受け切った後、レモンとチェリモが攻撃をアンキロに放った。
「キロロロロ……」
攻撃を受けたアンキロは煩わしいと感じているような鳴き声を出した。効きがイマイチ悪い……まぁ、見た目的に防御力高そうだし。
「ノロォ!」
アンキロがこっちに近づこうと1歩踏み出したところでルベリーが呪いの鎖で動きを縛った。アンキロの身体に黒い鎖が幾重にも巻き付いて動きを止める……が。
「キロロロロ!」
アンキロが動こうとして呪いの鎖からギギギ!と音が鳴り始める。こいつ鎖を力任せに引き千切ろうとしてる。
(鎖を引き千切ろうとするモンスターとか初めてだね……)
動きが遅い代わりに防御力とパワーがあるって感じ……戦いを長引かせると他のモンスターに乱入されかねない。さっさとケリをつけよう。私はレモンに雷属性強化薬を与えた。
「ビリリリリ!」
「ヒュウゥゥ!」
鎖を引き千切られる前に総攻撃で倒そうとした。電撃の鞭と霧風の弾が何発もアンキロに打ち込まれる……しかしアンキロは持ち前の防御力で受け切っていき。
バキン!!
鎖を引き千切って自由になった。くっ、倒し切れなかった……やっぱり風属性の強化薬が無いと厳しいか。
「キロロロロロロ!」
自由になったアンキロは喜び、もしくは怒りの咆哮を放った。アンキロはドゴン!と尻尾を地面に深く叩きつけ、勢いよく上に跳ね上げた。巻き上げられた石や枝の混ざった土砂が雨のように降り注ぐ。
「ドロォ……!」
ライムの治療を受けていたスチンが傘のように水の膜を作り防御した。土砂の雨は水膜の傘に弾かれるが大きな石や太い枝が貫通してくる。水膜のおかげで勢いが削がれているけど普通に痛い……
(防御力を上げる薬飲んでおいて良かった……)
土砂の雨をなんとかやり過ごしながらそう思った。にしてもこのアンキロ……範囲攻撃ばっかりしてくる。普通に痛いからやめて欲しい。
「スチン連れてきてて良かった」
プルーンだと自分は守れても味方が守れないからね……無傷で受け切るって点はプルーンの方が良いんだけど。
「キロロロロロ!」
「って、そんなこと考えてる場合じゃなかった……早く倒さないとジリ貧になる」
こいつ相手に薬使い過ぎたらこの後の攻略に支障が出かねない。私は最小限の消費でアンキロを倒そうと奔走した。範囲攻撃を何度も放ってくるアンキロを地道に削っていき……なんとか勝った頃にはこっちは全員軽傷と言えないダメージを負い、周辺は地面がボコボコになっていた。
「……アースラプトルより強かった」
まぁ、あいつと違ってこいつは逃げることができそうだからね。うちはチェリモ以外移動速度遅いから逃げられるか分からないけど。
(あいつとはしばらく戦いたくない……)
「メキュ……メキュ……」
ライムにせっせと治療されながらアンキロに悪態を吐いた。これはアンキロ……正式名称、プラントアーマー・アンキロスに対して対策を用意しないとだね。




