第86話
「キチチチ……」
「ピヨォォン……」
砂の棘に滅多刺しにされたペトリファイ・シカルゴラーヴァ。無数の風の刃でズタズタに斬り裂かれたハイカース・バタフライ。色彩の迷宮の雑魚敵でも強い部類の2体が無惨な姿で地面に転がる。
「ペトリファイ・シカルゴラーヴァは下半身が埋まってるせいで固められたら動けなくなる。ハイカース・バタフライは羽を斬り刻まれて墜落……」
第2進化になりたてでも充分に戦えてる。これなら大砂丘や霞森の実戦も行けるかな……しばらくは様子を見ながらになるだろうけど。レンシアとかは砂漠だと戦い方が変わりそうだし、あそこは武器で埋め尽くされてるからね。
「てか、そろそろボス戦かな……地下4階も後半だろうし」
そんなことを考えて歩いていると、肯定するかのように地下5階への階段を見つけた……これを降りればボス戦突入かな。
(もう少し戦わせたかったけど……時間的にもそろそろログアウトしなきゃいけない時間になりそうだからね)
レンシアとチェリモの戦闘訓練は次に回そう……さぁ、いざボス戦!私は気合を入れながら地下5階へと進んだ。
地下5階はボス戦だからか狭く、根でできた壁に光る花で埋め尽くされた天井。足元には紫、黄色、水色、灰色、黒色の花がごちゃ混ぜになりながら咲き乱れている。
「ボスは……あれか」
天井の中心。張り付くように存在する大きな繭……私が見たからかただの時間なのか。分からないが繭からピシリと音が鳴り亀裂が入る。繭の亀裂は音を立てて更に広がり……中から3mくらいの何かが地面へと落ちた。
「ギシャァァァ!!!」
起き上がり威嚇をするボスの見た目は虫のキメラ……下半身はクモの身体で頭の部分からカマキリの胴体が、カマキリの背中には毒々しいチョウの羽が生えており頭部はムカデ……まさに虫をごちゃ混ぜにして生まれた化物って感じ。
(こんなタイプの敵は初めてだね……)
キメラとか初めて見た気がする。てかキメラか……カマキリにムカデの毒牙とチョウの毒鱗粉、クモの粘着糸って厄介な特性の詰め合わせ過ぎない?
「ギシャァァァ!」
虫キメラは威嚇をあげるとクモの足をカサカサと動かしてこっちへ向かってくる。虫キメラはノコギリのような歯の付いたカマキリの鎌を振り上げた。
「ヒヤァ」
虫キメラの鎌をプルーンが盾で受け止める。鎌がガリガリと氷の盾を削る音が聞こえる。プルーンが盾を前に出して耐えている中、虫キメラはゴキゴキと音を出しながら首を伸ばし、太く鋭いムカデの牙でプルーンを噛もうとした。
「ヒュウ!」
「ギシャァァァ!!」
虫キメラの牙がプルーンを噛む瞬間、チェリモの風の刃が放たれて頭を弾き飛ばした。虫キメラの頭部が叫び声を上げながら仰反る。プルーンはその隙に盾を押し出し、盾を手放して後ろに下がった。
「メララ!」
プルーンが後ろに下がると同時に虫キメラに向けてアセロラが火炎放射を放つ。虫キメラは全身を炎に包まれたが……すぐに羽を強く羽ばたかせて炎を振り払った。身体には薄らとしか焦げ跡が着いていない……すぐに振り払われたからダメージも少ないかな。
「ギシャァァァ!!」
燃やされてイラついたのか、怒りの滲む鳴き声を出した虫キメラはクモの腹部から天井に糸を射出。空中に移動して鱗粉の塊を周囲にばら撒いた。
「アセロラ。チェリモ」
「メララ!」
「ヒュウ!」
ばら撒かれる鱗粉の塊をアセロラとチェリモが迎撃していく。更にグルグルと回っている虫キメラの糸を狙いチェリモが風刃を放って落とそうとする。教えてないのに良い動きしてる。
「ギシャァァァ!」
糸を切られそうになった虫キメラは鱗粉ばら撒きをやめ、自ら糸を切り鎌を構えながらこっちへ向かってくる。
「アセロラ撃ち落としちゃえ」
「メララ!」
落ちてくる虫キメラに向けてアセロラが《爆炎弾》を撃ち込む。直撃した炎が爆発し、虫キメラは地面へ堕ちる。
「ギ、ギシャァァァ……ギシャァ!?」
墜落した虫キメラは起き上がろうとする。しかしクモの身体に砂が纏わりついていて動けない。実はレンシアが最初から地面に隠れて砂を集めてたんだよね……あいつを縛って動けなくさせるために。
砂は固まり簡単には振り解けないだけではなく……纏わりついた砂から無数の棘が生えて突き刺さっていく。
(レンシアの攻撃がエグ過ぎる……どこで覚えたの?)
レンシアって恥ずかしがり屋で臆病な子で、サイコパスな子じゃないんだけど……もしかして臆病が故に容赦が無い?
「ギシャァァァ……!!!」
クモの部分をグサグサと穴だらけにされた虫キメラは苦悶の鳴き声をあげ、身体に纏わりついている砂を鎌で払おうとするが地面から次々に砂が纏わりついて拘束していく……そして虫キメラが砂に意識を割いている間にプルーンが近くまで寄っていた。
「ギシャァ!?ギシャァ!!」
「ヒヤァ」
プルーンに気がついた虫キメラはプルーンに鎌を振ろうとする。しかしそれよりも先にプルーンの槍が虫キメラのカマキリ部分の胸を貫いた。
「ギ、シャ……」
槍が胸に突き刺さり虫キメラの動きが一気に鈍くなる。せめてプルーンだけでもと考えたのか力を振り絞るように鎌を振り上げるが……
「ヒュウ!」
「メララ!」
チェリモの風の弾が鎌を大きく弾き飛ばす。そして虫キメラの頭部にアセロラの《爆炎弾》が直撃し……虫キメラの動きは停止した。
ブク……ボゴ!ボゴボゴ!
虫キメラはしっかりと絶命した……しかし虫キメラの背中から紫色の風船みたいなのが膨らみ始める。……こいつ死んでも何か残すタイプか。見た目からして破裂したら毒のガスが撒き散らされるのかな……普通なら逃げるしかないんだろうけど。
「メキュ!」
うちにはライムがいるからね。ライムが手から浄化液を散布すると紫色の風船が萎んでいった。そして完全に萎むと虫キメラは光となって消えた。ふぅ、最後まで厄介な敵だったね。
「まぁ、レンシアとチェリモも活躍できたし。勝負自体は良かったかな」
なお、素材の方は……あれ?1個しか無いな。蠱毒の体液ってアイテムしかないや。
「素材の説明は……あっ、中々面白いね」
効果は虫系モンスターの毒などに混ぜることで効果をより強力にするというもの。ほんの数滴で効果を発揮する上、そもそもの量がかなり多いからしばらくは使えるね。
「これは周回する価値のあるボスだね……」
ここの敵は有用な素材を落とすから周回するのはありだね。最短距離も地図見れば分かるし……無くなったら他の素材の補充も兼ねて取りにこよう。
「長かった色彩の迷宮も攻略完了。帰ったらお祝いのパーティーでもしようか」
「メキュ!」
「メララ!」
「ヒヤァ」
「スナァ」
「ヒュウ!」
私はライムたちと共に拠点に帰った。パーティーではライムたちが料理を振るって楽しそうだったね……私は食べれなかったけども。
(人間の私は《悪食》持ってないからね……)
私はプレマでお菓子の盛り合わせとジュースで楽しんだ。もうそろそろ闘技大会の予選が開始……誰連れていくか考えないと。
「さーて、どんなメンバーで行こうかな?」




