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彦火火出見ノ軍勢

村長は筋骨隆々とした大男だった。

鋼太郎は百八十センチ、海軍でもそこそこの偉丈夫だが、その彼より頭ひとつ大きい。

さんざ苦労しているのか、目元に深く刻まれた皺がある。


「俺たちはあいつらと約束した。一年に一人、女を差し出す。そのかわりに他の者は見逃して欲しいと。トヨは自分から納得して行った。あんたらはそれを台無しにしたんだ」


「馬鹿な!」牧が憤慨した。「日本男子たるものが、抵抗もせず婦女子を差し出すだと!? あの女性の命をなんだと思っとるのだ!」


村長の顔の皺が深くなった。

「トヨは俺の妹だ」


ここで、あばらやの一つから、眼鏡をかけた大柄な中年男が飛び出してきた。村人と異なり、舶来製と思しき上等の服を着ている。


「ああ!これはこれは、陸軍の方々ですね!となると、わたしの伝言が届いたのですね! 村長、こちらはわたしの国の兵士たち。あなたたちのご先祖の一人、彦火火出見が〝あちら側〟で作られた国の軍勢ですよ」


商人の正蔵が、小声で「ヒコホホデミとは何かね?」と鋼太郎に尋ねる。


だが、鋼太郎も聞いたことがない。


横から新聞記者の飛鳥が助け舟を出した。

「彦火火出見とは、神武天皇の忌み名ですわ」


「なるほど、さすがは毎朝新聞が誇る才女ですなぁ」と、正蔵。


牧が、探検服姿の中年男を見た。

「あなたが滑川さんとともに常世を発見した鉢金教授ですな。あなたからも、この男に我が軍の精強さを説明差し上げてほしい。我が神軍は日清戦争で、あの大中華を粉砕し、日露戦争では大ロシア帝国を打ち破ったのだと。猿ごとき、簡単に駆除してみせると」


鉢金が頷いた。

「村長、安心してください。小鬼に怯える日々も終わりです。これからは、この方々が、あなたを守ってくれます」


村長が首を横に振った。

「客人、勝手なことをしてくれたな。あんた、小鬼の恐ろしさがまるでわかってない。あんたが呼んだ軍とやらは、小鬼に〝悲鳴〟をあげさせてしまった。奴らは仲間を傷つけられることを許さない。じきに大挙して押し寄せてくる。これっぽっちの人数ではなぶり殺しにされるだけだ」


「なるほど、なるほど」牧が微笑みながら銃を叩いた「長よ、我々はたしかに人数が少ない。不安に駆られるのも無理はない。だが、我々にはこいつがある」


村長が怪訝な顔をする。

「そいつは? 先程の雷鳴のようなものと関係あるのか?」


そのとき、鐘楼に登っていた男が叫んだ。

「やつらだ!やつらが来る!」

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