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大聖女峠

修道院に追放された男爵令嬢のその後

作者: 山田 勝

「マン男爵令嬢、サリーよ。お前に修道院行きを命じる!せいぜい、そこで奉仕活動をしろ。一応、お前も聖女だろうが!」


「その他の令息は、廃嫡の上、平民として放逐の沙汰を下す!王太子は王位継承権も剥奪する!次の王太子は、第二王子だ!」


「「「御意、陛下、ご英断でございます!」」」

 王子たちの不行跡に心を痛めていた臣下たちは一斉に頭を下げる。


 ここに、王太子交代の政変が起き。国を揺るがした男爵令嬢は、かろうじて娼館行きを逃れることが出来た。一応聖女だからだ。


 ・・・グッ、あたしは前世の記憶がある。ここはゲームの世界、後、もう少しで、逆ハーを達成して、王太子妃になって、王妃になれたのに・・・最後の最後でヒーローが現れやがった。キーーーーーーこんなのズルイ!

 フラグはきっちり回収したのに、バグったか?


 悪役令嬢に、イジメられていることにして、王太子、宰相の息子、騎士団長の息子、商会長の息子の貴族学園イケメン四天王の気を引き。悪役令嬢を断罪したのに、陛下は騙せなかった。


 何?このタイミングで、第二王子が、帝国と友好条約を結んで帰って来た。手柄立てた!

 実は、前から、悪役令嬢が好きだった?

 気持ち悪い!兄ちゃんの婚約者に惚れていたなんて、ケッ!


「連れ出せ!」

「はっ」


「ねえ。殿下、サリー様の行く修道院、大丈夫かしら・・」


「敵を心配するなんて、何て優しいエリザベス義姉さん。いや、アレクサンドル公爵令嬢・・・大丈夫だ。サリーの行く修道院は、有名な慈愛のシスター、アマンダ様が修道院長をされている。さすがに、あのサリーでも心を入れ替えるだろう」


「そうね。修道院長様は、大変だろうけども、サリー様、改心すればいいわね」


「あの、貧民の世話をされている人格者のアマンダ様だ。アマンダ様こそ、聖女だったら良かったのに・・」



 ☆☆☆王都スラム街、修道院


「ようこそ、私は修道院長のアマンダ、貴方が、サリーね。今日から、この修道院で、貧民たちのお世話をして頂くわ」


「は~~い」


「フフフフ、気が抜けた返事ね。今まで男爵令嬢として暮らしてきたのね・・・記録によると慈善活動は一回もしたことなくて、貴公子たちと遊んでいた・・でも、王命が下ったのよ。諦めなさい。そして、ここで、何かを掴むの。そうすれば貴女は救われます」


「で、何をすればいいですかぁ~」

 サリーは半ばふてくされて返事をした。やっぱり面白くないのだ。


 しかし、慈愛のシスターアマンダは、終始笑みを絶やさずに説明をする。


「ここには、回復術士や、医者にかかれなくて、死を待っているだけの方や、孤児がいます。まずは現場をみてもらいます」


 サリーは、死を待っている人が集められている部屋に連れて行かれた。


「な、何?ここ?」

 そこは、わずかな人数で、死期の迫っている人たちを世話して回っているシスターたちの光景があった。

 皆、苦しんでいる・・・シスターも疲れ切っている。


「そ、そんな・・」

 サリーの前世は日本人だ。日本にも貧しい者がいるが、ここまで沢山、しかも、死を前にしている人は見たことがない。


 サリーはショックで、膝をつき、両手で地面を支えた。


 しかし、アマンダは心の中で黒い笑いをする。

 ・・・フフフフ、これで、サリーは文句を言わずに、働くようになるわね。国を揺るがした悪女もたわいもない。所詮は世間知らずの令嬢。これで奴隷一人ゲット。陛下から感心され、寄付金をもっとゲット出来る!



「シスターサリー、これが現実です。でも、貧しき者は、女神様が好みます。女神様に会うまで、私たちが、お世話をするのです・・・って、貴女、何をやっているの?!」



「こうしちゃ、いられない!」


 サリーは、重傷で寝ている者の側に来ると、回復術式をかけた。


「ナム!回復術式、レベル3・・・ちょっと、これは肺炎じゃない!」

 サリーの体が青く光ると、掌から、光が患者に注がれる。


「あ、あれ、治った!貴女は、聖女様?!」


「えへへへへへ、あたし~聖女の資格があって、だから、男爵家の養子になれた~の」

「ありがとう!ありがとう!ありがとう!」


「御礼はアマンダ様に言って、あたしは~アマンダ様のおかげで心が綺麗になったの」


「ちょっと、ちょっと!」

 アマンダは、慌てた!


 ・・・何、勝手に治療しているの?病人が減ったら、寄付金が減る!

 お貴族様はお涙頂戴ものが大好きなのさ!

 その仕組みに気が付いた私は、スラムの道端で、病気で寝ている奴を集めて、世話をして、お金をもらっていたのに!

 時々、勘違いをして、病人の世話のボランティアしたがる低位の貴族令嬢を無給で働かせていたのに・・・ビジネスモデルが崩れるだろう!


「さあ、次、次、私、余り、魔力がないから、1日、100人が限界かな!ちょうどこの部屋の人数分ね。1日で皆、治すわ!」


「「「100人なんて、聖女様、すごい!」」」

 シスターまでもが、狂喜乱舞し、アマンダが必死に止めるが、誰も気にもとめない。


「ちょっと、むやみやたらに治しても、この人たちは行き場がないのよ。早く死んで、女神様の御許に行くのが幸せなのよ!」


「アマンダ様、今まで、有難うございました。私は病気になってから、仕事を失いました。治ったらまた働いて、お金を稼いで家族にお金を送りたい!」


 そして、死を待つ部屋は、病人は10名ほどになった。

 彼らは、老衰で回復魔法が効かず本当に死を待つ者、長い闘病生活で生命力が枯れ、時間がかかる患者だけが残ることになった。


 アマンダは慌てる!

 これじゃ、慰問に来たお貴族様から、お金もらえないじゃない!

 これじゃダメよ。サリーを追い出すわよ!


「サリー、貴女は良いことをしたつもりかもしれませんが、聖女がみやみやたらに、回復魔法を使ってはいけない法律があるのよ。貴女、法律違反で、陛下に進言して、娼館にいってもらいます!」


 この国では、聖女が無料で人を治しまくると、市井の回復術士や医師の仕事がなくなる。

 結果として、医療魔術や、医術が育たなくなる。だから、聖女法で厳しく、料金設定など法律で定められていた。


「だって・・・ちょっと、これ見ていられないじゃない!いいわ。あたし娼館に行っても!」


 ・・・ち、この女、何でこんなときに、正義に目覚めるのかしら。うっとおしい。


「マダム、大丈夫です。サリーは、法律を破っていませんよ」


「誰よ!」


 アマンダの背後に、元貴族学園イケメン四天王がいた。サリーの取巻きになり、王太子を筆頭に、廃嫡となり、平民として、サリーの後を追っていたのだ。


「僕は、元・・宰相の息子です。聖女法第23条は、救貧院や孤児院は除外されています」


 宰相の息子、ロイドは、眼鏡を右手で直しながらサリーの無罪を説明する。


「「「「サリー、会いに来たぜ!」」」」


「み、みんな、来てくれたの・・貴方たちなら冒険者で一旗揚げられるのに」


「「「俺たちの居場所は、サリーの側だけさ!」」」


「「「「さあ、一緒に、奉仕活動をしよう!」」」」


 アマンダは慌てた。これ以上、金づるを減らされたら困ると、4人を断る口実を考える。


「待ちなさい。大の男4人を食わせる余裕は当院にはないの・・・気持ちだけ受け取るわ」


 元第一王子は、少し思案した後、元商会の跡取りに提案をする。


「お金があればいいのだな。オリバ、君のスキルで、お金を見つけることできるか?」


「はい、王子!さっきから、ここに、金の匂いがしてしょうがありません!ジョブ商人!マネー探知!」


 オリバが叫ぶと、鼻をクンクン嗅ぐ。


「皆、こっちだ!」


 アマンダの執務室に向かう。


「ちょっと、勝手に入らないで!」

 アマンダは慌てる。


 一応、アマンダの執務室は対外的に、質素を装っているが・・・


「この本棚の裏だ!」

 オリバが特定すると、元王子は、元騎士団長の息子に命じる。


「マックス、頼むぞ!」


「おう、任せろ!」


 ドタン、ガチャーーーンと本棚を乱暴に倒し、後ろの壁に向かって、蹴りを入れる。


 ドーンと壁は崩れ、中には金貨が詰まった樽が沢山ある小部屋が現れた。


「金貨!こんなに沢山、これで、充実した慈善活動が出来るわ」

 ピコーンとサリーの頭にランプが付いた。


「皆、これで、一緒にいられるね」

「ああ、これは女神様の贈り物であろう。アマンダ様の人徳の賜だな」


(ヒィ、隠していた寄付金が、何で、こいつら、改心するの・・・)


「まだ、匂いがあります。さあ、皆、探しましょう」


「「「「おう!」」」」


 オリバは更にスキルを発動して、大金貨数百枚程度(数億円)の女神様からの贈り物を修道院から発見した。


「ロイド、頼むぞ!しかるべきところに報告し、この金貨をアマンダ様の慈善活動のために全て使えるようにするのだ!」


「はい、殿下!」


 まるで、元王子の周りの3人は側近のように機能し、それぞれ得意の分野で元王太子を助けた。

 それは、ひとえに、善に目覚めたサリーを助けるために


「みんな、あたし、本物の聖女になるわ」


「「「「サリーは元から本物の聖女だぜ!」」」」


 一方、アマンダは気が気でない。

 ため込んだ寄付金を全て巻き上げられた。


(どうして、こうなったのよ!)



 ☆1年後


「アマンダ様、寄付金を持って来ました!是非、受け取って下さい」

 ある貴族がアマンダの評判を聞きつけ寄付金を持って来た。


「まあ、こんなに、沢山、これだけあれば・・」

 アマンダは笑いを隠しながら受け取ろうとするが


「「「「「ちょっと、待った!」」」」


 サリー&イケメン四天王が、デンと貴族の前に立ち塞がる。


「・・・貴様、アーデル地方の領主、ポリー伯爵だな。アマンダ様は清貧をモットーとされている。今、我等が起こした事業が軌道に乗り、貧民は一掃されつつある。その金は、自分の領地に使われよ」


「な、何だ。元王子か、私は是非受け取ってもらいたいのだ!」


「怪しいですね。調べましょう」


「オラ、こっちに来い!」


 ・・・


「殿下、マックスがポリー伯爵を拷○した結果、違法奴隷商売で、儲けた金の一部で、アマンダ様とツーショット魔道写真を撮って、イメージをあげる為に、献金を申し出たそうです」



「「「「何!アマンダ様はそんな汚い金は受け取らない。その金で被害者を救出だ!」」」」


 ・・・ああ、どうして、こうなったのよ。私は、お金儲けをしたかっただけなのに・・


 この事件が発覚してから、アマンダに献金を申し出る貴族が少なくなった。

 清貧をモットーとするアマンダ様は、献金を断り。献金をするぐらいなら、自分の家族や領民に使いなさいと貴族たちは受け取った。


 献金が減った代わりに、『まさに清貧のシスターだ!』とアマンダの名声はますます高くなった。



 ・・・


 スラムは、元王子たちが簡易な学校を作り、子供たちに読み書き計算を教え。アマンダの教え子として、各商会や兵団、貴族の使用人として、職業を斡旋し、貧困は大分マシになってきている。

 大人たちには、オリバが昔の伝手で探した仕事を斡旋している。


 マックスはゴロツキをまとめて、自警団として王都から治安の一部を任されるまでになった。


 そして、サリーは日本時代を思い出し。ネイルを苦労の末、再現し、貴婦人や令嬢の間で人気が出て商売は軌道に乗った。


 そして、


 遂に、この修道院に、現王太子と婚約者がやって来た。


「まあ、アマンダ様、あの5人を改心させるなんて、まさに、貴方は女神教徒の鏡ですわ」


「ええ、本当に立派になられました。是非、こいつら・・いえ、あの5人を貴族社会に復帰させて下さい!もう、大丈夫です!」

 ・・・厄介払いするわよ。こいつらがいたら懐が潤わない。みーんな貧民に使ってしまう!


「そ・・そうか。兄さんたちは・・・立派になったのか」


「「「「殿下、お久しぶりです」」」」

「アマンダ様の前だ。ここでは身分差はなくし話そう」


 両陣営に分かれてケンカをした者達だが、心の中ではとっくに和解をしていた。



「兄さん・・・実は・・」


「ああ、わかっているとも、情報は仕入れの商人から入っている」


 ・・・帝国との友好条約は、たまたま時期が良かっただけだ。帝国は北方の異民族と戦うために我国に攻められないように結んだだけ。当時、帝国に留学していた私が、たまたま代表として結んだだけだ。

 それ以降、何も成果を上げられていない。だから・・


「アマンダ様だろう。彼女の名声は各国に知れ渡っている。彼女を、外国に派遣し、友好条約や商業条約をスムーズに結ばせる。アマンダ様も多くの貧民を救えて嬉しいはず。為政者たる者、平和的手段ならいかなる手も使うべきだ」


「それじゃ、アマンダ様をお借りしていいのですね?」


「「「「アマンダ様は、こんな小さな修道院では狭すぎる。もっと広いところで活躍してもらうべきだ!」」」」


「ええ??」


「アマンダ様、隣国に親善シスターとして、スラム街の改善の現地指導をお願いしたい。賄賂に屈しない貴方に、是非来てもらいたいとオファーが来ている。王命もすぐに下ろう」


「ちょっと、待って、私がいなかったら、ここは・・・」


「「「「大丈夫、私たちは、貴方が帰ってくるまで、ここで慈善事業を行います」」」」


(ギャアアアアアアアアアアアア)

 アマンダは失神した。


「まあ、あまりに嬉しかったのかしら」

 エリザベスとサリーは、アマンダを抱え、馬車に乗せた。

 アマンダはその日のうちに、隣国に行くことになる。



「ようこそ、アマンダ様、おいで下さいました。アマンダ様は清貧をモットーとされていると聞いています。豪華な食事はアマンダ様に失礼だ。そうですよね」


「え、いや、その」


「これが、我国の一般的な平民よりも貧しい者達の食事です。料理長に再現してもらいました」


 固いパンと底が見えるぐらい薄いスープ、具材は野菜だけ。


「さあ、アマンダ様は貧民と共に歩む方と聞いています。寝床はあえて固いところでと決めているのですよね」


 固い寝台に、ペラペラの毛布でアマンダは寝ることになる。


「グスン、もう何も言う気も起きないわ。巨大なドラゴンの背中に乗っているみたい・・・逆らえない流れをあの5人が作りやがって・・グスン」


 その後、アマンダの行く先々では、周りが勝手に解釈をして、動き出し、炊き出しに、貧民救済の事業が興ることになる。



 ・・・


 その評判をサリーたちは、王都の修道院で聞くことになる。


「やっぱり、アマンダ様は立派だな」


「アマンダ様、サリーは、ここで何かを掴んだよ・・・」

「「「「ああ、俺たちも充実している。あの方は立派な方だ」」」」


 その後、アマンダは生涯を外国の貧民事業の旗頭となり貧しい生活で過ごすことになる。

 そして、王国には二度と帰って来なかった。

 あの5人を見たくなかったからだ。


 サリーは元王太子と結婚し、オリバ、ロイド、マックスはそれぞれ伴侶を決めて、平民として生涯を過ごし、恩赦を受けて貴族社会に復帰する話も自ら断った。


そして、清貧のシスターアマンダは、女神教典外伝烈女伝に、清貧に生きたシスターとして、女神様から金貨を賜った奇跡の話が追加されることになる。








最後までお読み頂き有難うございました。

この話にはモデルになった実在の団体や人物はいません。


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[良い点] 本人は悪人でも神から与えられたスキル(常時発動型)が「改心」とかなんだろうな… [気になる点] >この話にはモデルになった実在の団体や人物はいません。 ……モデルいない?(半笑) カル…
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