表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

1  結婚式

とても残念な公爵様のお話です。

教会へ向かう所から始まり、何故急いでいるのかその訳を説明しているうちに教会へたどり着き、そこで公爵様は残念な結末を迎えます。そんなお話です。

読んで頂けたら嬉しいです。

 秋薔薇が美しく咲き誇る、とある晴天の日に、都のこぢんまりとした教会で一組の若いカップルが結婚式を挙げた。

 新郎は伯爵家の二男で城で働く文官、花嫁は男爵家の娘。爵位のない若者の結婚であったが、その式には王太子夫妻と弟殿下を始めとして、国の中枢にいるそうそうたる人物達が揃って参列していた。

 そして教会に入れなかった多くの市井の人々も、街中で祝福の声を上げていた。

 

 何故こんなに都中の人々が喜んでいるのかというと、新郎は当然男ではあったが、人々から聖女様と呼ばれていた。しかも、文官でありながらこの国一番の魔力持ちの若き英雄として、人々から大変人気があったからだ。

 

 長年行方不明になっていた癒しの魔剣を見つけ出し、魔人化してしまった冒険者達を人間に戻し、彼等の社会復帰に尽力した。

 年に一度の懺悔の日には、もう一人の聖女様と共に癒しの歌声で人々の悲しみを癒してくれた。

 街中に増え続けていた野犬を減らす為に、動物愛護センターなるものの設立を提案してくれた。

 密輸や詐欺をしていた悪党男爵一味を一網打尽にする作戦を立案した。

 長年放置していた国有地で魔力持ちによる競技大会を開催して、魔力持ちのストレス解消を兼ねた、樹木の間伐を行って、森の再生をし、国民の憩いの場を作った。

 そして・・・・・

 国有地の最奥で、冒険者や騎士や軍人の憧れの温泉を掘削した。それまで都では温泉が出ず、怪我を負っても、遠い温泉地へ行くしかなかったので、武人達は皆歓喜乱舞した。しかもそれを貴族で独占しようとしたのを阻止して、市井の人々も自由に利用できるように提言してくれた。

 その上、婚約破棄寸前だった王太子殿下と公爵家の令嬢の仲を取り持って復縁させ、無事に二人を結婚させた。そのお陰で二ヶ月前には双子の王子様まで誕生している。

 

 まだ十九歳という若さで王室と国と国民の為に、これだけの功績を上げたというのに、彼が陛下に望んだ褒賞は、己の結婚の承認だけだったという。

 

 彼は幼い頃に屋敷に仕える執事の娘と婚約していたが、彼女は病弱でほとんど外へ出られなかった。

 しかし彼は数多の良家からの縁談を断り、ずっと彼女だけを愛し、ずっと支え、ずっと守り続け、健康を取り戻した婚約者と、今日ようやく結婚の日を迎えたのだ。

 この一途な二人のロマンスに国中の人々が感動し、夢中になった。しかも、英雄の婚約者が病弱の為に今まで表に出てこず、その花嫁の事がベールに覆われて謎だったので、なおさら人々の興味を引いたのだった。

 ただ花嫁の双子の兄が花婿の侍従をしていて、その彼が絶世の美男子だったので、きっと花嫁も美しいに違いないとみんなの期待は膨らんでいた。

 

 そんなお祝いムードで盛り上がる人々で溢れかえる街中を、人波に揉まれながら教会へと向かう紳士がいた。本来ならば街中を馬車を使わずに徒歩で進む事などあり得ない人物だった。

 その紳士の名前はオッティ=カラヤント公爵といった。

 

 王家の血が流れる高貴な家柄の当主が馬車を降りて歩くと言い出した時、お付きの者や護衛達は大慌てだった。

 街中まるで祭りの日のように人でごった返し、道は渋滞して馬車はまったく動かなかった。急遽警護隊の騎士達が駆り出されて、交通整理をしていたが、全く馬車は進まない。

 これでは結婚式が終わってしまう。

 それで焦った公爵は歩くことにしたのだ。どうしても結婚式に間に合わねばならないからだ。いや、正確に言えば、式に参列する訳ではないので、式終了後に教会の扉が開く前までに到着できればよいのだが。

 

 屋敷で働く者のうちある程度年齢がいっていた者ならば、何故当主がそれ程までして教会へ行きたがるのかを察する事ができたであろう。だからこそ今日付き従うのを嫌がり、結局年齢の比較的若い者が任に就かされたのだ。

 

 カラヤント公爵家の嫡男であるアンドレアは昨日で学校生活を終えた。今日は同級生である友人の妹の結婚式に参列する為に、朝早くから身支度を整えていた。

 アンドレアは屋敷を出る前に父親に念を押した。

 

「結婚式には絶対に来ないで下さいね。ジェイド伯爵家やカスムーク男爵家の皆様と顔を合わせてしまうとご迷惑をおかけしてしまいますから。

 今日はユーリ様が待ちに待った大事な大事な結婚式なんですから、何か問題を起こしたら、我が家は貴族だけでなく、民衆の総スカンになりますよ!分かりましたね?」

 

 事情を知らない使用人はその様子に目を見張った。公爵家において当主に逆らう者など誰もいない。そう、奥方やご子息だとしても。しかし古参の者達は知っている。三年程前から嫡男のアンドレアから父親への尊敬の念がなくなっていた事を。

 

 カラヤント公爵家は先代の時から、筆頭公爵家であるイオヌーン家と、ジェイド伯爵家から付き合いを断たれている。この事により、名門カラヤント公爵家は陰で斜陽公爵家だと噂されている。

 なにせイオヌーン公爵は国王陛下に代わって国を治めている実力者の宰相で、ジェイド伯爵夫人はそのイオヌーン宰相の姉だったからである。

 本来ならばアンドレアも、いくら自分の家の方が格上といえど、かつて散々迷惑をかけ、王家から付き合いを禁じられているジェイド伯爵家と付き合えるはずがなかった。

 しかし、ジェイド家の二男ユーリは、親と子は別人格だという考えの持ち主で、アンドレア個人の能力と人間性を高く評価して、友人の一人に加えてくれたのだ。

 アンドレアにとってユーリこそが最も尊敬している人物で、彼の役に立つ人間になりたくて、卒業後は城勤めをする事が決まっている。ユーリ信奉者である彼にとって、父親は目障りなだけの存在だった。

 息子の蔑む目に唖然として、親に対する無礼な言動を公爵が怒鳴りつける前に、息子は屋敷から出て行ってしまった。

 

 公爵とその嫡男のやり取りを見ていた執事はそそくさとその場を離れた。彼がどんなに止めても主は目的地へ向かい、そして問題を起こし、帰宅後に親子で罵り合う事になるだろう。その際何故父を止めなかったのかとご子息に責められたらたまったもんじゃない。用事があって自分はその場にいなかった事にしなければならない。そう遠くない未来、主は代わる事になるだろうから、次期当主には悪く思われたくないのだ。

初めて話を短めにまとめられました。なるべく続けて投稿しますので、最後まで読んで頂けると嬉しいです。

応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ