第88話
天を覆う灰色の雲からは絶え間なく粉塵のような雪が降り風に乗って。地面からは大小様々な鋭い氷の棘が生え、草木が1本も見当たらない。冷たく冷酷な雰囲気を漂わせる世界……それがここ凍尽の大氷原。
「顔に雪が当たって痛い……」
氷みたいにガチガチになってるのか、雪に当たったところがチクチクする。白衣着てるおかげで露出をできるだけ減らせてて良かった。白衣なかったらあちこち痛かったかも……
(ここも大砂丘と同じで寒さが少し貫通してくるね……)
でもアセロラの熱で寒さに苦しまなくて済む。それより問題なのは……
「ヒュ、ヒュン……」
チェリモの飛行能力が死んでることだね。中々に強い風が吹いているせいでバランスが上手く取れないようなんだよね……《飛行》スキルだけだと補正が足りない?
(進化先で《飛行》が強化されると良いなぁ……攻撃面は良い感じに増えたし)
そんなこんなで攻略開始。ここは地面が凍ってて転ばないように注意しよう……私以外転ぶ心配無いけども。全員『ペター。スルスル』って感じで移動できるし。
「ヒュオオオオ」
吹雪の中、慎重に進んでいると宙に浮かぶ渦巻く雪のモンスターが現れた。見た目的に物質系かな?死霊系には見えないし……とりあえずスノーモンスターとでも呼んでおこうか。
「ヒュオオオオ!」
スノーモンスターは自分の周りに氷の塊を作るとこっちへ飛ばしてくる。プルーンが盾を構えて氷の塊を受けるとゴン!ゴン!と鈍い音が鳴る。
「アセロラ。火炎放射」
「メラララ!」
私の指示を聞きアセロラが火炎放射をスノーモンスターへと解き放つ。スノーモンスターは火炎放射から逃げようとするが……進路を塞ぐようにチェリモが風の弾を放ったため、スノーモンスターは逃げ切れず炎に包まれていった。
「おっと一撃……断末魔も無しか」
火がばっちり効いちゃったみたいだね。素材確認して名前確認してみるか……
「素材は1つだけか……って、名前が付いてない」
素材名は精霊核・氷……氷属性の精霊系モンスターの核って説明があった。
「あのスノーモンスター……精霊系モンスターだったのか」
精霊系。モンスターの種族の1つで属性に特化した種族。スライムと育成が似ていて、スライム系はスライムから育成するけど、精霊系はイノセントスピリットから育成していく。そして進化先はイノセントスピリットに与えた餌の属性で変化する。
属性特化故に自分と同属性の属性を吸収して無効化、また不定形なモンスターだから物理攻撃無効。倒すには有効な属性で攻撃する必要があるので割と面倒……あと育成に関しては中々に面倒らしくて、感情が凄い希薄だからコミュニケーションが難しいんだとか。
「精霊核って何に使えるんだろう……あとで調べよう」
流石に今まで触ったことのないタイプの素材を薬に使えない……変な反応を起こして爆発したら嫌だし。とりあえず集められるだけ集めておこう。
ザクザクザクザク
降り積もった雪を踏んで霜柱を踏んだような音が鳴る……ここの雪で雪合戦したら死人が出そうだね。
「「「ゴオォォォ!」」」
物騒なことを思っていると積雪の下から氷塊でできたゴーレムが3体現れた。その内の1体が近くの氷塊を掴んでへし折り、思いっきりこっちに向けて投げつけてきた。
(あれはプルーンで受けれないね……大き過ぎるし重過ぎる)
とはいえ回避するのは難しい……私はアセロラに指示を出して氷塊に火炎放射を放たせた。炎に晒された氷塊はジワジワと溶け、プルーンがギリギリ受け切れる程度まで小さくできた。
「ヒヤァ……」
「「ゴオォォォ!」」
氷塊をなんとか受け止め疲弊したプルーンに向けて2体のゴーレムが腕を振り上げながら突撃していく。
「ビリリ!」
「メララ!」
「ヒュウ!」
プルーンに向かって行く片方にレモンとチェリモの攻撃が、もう片方にはアセロラの炎弾が放たれる。レモンとチェリモの攻撃を受けた奴は軽く怯んで動きを止め、アセロラの攻撃を受けた方は身体に穴を作って倒れたが光にはならなかった。
(やっぱり火属性なら有利に戦える……レモンとチェリモは微妙か)
全身が氷のゴーレムには感電の概念が無さそう。風属性は氷属性に不利だから、そこも仕方ない……
「これ3体相手にするのキツいな……1体1体のスペックが高いし」
なのでここは数を減らすことを先決。私はアセロラに火属性強化丸薬を投与……穴のできたゴーレムに追撃させる。
「ゴ、ゴオォォォ……」
強化された火炎放射に飲み込まれゴーレムは溶けていく。全体の6割を溶かしたところで光に変わったから……そこまで溶かすか破壊すれば良さそう。
「「ゴオォォォ!」」
仲間がやられたゴーレムは仇を取るかのように向かってくる。ゴーレムにも怒りってあるんだなぁ……そんなことを思っている間にアセロラが向かってくるゴーレムに向けて火炎放射を放つ。炎はゴーレムたちの足に向かって広がり、ジワジワと足を溶かしていった。
バキン!ゴキン!
「「ゴオォ!?」」
溶けたことで上半身の重さを支えてられなくなった足がへし折れる音が鳴り、ゴーレムたちは振り上げた腕を私たちに振り下ろすこともできないまま倒れた。その後、ゴーレムたちはアセロラの炎弾で頭部を消し飛ばされ、順番にトドメを刺されていった。
「ふぅ……中々に厄介な相手だった」
物質系はね……岩とかの物質のみで身体が構成されてるから痛みを感じない。あと火や雷といった攻撃は、今回みたいに属性有利じゃないとダメージが入りにくい。今回は氷だったけど、これが岩のゴーレムとかだったら軽く詰んでたからね。
「物質系は闘技大会でも鬼門になりそう……」
土属性と金属属性が多そうだし。そこの対策を考えとかないとだね。あとはステータスが高めのドラゴンとかもか……スライムは物理有利な相手と高ステータスの相手が苦手。逆に状態異常……毒物や有害物質由来のものには強いからね。
「と、素材の確認しないと……」
今回は相手の名前も分かった。ゴーレムの名前はハードアイスブロック・ゴーレム。素材はハードアイスブロック・ゴーレムの氷塊……長い年限をかけて生成された氷塊で、ゴーレムになったことで豊富な魔力を含んでいる。溶かした水は純度が高くて色々な用途に使用できる。
「これ浄水の上位素材では?」
しかも1個の氷塊からいくつも作れる。溶かすだけだから浄水よりも手間がかからないし……これは良いものを手に入れたね。
「ゴーレムは見つけたら積極的に狩っていこう」
薬に使えそうなものが見つかってホクホクした私は機嫌良く探索を続行した。ゴーレムが複数出てこないことを心の中で祈りつつ……せめて2体でお願いします。
◇
「「「ガゴゴゴゴ!」」」
凍尽の大氷原。ここはどうやら物質系が多いフィールドのようだった。現在襲いかかってきているのはアイスブレイク・スノウビースト。雪でできた身体に氷の牙と爪、角が生えた獣のようなモンスター。雪を泳ぐように移動して3〜5体の群れで襲ってくる。
(移動速度が速い上にこの辺ちょっと積雪が深いから逃げれないね。ただ、まぁ……)
「メラララ!」
アセロラの火炎放射で解決なんだよね。雪は氷塊に比べて溶けやすい……火炎放射に飲み込まれたスノウビーストたちはジュワ!と溶けて消えてしまう。楽に倒せて経験値稼ぎにいいね……素材は渋いけど。
「手に入るのが雪だからね」
スノービーストの素材は身体を構成している雪。正式名称はスノービーストの魔雪で、魔力を含んでいて氷属性のモンスターが好んで食べる。氷属性のパートナー用高級ご飯。
「他のフィールドにもこういうのあるのかな?」
あるなら集めたいところ。うちの子たちには良いもの食べさせたいからね。ごった煮になる可能性はあるけども……料理の指導は頑張ってはいるんだけどね。
「てかこのフィールド……他のところと比べると地形の幅が広いな」
ここみたいに積雪が深いところもあるし、鋭い氷塊が沢山生えている場所もある……大砂丘とか霞森は景色があんまり変わらなかったんだけどね。景色で飽きが来なさそうなのは良いところだなぁ……吹雪で視界悪いし積雪で足を取られるけども。
「おっ、なんか煙が見えるね……安全地帯かな?」
吹雪の中で見えた煙に向けて進むと柵に囲まれたかまくらを見つけた。ポータルの隣には暖を取るためなのか、大きなキャンプファイアーが炊かれている。
「温かいけど……このキャンプファイアーの薪どうしてるんだろう?」
薪置き場どころか人居ないし……うーん、ファンタジー。
「とりあえず帰る場所は見つけたから……ここの周辺で経験値稼ごう」
スノービーストとか経験値稼ぎに丁度良い。ついでにゴーレムも狩って素材集めよ。
「チェリモの進化と上級回復薬開発のためにも頑張ろう」




