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6 残念な結末

最終章です。最後まで読んで頂いてありがとうございます!

 オッティ=カラヤント公爵がイザーク教会になんとかたどり着いた時、ちょうど教会の鐘の音が鳴り出して、周辺では人々の歓喜の声が湧き上がっていた。

 人々の目は大きな扉へと注視され、開かれるのを今か今かと興奮し、胸躍らせながら待っていた。その中にはもちろんカラヤント公爵も交じっていた。いよいよだ。ようやく会える!

 

 ギギギーッという音と共に大きく扉が開かれると、そこに、今女神の前で結婚を誓ったばかりの若い夫婦が現れた。

 新郎は黒髪に黒い瞳を持つ整った顔をした若者で、これ以上無いほど幸せな顔をして新婦の横顔を見つめていた。

 そしてその新郎の左の手で優しく腰を支えられている花嫁は、まるで教会の女神像のように、この世のものとは思えないほど美しかった。

 薄茶色のウェーブかかった艷やかな髪に、薄水色の優しくて大きな瞳。スッと伸びた鼻。愛らしい形のいい唇。そして雪のように白い肌。

 純白のウエディングドレスはシンプルだったが、それが余計に彼女のスタイルのよさを強調していた。

 美しいその顔は、喜びに溢れて幸せそうに輝いていた。長い間ずっと思い続けた人とようやく今結ばれたのだから。

 

 花嫁の姿を見た人々は呼吸を止めた。ああ、なんて美しい人なんだろう。あの聖女様、英雄様になんてお似合いの方なんだろう。

 一瞬の間の後、教会周辺から歓喜の声が上がった。そしてそれは伝染して、大きなうねりとなって都中に広がって行った。

 

 人々の祝福と薔薇の花びらのシャワーを浴びながら新郎新婦は長い階段をゆっくりと下りてきた。そして残り数段という所で、人々の祝福の声に混じって花嫁の母親の名前を呼ぶ声がした。

 

「ロゼリア! ずっと会いたかった! ずっと君に会いたかった。君に相応しいのはそんな黒髪の男じゃなくて、金髪碧眼の正統な高位貴族の私だよ。ロゼリア!」

 

 カラヤント公爵の手が花嫁の腕を掴もうとした瞬間、彼は大勢の男達に体を拘束された。そして頭上から声がした。

 

「乱心者を取り押さえろ! 国民全員が待ち望んでいた結婚式にけちをつけるとはなんという不届き者だ。絶対に容赦はないぞ!」

 

 公爵である私になんて不敬な発言をするのだ、こちらこそ容赦しないぞと顔をあげると、そこにいたのは皇太子殿下だった。

 

「お前は何者だ?」

 

 何者って、オッティ=カラヤントですよ。名門公爵家の・・・

 

「申し訳ありません、殿下。最近夫は気の病にかかっておりまして、屋敷に閉じ込めておいたのですが、抜け出して来たようです。どうかご容赦下さい」

 

「そうか。正気でないのであれば仕方がないだろう。しかし、二度とこのような事をしでかさないように、今度はきちんと人を付けておきなさい。そして家督を君が継ぐ手続きを速やかに履行しなさい」

 

 皇太子殿下はカラヤント公爵夫人からその子息であるアンドレアへ視線を移してこう命じた。

 

「はい、心得ました。殿下。

 父が本当にご無礼な事をして申し訳ありませんでした。ユーリ様、ジュリエッタ様」

 

 アンドレアが頭を深々と下げると、若い夫婦は彼にニッコリと微笑んで、また前を向き直し、何事も無かったかのように歩を進めた。

 

 流れるように一切の無駄なく進められている会話に、たった今カラヤント前公爵となったオッティは茫然自失となった。

 見上げた先には息子のアンドレアと妻のマーガレットが礼服姿で立っていた。何故マーガレットがここに居るんだ。そう言えば今朝妻の姿を見かけなかったが、今の今までそんな事は気にも留めていなかった。

 自分にもっとも相応しい妻はロゼリアだ。マーガレットなんてただの代用品だったのだからもう要らない。ジュリエッタの存在を知った時からオッティはそう思っていたのだ。

 

「本当に最後の最後まで残念な男だったわね、オッティ! ロゼリアだけでなく彼女の娘にまで手を出そうとするなんて。お生憎様! ジュリエッタは今さっき私の正式な娘になったのよ。この私にあなたごときが敵うとは思っていないでしょうね!」

 

 そう言い放ったのはカラヤント元公爵の元婚約者だったグロリアスだった。

 

 オッティが振り返ると新郎新婦が人の輪の中へ消えて行った。そして彼の体が崩れ落ちるのと同時に数人の護衛騎士達によって、人々の流れとは逆方向へと運ばれて行った。

 

 もう二度とロゼリアの姿を見る事は出来ないだろう。しかし彼は思った。ジュリエッタはあのユーリとかいう黒髪の男に奪われたが、もう一人いるではないか、ロゼリアにそっくりの子供が。男だって構いやしない。彼女に似ているのだから。彼とアンドレアを結婚させればいい。そうすれば私はロゼリアとずっと一緒にいられる・・・オッティは嬉しそうに微笑んだ。

 

 だが元カラヤント公爵は残念な事に、大切な事実を知らなかった。ジュリエッタと双子の兄べルークが同一人物だという事を。

 花嫁はオッティ=カラヤント公爵のような輩に目をつけられぬように、ずっと男装していたという事を・・・


この話は、完結した「お節介な中間子は、悪役令嬢と駄目皇太子の破滅フラグの阻止に尽力する!」のスピンオフです。こちらを読んで興味を持って下さったら、是非、「お節な中間子〜」の方も読んで頂けたら嬉しいです! 新郎新婦の結婚式に至るまでのお話です!

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