5 楓の事情
「アタシには二つ上のお姉ちゃんがいるんだけどさ、すっごく優秀なの。」
「うん。」
「幼稚園くらいの時は良かったの。お父さんもお母さんも二人に優しかった。」
「ああ。」
「小学校に入ってからかな。お姉ちゃんは勉強も運動も出来て、私はどっちも苦手だった。」
「うん。」
「両親はお姉ちゃんを可愛がった。近所からの評判も良かったし。でも私はその頃からあんまり相手にされなくなった。」
「実の両親で、姉妹なのにか?」
「うん。まだ小学校の頃は私だって頑張ったんだよ?だけど、どうやってもお姉ちゃんみたいにはなれなかったの。」
「そんな事気にしなくてもいいんじゃねえか?」
「そう、かもしれないけど、ウチの両親は違った。なんでお前には出来ないんだって、結構キツかったな。」
「そんな……。」
「そういう両親を見て、お姉ちゃんも変わっちゃった。アタシの事気にもしなくなった。」
「今も?」
「今は口も利かないよ。あの家にアタシの居場所なんてないの。」
そんな………。血のつながった家族だろ?
どうしてそんな事が出来るんだよ?
「そっか。だから家に帰らずに公園なんかで時間を潰してたのか。」
「そう。もう両親にどう思われたっていいやって思って。こんな感じになっちゃった。」
「飯とかどうしてるんだ?」
「朝は食べないかな。両親は世間体は気にするから弁当は用意してくれてる。夜は家にあるカップラーメン食べたり、冷蔵庫の残りを食べたりしてるかな。」
「マジかよ……。」
「ごめんね?みっともないトコ見せちゃって!」
「いや、謝るなよ……。」
「けど、いいの?悟の家でご飯って……。」
「ああ。ウチで食ってけよ。この時間なら母さんもいるだろうし。」
「え?大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。事情は話すことになるかもしれねえけど。」
「別にそれは構わないよ?でもなんだか悪い気がする。」
「気にすんな。俺が言った事だしな。」
「ありがとね。」
家に着いた。
「おおう?!!悟が女の子連れてきた!!!!」
母さんも同じリアクションするのかよ……。
「あー、あのさ、ちょっと事情があって、コイツも一緒に晩飯いいかな?」
「え、あ、う、うん。それは良いんだけど……。」
「あ、あの!お邪魔します!遠山楓っていいます!」
「は、はい。初めまして。えーと、悟の母のさゆりっていいます、よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします、おばさ」
「さゆりさん。」
「えっ?」
「さ・ゆ・り・さ・ん。」
「さ、さゆりさん…。」
「はい!よく出来ました!じゃあご飯作るからゆっくりしてて!」
「あ!アタシも何か手伝います!」
「いいのよ!楓ちゃんはお客さんなんだから!ほら、悟!おもてなししてあげなさい!」
「え?あ、コーヒーでも飲むか?」
「い、いいのかな?」
「ああ、遠慮すんな。」
「あ、ありがとう。」
リビングでコーヒーを飲みながら楓と待っていると、夕飯の準備が終わったようだ。
三人で食卓を囲む。
まだ楓は緊張しているみたいだな。
と、気付いたら楓が声も出さずに泣いていた。
「ど、どうしたの?口に合わなかった?」
母さんが心配そうに楓に尋ねる。
「ち、違うんです。美味しいです!でも…こんなの久し振りで……。」
楓……。
「母さん、後で話すから。楓、大丈夫か?」
「う、うん。ごめん……。」
「いいから食おうぜ?冷めちまうから。」
「そうね、楓ちゃん?遠慮しないで一杯食べてね?」
「はい、ありがとうございます。」
食後、母さんに楓の事情を話した。
「そう……。そんなことが……。」
母さんは考え込んでいる。
と思ったら急に顔を上げ、
「楓ちゃん!明日は祝日で学校休みよね?」
「は、はい、休みですけど……。」
「今日はウチに泊っていきなさい!」
「えっ?」
「悟は文句ないわよね?」
「えっ?あ、ああ、別に構わないけど……。」
「じゃあ、決まり!ご両親には私から連絡するから!」
「え?いいんですか?」
「いいの!私娘も欲しかったのよー!一緒にお風呂入りましょ!」
「ええ?」
「あ、悟はダメだからね?」
「あ、当たり前だろ!」
「じゃあ、電話してくるからね。楓ちゃんスマホ貸してくれる?」
「あ、はい。」
母さんはそう言うとリビングを出て行った。
「い、いいのかな?ご飯だけじゃなくてお泊りまで……。」
「まあ、母さんから言った事だからいいんじゃね?」
「うーん……。」
しばらくすると、母さんがリビングに戻ってきた。
あー、怒ってるな、これ。
顔は笑ってるけど、引きつってる。
楓の母親か父親と話してキレかかってるな。
「交渉成立!!」
一応入って来るなり笑顔で楓に向かってドヤ顔をする母さん。
「そういう事だから、悟?お風呂の準備お願いね?」
「りょーかい。」
こうして楓がウチに泊まることになった。