時空トラベラー
タイムトラベルマシンが開発されて3年、あらゆる時間逆光の問題や矛盾が解消され、だれでも渡航できるようになり、しばらくの間問題なく運用されていた。ある事件が起こるまでは。
ある男が、タイムトラブルマシンで旅をする。手荷物は少なく、みなりも時代に合わせたものだった。
(ああ、退屈だなあ)
この男は量子力学の研究者で、あまりに知的であるがゆえに世の中のほとんどのことに退屈していた。ありとあらゆるものの必然性に。
トラベルは完了する。渡航中にこんな警告文がだされる。
『時間旅行者は身分証を提示し、自分のいた時間軸と別の時間軸にとんでください、旅行中は仮面をつけて、トラベル先で犯罪を起こさないようにお願いいたします』
扉が開く男が仮面をつけて、おりたつ、一〇日間の日程で一日目は夕暮れに設定した。移動先は90年代の西洋のとある国。なるべく有名ではない場所を選んだ。仮面をつけて、そとにでた。半透明のトラベルマシンは、スイッチを押すと完全に景色に溶け込んだ。ある旅館へ向かい、宿泊する。その日は何もせず、ゆったりと旅館とその周囲を散策してすごした。
次の日、男は退屈が晴れることに期待していなかったが、異文化で知らないもの知らない体験をするというのはそれなりに斬新で、男の退屈は少しずつはれていった。劇場や、映画館、スポーツ。すべてガイドや規則に従って動くので、一人で旅行しても同じように仮面をつけたガイドが相手になってくれた。
『だがこの退屈しのぎもあと8日しかないのか、そして一度旅行したら退屈してしまう、その繰り返しだ』
スポーツを終えて、帰宅すると、ある少女によびとめられる。
『お兄さん、退屈しているの?劇場によっていかない?』
『本当に劇場?へんなところにつれていかれないよね』
『フフ』
本当は、法律によって、現地ガイド以外の現地の人に呼び止められても相手をしてはいけないのだが、男は退屈さに耐えかねて反応をしてしまった。男は劇場につれていかれる、談笑しながらあるく、だがその途中で、複数の覆面をした男が襲い掛かってくる。
『くそ!!何ものだ……君、だましたのか!』
『しらないわ!よくある物取りだわ!!』
そういって少女はどこかへかけだしてしまった。取り残された男は戦おうとするが、こん棒やら武器をもった相手、5人組にぼこぼこになぐられて横たわる。
『これで、終わりだ!!』
『あにき、そこまでしなくても』
『おれらつかまっちまうよ』
リーダー格の男がとりだしたのは拳銃だった。だがその銃声は思わぬ形でかきけされた、その男たちの背後からまた別の銃声が鳴り響いたのだった。
《バンッバンバンッ》
白い仮面をした男が、暴漢たちを撃ち殺してしまったのだった。
男は寝そべりながら考える。
(あいつ、時間旅行者か?)
その白い仮面は確かに同じ旅行者だった。
『ありがとう、ありがとう、なんとお礼をいっていいか』
男はたちあがり、ぼろぼろになりながらも名刺をさしだし、必ず現実世界でお礼をするから、という。そして男と別れようとしたそのとき、仮面をした男につかまった。
『私は旅行者ではない、トラベル先で暴走を起こす人間もふえたから、時空旅行者協会は取り締まりを強化し、独自の警察機関をもうけた、それが私だ、私は時空旅行者協会から派遣され、初めに事件を起こしそうな人間の性格やリストを渡され監視していたのだ』
助けた男は、今たすけた男の手をひいて自分のトラベルマシンがすぐそばにあるといって誘導する。たしかに、男がスイッチをおすとすぐそばの川べりに、トラベルマシンがあった。男はおとなしく誘導された。というのも、男は前々から時空旅行者協会にめをつけられているようなところはあったのだ。軽犯罪にも近いことを、退屈をごまかすためにやっていたから。
男は助けられた男のタイムトラベルマシンにのせられ、捕まったまま、時空を飛び立つことになった。くるくるとまわりはじめるマシン、歪み始める景色。
『時にー』
助けた男が、何かを口走る。
『タイムトラベルに何の問題もなく、問題はすべて解消されたと本当に思いますか?』
『何をいっている?……』
しばらくして、助けられた男は、何かに感づいたように、さけんだ。どこか、この男のふるまい、声、雰囲気に覚えがあった。
『あんた本当に!!』
《 ズドン!! 》
銃声が響き渡る、すぐに機械内は鮮血でそめられた。
『……別次元のものよ、トラベルマシンが俺の時空で開発されて以降、俺はずっとお前に嫉妬していたんだ、すべては偶然でおこる、お前が俺の手口にひっかかったのも偶然、研究者は俺の時代では不必要なものとされたせいで、仕事がなく、有能な割に俺はとても貧乏でね、俺の時空は退屈じゃなかったよ、旅行者をとりしまる、そんな警察いるわけないでしょう、問題なのは不法トラベラーのほう、そう、私不法トラベラーで、実は、私は別次元のあなた、……別次元の私はチケットを入手できずに不法トラベルをしていたのですよ』
助けた男が仮面を脱ぐと、今撃たれた男と同じ顔をしていたのだった。仮面を外した男は、トラベルマシンをもう一度旅行先に設定し、90年代に戻り、その後、殺した男のトラベルマシン端末を使い、男のマシンにのりこみ、殺した男の元いた時代に戻ると同一人物として生活を始めるのだった、その後この犯罪はあばかれることになり、時空旅行は別次元でも行われていることが発覚し、中止されたのだった。とはいえ、通常の旅行は今でも普通に行えるもので、詐欺にはご用心という教訓がたてられたのだった。