6 悟の気持ち
その日から結構な頻度で楓は俺の家に来て、夕食を一緒に摂ったり、泊まったりをするようになった。
母さんが楓を気に入った、というのもあるが、楓もみんなで食卓を囲むという事に幸せを感じると言っていた。
俺の家に泊まる時は、母さんの部屋で楓と母さんは一緒に寝ていた。
話の内容は知らないが、結構深い話もしているみたいだ。
ある時、楓が友達と遊びに行くと言って、ウチに来ない時があった。
母さんと二人で食事をしていると、母さんが真面目な顔で声を掛けてきた。
「悟はさ、楓ちゃんの事、どう思ってるの?」
「どう思ってるって……、まあ一緒に居て楽しいとは思ってるよ。」
「友達ってこと?」
「わかんねえ。俺に友達なんていなかったから。」
「そうね……、楓ちゃんが困ってたら、悟はどうする?」
「助ける。俺に出来る事なら。」
「そう。今、悟はどこまで楓ちゃんに踏み込んでいける?」
「どこまで?どういう事だ?」
「今、悟は周りから見て、楓ちゃんの友達って事になると思うの。」
「友達……。」
「ええ。一般的に見て、ね。」
「そうなのか……。」
「それでね?楓ちゃんの抱えている問題って、家族関係なのよ。」
「ああ、わかってる。」
「友達関係だって気持ち次第では、結構踏み込んでいける、とは思うのよ?」
「そういうモンなのか。」
「そうね、でももし悟が楓ちゃんの事を女の子として好きだったら、彼氏になれるなら、もっと踏み込んでいけると思うの。」
「関係性があれば、ってことか?」
「周りから見た関係性っていうのもあるのかもしれないけど、大事なのはそこじゃない。」
「そこじゃない?」
「悟が楓ちゃんの彼氏になるって決めた覚悟、のようなもの、言わば気持ちの問題、ね。」
「覚悟、気持ち……。」
「そう、この子の為だったらって気持ち。楓ちゃんの家族の問題に踏み込んでいく覚悟、かな?」
「……そこまで考えてなかった……。」
「別に楓ちゃんと付き合いなさいって言ってるわけじゃないのよ?ただ、悟がどう思って、楓ちゃんにどこまで踏み込んでいくのかなって思ってね?」
「……俺は……。ちょっと考えてみる…。」
自分の部屋に戻り、ベッドに寝そべりながら考えてみる。
最初は同情と、楽しいと感じた事から俺は楓と一緒に居るようになった。
だが、多分そこじゃない。
わかってたんだ、本当は。
俺が、楓に惹かれたのは、見た目が良いからじゃない。
俺と居るのが楽しいと言ってくれたからでもない。
俺は友達を知らなかったから、友達が出来たのが嬉しくて楓を好きになったんじゃない。
理由もないのに、俺の目を見て信じてくれた楓に惹かれたんだ。