第87話
しばらく経って10月4日になった。今日から第3陣も参入、そして闘技大会の予選が始まった。
「なんか……知らないうちにルールに改定が入ってたね」
改定といっても大きなものじゃない。ちょっと補足的な感じで、一度選択した部門を変更できないというもの。自由型でダメだったから種族型に、獣系でダメだったから他の種族の方で出るみたいなことができないようになった。
「一度出るものを決めたら変えるなってところかな……」
まぁ、スライムしか居ない私には関係無いけども。あと第3陣の参入祝いで第3陣はしばらく取得経験値の増加、素材買取料の増額があり、あと既存プレイヤーもプレマで第3陣向けのアイテムを販売すると売上にボーナスが入る。私も第3陣向けに安い薬の詰め合わせを流しておいた。
「売上はあとで確認するとして……パーティー登録しよう」
今日までの間に色々考えた……そして決めたメンバーがこの6体。
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登録パートナー
・ライム 回復役、死霊系対策
・レモン 攻撃役 水生系対策
・アセロラ 範囲攻撃役
・プルーン 防御役、物理攻撃役
・メロン デバフ役
・チェリモ 鳥系などの飛行型対策
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スチンは物理攻撃と雷属性の攻撃は苦手だからパス。ルベリーはデバフとしては最強クラスだけど、燃費が悪過ぎるので回復アイテム禁止ルールだと1発しか撃てないからお預け。レンシアは……砂の持ち込みができるのかな?って感じ。あと戦う地面が土なら良いんだけど……硬い石だと潜れないかもしれないから無しになった。
「ヒュウ♪」
「ノロォ……」
選ばれたチェリモはご機嫌。逆に選ばれなかったルベリーは床に手を付いて項垂れている。ルベリー……呪いっぽい黒い何かが漏れてるから気をつけてね?
(できればチェリモも第3進化させておきたかったけど……予選中に進化させられるかな?)
メロンの《酒肉華の香り》を使えば可能ではある……でも本戦行くためには結構戦わないとだよね。1位にならないとダメだろうし。
「スライム選択してる人がどれだけいるかだね……とりあえず一戦行ってみよう」
私はメニューを開き、ポチッと予選のマッチング開始ボタンを押した。ライムたちとワキワキと待つ………………全然マッチングしないな。
「あれ?なんで?」
もしかして人が居なくてマッチングしない?ウィンドウには『マッチング中……』という文字が表示されたまま。
「……マッチングするまで薬作ってようか」
第3陣向けのやつをね。この売上で分離機と新しい粉砕機を買う資金を稼がないと……私はゴリゴリと薬草を擦り潰しながら時間を潰した。
ライムたちも各々暇つぶししている……いつマッチングするか分からないから同じ部屋でまったり過ごしてる。レモンとアセロラものんびりと本を読んでた……
『マッチングが完了しました』
「やっとか……皆、戦えるようになったから準備して」
10分くらい経過した頃、ようやくマッチングが完了した。薬を作っていた手を止め、ウィンドウの準備完了を押すと私は控え室みたいなところに居た。ここで戦闘に出す3体を選出するらしい……時間制限は1分で、選択が終わってないと登録した時のリストの上から3体が自動で選択される仕様となっている。なお、試合開始は1分経過か互いに選択が終了した時。
「今回は……ライム、レモン、プルーンで行こうか」
メロンとチェリモはできるだけ本戦までは隠しておく。アセロラは次やる時にレモンと交代だね……
(私以外のスライムの使い手……どんな感じか楽しみだね)
準備を終えると向こうは既に選んでいたようで転移の光に包まれる。光が消えると私は小さめの闘技場のような場所で、ライムたちは戦うためのフィールドに、私は外側の指示台のような場所に居た。
(さてさて相手の方は………………ん?)
私は相手を見て戸惑った。相手の場に居るのは未進化のスライム1体だけだった。相手プレイヤーの見た目も初期装備の服……もしかして第3陣のプレイヤー?
「えっ……なんか相手強そう。てかなんか人型なんだけど……」
あっ、これガチ初心者だ。てか初心者でスライムって……割と茨の道だぞ?
「これは……スライムの先駆者として教えてあげた方が良いかな?」
茨の道を先に進んだ者としてね。私は予選なのにも関わらず、第3陣の子に色々レクチャーしてあげた。ちなみに勝負は相手の子が降参してくれて私の勝ち。流石に未進化のスライムで特攻はしてこなかったね……だって未進化のスライムの攻撃手段、体当たりだけでライムすら無傷で済みそう。
「ふぅ……次はちゃんとした戦いがしたいね」
ライムたちも肩透かし食らっちゃってたし。私がレクチャーしている間、相手のスライムと遊んでたからね。
気を取り直して2戦目。今回もマッチングに時間がかかったね……今回はレモンとアセロラを交代させておいた。そして対戦フィールドに転移すると……初期装備で未進化スライムというさっきと同じ光景を見た。
「oh……デジャブ」
私は額に手を置いて天を見上げた……
◇
種族型スライム部門。あれからそれなりに戦ったけど満足いく試合はできなかった……理由は明白で初心者とのマッチングが多かったから。初心者以外のプレイヤーも居たけど……第2進化単騎とかでね。
「まぁ、分かってたよ……スライムでガチパーティーなの私くらいだって」
もう全然マッチングもしなくなったし……30分経過してもマッチングしないんだよ。どうも掲示板で私が居るってことが広まったらしくて……『サービス開始日からのスライムガチ勢に勝てる訳ねぇだろ!』ってことで戦う人が減ったみたい。
初心者たちも予選やるよりもlv上げした方が良いって思ったのかな……予選やってても経験値もお金も入らないしね。
「目標の1位はクリアしてるから良いけどね……」
あとはちょくちょくチェックして1位キープしてればOK……予選まさかの1日目で終わり?
「なんか肩透かし感が凄いね……」
やることなくなったしレンシアとチェリモのlv上げでも行こうかな……人が居なさそうなところでね。
「大会に出るチェリモを優先かな……」
場所は……北にしようか。まともな勝負できなくてレモンとアセロラのフラストレーションが溜まってるから。発散させないと家の中で遠慮無しの鬼ごっこが始まりかねない。
メロンは今は日光浴をしながら昼寝してるから連れて行くメンバー数も丁度良い……ルベリーはより不貞腐れそうだけど我慢してもらおう。あとでちゃんと構ってあげよう。
「旧ノーステルマは特に行く理由無し、呪詛氷晶は前回でかなりの数を確保してあるからね」
浄化氷晶への加工もしているけど、それを含めてもまだ大丈夫。だから今回は……霞森や大砂丘と同じ攻略側のフィールドに行こう。
「それじゃあ準備して……向かうとしますか」
私はさくっと準備を整えてノーステルマへ転移するためにテイマーギルドに向かった……目指すは北に広がる氷の世界、凍尽の大氷原へ。
予選あっさりし過ぎだろって?
それだと主人公の弱い者イジメをツラツラと書くことになるだよね……
スライムがスライムをイジメるところなんて書きたくないわ




