10 悟と弘斗
楓と付き合い始めて半年、高校受験が始まった。
俺は自分の成績に見合った高校を探していたが、結構距離があるところだった。
楓は俺と一緒の高校に行くと頑張っていたが、残念ながら受からず、地元の私立の女子高に通う事になった。
高校生になってからも、俺の周りには友達は居ない。
どうしても俺の事を信じてくれるヤツなんてそうそういない、と思ってしまう。
やはり、みんな俺を怖がっている。
そんな日々が変わるのは夏休み後だった。
俺は、高校入学して誕生日を迎えたら速攻で中型免許を取った。
中学生の頃から貯金をはじめ、高校入学からはバイトも初めて遂に念願のバイクを買うことが出来た。
その間、学校でバイク雑誌を見ていると、急に声を掛けてきたヤツがいた。
「おお!山下はバイクに興味あんの?」
「あ?誰?お前。」
「おいおい、同じクラスだろ?結城だよ、結城弘斗。」
「ワリーけど、知らねえな。」
「えー?まあ、いいや。で?バイク買うの?」
「お前には関係ねえだろ?」
「俺はさあ!これ!これいいなーって思ってんだけど!」
「話聞いてるか?」
「で、山下は免許取ったのか?」
「あ?ああ、中型取ったぞ?」
「おお、すげえ!俺も取ろうかなって思ってんだけどよ!」
「な、なんなん?お前?」
「だってさあ、楽しいだろ?自分が好きな物を語り合うのって!」
「そ、そうなのか。」
「で?バイク買うの?」
「そのつもりでバイトしてるけど。」
「いいなー、俺もバイトして買おうかなー。」
「いいんじゃね?勝手にすれば。」
「山下はどれ買うの?」
「ああ、一応これだけど。」
「おお!それもいいな!迷うよな!」
「いや、俺は迷ってねえよ。」
変わった奴……。
放課後。
「なあ、安く買えるバイクショップとか知らねえ?」
なんでコイツは付いてくるんだ?
「まあ、地元に良く知ってるバイクショップはあるけど……。」
「マジで?俺も」
「おい!お前元三中の山下だろ?!」
結城をどうやって撒いてやろうかと考えていると、いきなり前から歩いて来た六人組に呼び止められた。
「あ?」
確かコイツ……。カツアゲしてた奴か。
「前は舐めたことしてくれたよなあ!上のモンに逆らったらどうなるか教えてやるよ!」
一年前の事だろーが。仲間が五人もいるからって調子に乗りやがって。
「オラ!こっちこいよ!」
チッ!囲まれる!
結城に目で合図を送る。
よし、逃げたな。
六人に囲まれて路地裏に連れていかれた。
「流石にこの人数じゃお前も大人しくするしかねえよなあ?」
「相変わらずカッコいいねえ!センパイ!」
「威勢がいいのは褒めてやるよ、クソガキが!」
「なあ、山下ぁ、この人数イケんの?」
後ろから間抜けな声が聞こえる。
振り返ると結城がいた。
「お前!なんで逃げてねえんだよ!」
「ええ?いや、ダチ置いて逃げれねえよ、俺は。」
「バカか?ダチじゃねえだろ!」
「ダチだよ。それよか、これ勝てんの?」
「勝てるワケねえだろ!」
「嘘だろ?!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ!」
「オラ!六対二じゃケンカにもなんねえぞ!」
バキッ!!
「グッ……。」
ドゴッ!!バキィッ!!!
「おーい、生きてるかー?」
「いてて……。俺ケンカ強くねえんだけど。」
「だったら逃げときゃ良かっただろーが。」
「だから、ダチ置いて逃げれねえって。」
「だから、ダチじゃねえって。」
「ははっ。山下も結構しぶといねえ!」
「しつこいのはお前だっての!」
「に、しても山下すげえ顔腫れてねえ?」
「自分じゃわかんねえよ。お前も口から血ィ出てんぞ?」
「うそ?あ!いてえ!なんだよ、口の中血だらけじゃねえかよ……。」
「バカだなあ、お前。」
「なんでよ?ひどくね?」
「……なんで俺に関わるんだ?お前俺が怖くねえの?」
「いや、別に怖くはねえな。何で関わるかって…そりゃ山下とダチになりたかったからだろ?」
ダチになりたかった?
たったそんだけの理由で?
ろくにケンカもした事なさそうなコイツが、六人相手に逃げなかったのか?
口から血ィ出してても、笑ってるし。
コイツは、今まで俺の周りに居たヤツらとは違う。
コイツは俺を見捨てなかった。
俺を裏切らなかった。
俺を怖がらなかった。
信じてみても……いいのかもしれない。
こうして俺に本当の友達が出来た。




