表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

p.4

 その時……


「いや、ちょっと待て」


 再度の坊丸の制しに、力丸は、素早く内線を切った。


「やはり、違うのですか?」


 眉根を寄せ、困り顔を見せる力丸に、坊丸もそっくりな困り顔を見せていた。


「ああ……。もしかしたら、織田社長の要件は、こちらではないかと思えてきた」


 そう口にする坊丸の手には、新たに別の資料が握られている。


「それは?」


 坊丸から受け取った資料に、力丸は素早く目を通す。それは中途採用の履歴書だった。


「履歴書のようですが? これが何か? まさか、この方、前田さんを呼ぶようにという事ですか? そんなの今すぐには無理ですよっ!」


 力丸の訴えるような眼差しを遮るように、坊丸は、もう一枚の資料を突き出す。


「これを見ろ。その前田さんというのは、どうやら、柴田北陸支部長の縁故らしい」


 坊丸の差し出してきた資料は、縁故採用の為の推薦書のようだった。坊丸の言う通り、そこには、柴田支部長の名が記されている。


「当人の前田さんをいきなり呼ぶ事は無理だが、柴田支部長ならば、今日は本社にいるからな。採用前に、織田社長は、前田さんについて、柴田支部長から、直接話を聞くつもりなんじゃないだろうか」


 坊丸の言葉に、しばし思案顔をしていた力丸も得心顔で頷いた。


「それは確かに。直接会って話を聞きたいかも知れないですね」

「そうだろ? じゃあ、柴田支部長に連絡を……」


 そう促す坊丸の目をしっかりと見据えて、力丸は首を横に振った。


「いえ、坊兄さん。今のところ、明智近畿支部長にも、羽柴中国支部長にも、そして、この柴田北陸支部長にも可能性があります。我らが連絡をするのは、本当に、柴田支部長で良いのでしょうか?」


 力丸の言葉に、坊丸は額に手を当て、目を閉じると、しばし考え込む。


 秘書室内には、時を刻む秒針の音が規則正しく鳴り響く。カチカチと響くその音は、常に規則正しいはずなのに、気持ちが焦る二人の耳には、何故だかその音が、次第に早くなっていくように聞こえていた。


 じっくりと考えている暇はない。なぜなら、二人に「あいつを呼べ」と言いつけた織田社長は、実にせっかちな人で、待たされる事が大嫌いなのだ。その上、自分の意に沿わなければ、容赦なく叱責される。


 二人はまだ新人の為、そこまでのミスをして叱責された事はないが、隣の社長室から怒鳴り声が響いてくるのを、肩を震わせて聞いた事なら、もう幾度もあった。


 あの様な恐怖を直に受けるなど、考えるだけでも恐ろしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ