第93話
平日があっという間に過ぎ去り、土曜日も既に過ぎた。闘技大会予選が終わり、何処か騒がしさのあった王都も落ち着いたような気がする。
「ランキング1位はキープできた……無事、本戦進出だね」
まぁ、そんなに苦戦とかもしなかったけど……全然戦わなかったし。平日は実験で時間を潰して、昨日の土曜は実験で消費した素材の補充していたし。レンシアとチェリモの戦闘経験を積ませられて良い機会だった。
「自由型は最後まで激戦だったらしいね……特に20 位ら辺が」
本戦進出のボーダーライン。制限時間まで地獄のように戦闘が続いたらしい……種族型の方も使う人の多い獣系やゴブリンは熾烈な争いが繰り広げられていたんだとか。スライムは平和過ぎてのんびりしてたけど。
「本戦まで1週間。自由形は2日目の午後からだから1週間暇だね……」
今からlv上げてライムやレモンを進化させるっていうのもあるけど……lv60までが本当に遠すぎてやり切れる自信が無い。ライムなんて50になってからかなり戦ってるのに今54だからね。
「第4進化は一種の壁みたいな感じな気がする……」
パートナーが強くなるための。とまぁ、そういうわけでライムの進化を目指すとなるとかなり苦行……残りの1週間を戦闘に注ぎ込めばギリギリ行けそうではあるけども。それよりも私のlv80を目指した方が良いかもしれない。金属属性の子を迎え入れるなら早い方が良いからね。
「今75か……残り1週間で行けるね」
プレイヤーのlvは簡単に上がるからね。この成長率をライムたちに分けられるなら良いのに……
「lv上げるとして何処に行こう?」
現状、1番攻略が進んでるのは大砂丘。その次に霞森と大氷原。1番進んでない……というか一度も行ったことがないのが南のフィールド。
「南に行ってみようかな……どんな場所かは見ておきたいし」
安全地帯が見つけやすいと良いんだけどね……私は南に向かうに当たって編成を考えていく。今回はライム、レモン、スチン、ルベリー、チェリモで行こう。
(メロン最近連れて行ってないなぁ……)
lv上げしなきゃなんだけども……あの子、品種改良で忙しいからね。大量の失敗品と一握りの成功品……うちのメンバーでも1番働いてるんじゃないかな?それ以外の時間は寝てるけどね……
「あの子のlv上げ自体は楽だし……品種改良が一段落したらやろう」
さーて、編成が決まったし行くとしますか。いざ、南のフィールドへ。
◇
東の森、西の砂漠、北の氷原……そして南の山脈。南の攻略フィールドは山、高さはそこまでないけれど横に長い山脈。山には多くの川や滝があり湿気の暴力のようなフィールド。名称は水湧きの霊山脈。
「蠱惑の湿地帯。サウスレイクの湖の水源……」
この山の特徴としては山に生えている水魔樹という木にある。水魔樹は周囲の魔力を吸収して水を生み出す……そんな水魔樹が沢山生えているため水がほぼ無限に湧き出している。むしろ湧き出す量が多過ぎて山脈の60 %は川と滝、地味に面倒な地形となっている。
(水量で薙ぎ倒された木が天然のダムか……決壊して鉄砲水が発生することもある)
他の3箇所に比べると環境からの直接的な殺意がちょっと高めな気がする。というか乾風の山道と似た匂いが……激流の川に落ちたら下まで流されるらしいし。
「ぎゃぁぁぁ!!がぼぼぼぼ……!」
目の前で激流に飲み込まれた哀れなプレイヤーの光景を丁度見ることができた……うん、地獄。強いて温情を上げるなら陸路を歩いてれば安全地帯に辿り着けることかな?
「それじゃあ……登山頑張りますか」
「メキュ」
私は目の前の悲劇を頭の中から削除して登山をスタートした。分かっていたけど湿気凄いね……あと地面のぬかるみが酷い。
(足を取られて川にドボンは笑えないね……)
ライムたちは身体の構造上、私みたいに足は取られないかな……チェリモに至っては飛んでるし。入り口だから無いだろうけど、天然ダムの決壊に気をつけて行こう。
「ニョロロロ!」
足元に気をつけながら進んでいると近くのぬかるみから這い出るようにイモリみたいな見た目のモンスターが出てくる。イモリのみたいって思ったのは尻尾だね……トカゲと違ってシュってしてない。
「ニョロロロ!」
イモリはベチャ!ベチャ!と足音を鳴らして近づいてくる。機動力は低めっぽいね……まぁ、こんな環境で機動力に長けたやつ出てきたらキツ過ぎる。
「まずは小手調べ……レモン」
「ビリリ!」
レモンがイモリに向けて電撃の鞭を放つ。イモリは回避できず受けるが……いまいち効いている様子を見せなかった。
(纏ってる泥のせいかな?ああいうのを纏ってる相手は厄介)
なら洗い流してしまおうか。泥は水で流すに限る……というわけでスチン、お願い。
「ドロォ……」
私の指示を聞いてスチンがイモリに向けて放水を始める。水は泥を流してイモリの黒い皮膚を見えるようにする。
「ニョロロロ……」
イモリは泥を流されるのに嫌そうな反応を出す。そして尻尾を振ると泥の塊をこっちに向けて飛ばしてくる。それに対しスチンはすぐに放水をやめて水の膜を張って防御した。
「最近はプルーンの氷の盾ばっかり見てたけど……スチンの水の膜も中々強いよね」
範囲が広いから遠距離攻撃には強いからね。それはさておき、あそこまで泥が落ちたなら雷効くでしょ。ついでにチェリモもおまけに付けてあげる。
「ビリリ!」
「ヒュウ!」
イモリに電撃の鞭と霧風の刃が放たれる。泥の守りが無くなってもイモリはしばらく耐えていたが、連続で叩き込まれていく攻撃に耐え切れることはできなかった?
「ニョ、ニョロロロ……」
「本体よりも泥が厄介な相手だったね」
えーと、あのイモリの名前はマッドアーマー・ニュート。特に面白い素材は残念ながら無かった。
「次はどんなモンスターが出てくるかな……」
私は更に上へと進む。進んでいると大きな川が道を遮る。幸い、近くに渡るための橋があるから川に入る必要は無い。橋も丸太1本だけの丸太橋じゃなくて、しっかり作られたものだった。まぁ、丸太橋とかすぐに壊されて終わりだろうからね……
ザバァ!!
「ギチチチチチ!」
橋へ行こうとすると川から水飛沫を上げて何か行く手を遮ってきた。今度のモンスターはカニ。サワガニみたいな見た目でハサミは岩のようにゴツい?足もかなりゴツくて動きは遅そう……
「見るからに固そうな敵だね……でも濡れてるから雷は通りそう」
流石に今回は大丈夫でしょ。私はそう思ってレモンに指示を出す。レモンは指示通りにカニに向けて攻撃をする……それに対しカニは。
ブシュゥゥ!!
足の先から水を噴き出して横に移動して回避した。なんかロボットみたいな方法で攻撃避けてるんですけど!?
「キチチチチチ!」
更にロボットは右腕のハサミをこっちに向け……なんとハサミを射出してきた。まさかのロケットパンチ!!?
「ヒュウ!」
放たれたロケットパンチに向けチェリモが霧風の弾をいくつも撃ち込む。ロケットパンチは軌道がズレて誰にも当たらなかった。
「ギチチチチチ……」
「ビリリリ!」
ロケットパンチが当たらなくて若干テンションの下がった様子を見せるカニにレモンがビュンビュン!と電撃の鞭を振っていった。
カニは攻撃をさっきのように回避しようとするが、片腕が無くなってバランスが悪くなったのか避けきれずに当たった。雷に特に耐性は無かったため麻痺になって、レモンとチェリモに袋叩きにあった。今回はチェリモの方があんまり効いてなかった……ゴツい甲殻が硬すぎて風の弾や刃が通りにくいようだった。
「ギチチチ……」
意表を突いてきたカニも無事に討伐成功。もう片方のハサミをいつ発射されるか分からなくて怖かったね……
「名前はバトルキャノン・ロッククラブ……これも素材は特に面白いものは無しと」
あー、でも蟹肉が食材として美味しそう。これは私用で取っておこうかな。蟹しゃぶくらいなら私でも作れそうだし……最悪生で行けるでしょ。
「そろそろ薬で使える素材が欲しいなぁ……」
とりあえずモンスターに襲われる前に橋を渡ってしまおう。私は転ばないように気をつけながら橋へと急いだ。ちなみにチェリモが煽るように前を飛んでいたからちょっとイラッとした……この子は後で頬を伸ばしておこう。




